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中国を「世界の工場」に育てた米国が習近平を憎みはじめた真の理由

終わりが見えない米中の対立。オバマ政権時代までは経済面での価値観を共にし、アメリカが中国を経済大国に押し上げたとも言える関係が、なぜここまでこじれてしまったのでしょうか。メルマガ『j-fashion journal』著者でファッションビジネルコンサルタントの坂口昌章さんは、米中及び日本の製造業のあり方からその謎に迫ります。そして見えてきたのは、似た者同士ゆえに反発が生じ手詰まりになる中国の姿と、異質であるがゆえに復活のチャンスがありそうな日本の姿でした。

日米中の製造業を考える

1.自由主義経済のメリットを享受した中国

中国は、共産主義を維持しながら、自由主義経済のメリットだけを最大限に享受した国家である。1978年、中国は改革開放政策を打ち出し、海外資本を導入した。当時の中国の最大の魅力は、人口の多さと人件費の安さだった。

先進国の企業経営者は、労働力不足と賃金の高騰、労働争議等に悩まされてきた。そして、先進国の投資家は成長の可能性のある市場を求めていた。米国、EU、日本は、中国に資本、生産設備、生産技術を供給し、中国を「世界の工場」に育てた。

ある日本企業は、日本国内では自社の製造技術を継承することが困難と考え、中国に工場を移転した。多くの社員は中国に赴任した。中国人の従業員は、真面目に技術の習得に励み、日本国内並の製造技術を体現してみせた。

しかし、中国人と日本人の気質は異なる。日本人は職人的気質を持っており、「一つの仕事に生涯をかける」という気概を持つ人も多い。しかし、中国人は商人的気質が強く、技術の習得も利益のためであり、更に儲かる仕事が見つかれば、躊躇なく転職していく。

そして、収入が増えれば誰もが投資を考える。コツコツと働くよりも、簡単に資産を増やす道に進む。一つの仕事、産業にこだわらず、貪欲に利益を追求していくのである。正に資本主義的であり、自由経済そのものである。

中国は「世界の工場」となったが、儲からなくなれば、簡単に工場を閉鎖するだろう。技術レベルを上げるのも、お金で技術を買った方が安く、早いと考える。かつては、日本人の技術者を先生として学んだが、それより、日本企業を買収した方が効率が良いことに気がついたのだ。

2.米国は中国を育て、切り離す

こうした合理的な思考は、米国とも共通している。事実、オバマ大統領までのアメリカは、中国と価値観を共にしていた。中国に投資し、中国をWTOに加盟させ、中国企業をアメリカ市場で上場させることが、アメリカの利益に直結していたのである。

同様に、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア等のEU諸国も積極的に中国に投資し、中国を相手にビジネスを強化していった。そして、中国市場を相手にビジネスを展開し、中国の資本力に期待した。中国は共産主義国家だが、ビジネスの場面では自由主義国と変わらなかった。

中国は習近平首席が誕生するまで、共産主義国家としての野望を外に出さなかった。そして、経済力を蓄えていたのだ。中国は世界第2位の経済大国となり、一帯一路を提唱し、アフリカへの投資を増やし、国連での影響力を高めた。このままいけば、5Gの普及と共に、中国のファーウェイは世界市場を席巻していたかもしれない。

しかし、2020年になって状況は一変した。中国発のCOVID-19が世界的に感染拡大し、世界経済、世界市場は停止した。中国政府は情報を隠蔽し、そのことが被害を拡大させたとして、米国は中国の責任を追求した。更に、中国政府は香港国家安全維持法を施行し、民主活動家を弾圧した。米国政府は直ちに香港人権法を施行し、関係者に制裁を課した。

米国が在中国領事館の一つを閉鎖し、中国も報復措置として在米国領事館の一つを閉鎖した。この頃から、米国は明確に中国とのデカップリングを具体化していく。こうして一つの世界というグローバリズムは終了した。

3.グローバル経済に依存していた中国

中国は、世界で最も自由主義経済を信じていたと思う。お金さえ出せば、いつでも何でも購入することができる。だから、技術を開発するより、買ってきた方が早いと考えたのだ。しかし、米国の規制によって、必要な部品が入手できなくなり、米国の技術を使ったソフトも使えなくなった。あと一息だった5Gにおける世界制覇も今のところ、完全に封じられた形だ。

一帯一路で多大な資金を投入した国も、中国の味方にはならなかった。金でつながっても、金の切れ目が縁の切れ目だ。多分、中国は米国も同様に考えると思ったのだろう。中国とのデカップリングは米国にも大きな経済的損失を与える。経済的に考えれば、どこかで妥協するはずだ。

しかし、その思惑は裏目に出た。米国は徹底的に中国を切り離しに掛かっている。サプライチェーンを見直し、新たな経済圏を作ってでも、中国を切り離すつもりだ。米国は製造業を国内に戻すと言っているが、米国のコストで製造業が成立するのだろうか。誰が、儲からないビジネスをするのだろうか。本当に工場で働きたいアメリカ人はいるのだろうか。

中国でさえも、人件費が上昇し、製造業を維持することが困難になっている。製造業より儲かる産業があれば、そちらに転向したいと考えているだろう。そこで、ハイテク、バイオ、ナノテク等の技術を集め、企業を育成しているのだ。

米国は軍事力と金融ビジネスで世界をリードしている。しかし、金融ビジネスは常にバブル崩壊の危険性をはらんでいる。世界の金融市場は連携しているので、中国の不動産バブルの崩壊が米国にも影響するだろうし、米国のジャンク債市場が破綻すれば、日本の年金も消えるかもしれない。

4.異質な日本の経済システム

どんな商品も大量生産すれば、最終的にはコモディティ化し、価格が下落する。そして、利益率も低くなる。これは製造業の宿命だろう。米国が製造業を捨てたのは、製造業の利益率の低さではないか。

しかし、金融もバブル化し、それが崩壊するというリスクから逃れられない。リーマンショックの後も、本質的には変わっていない。新たな金融商品を開発し、それを世界中に売っている。このままなら、再び破綻が起きるだろう。

米国と中国のビジネスはよく似ている。違いは、政治体制だ。中国は、共産党一党独裁であり、国全体を一つの方向に向けることができる。個々の企業やビジネスで採算が取れなくても、国家全体が世界の中で優位に立てればいいのだ。

全ては戦略的に、世界の中で覇権を取るために活動している。これは米国も同様だ。ビジネスでは企業単位で動くが、安全保障や軍事的な驚異に対しては、中国同様に国を挙げて対抗する。その裏付けは、軍事力と機軸通貨ドルの力である。

中国は経済力はあるが、軍事力が弱く、人民元の通貨としての力も弱い。強い経済力も中身は組み立て加工が主であり、技術、部品等は他国に依存している。そのため、グローバル経済が止まれば、何もできなくなるのである。

日本は小規模ながら、自立している。反面、グローバルビジネスでは勝てない。日本人は米国人や中国人のように利益を追求して次々とビジネスを換えていくのは苦手だ。反面、継続、伝統、継承することに価値を見いだしている。従って、製造業が儲からなくなっても、繊維産業が儲からなくても、細々と事業を継続している企業があり、そこで働く人がいる。

日本は、技術はあるが、事業化することが苦手だ。もしかすると、日本は未だに貨幣経済、資本主義に馴染んでいないのかもしれない。もし、世界が分断され、他国を侵略する行為がなくなれば、日本は優位に立てるかもしれない。日本が優位に立つ条件は絶対的平和である。

グローバル経済とは究極まで分業化を進めることだった。ローカル経済はローカル単位で経済を自立させることだ。大量生産をしなければ、コモディティ化は起きない。単価が上がり、数量は減少する。

理想は、一人の人間が最初から最後まで一貫して商品を作る。当然、品質や出来上がりにムラがあるし、商品の完成度も低くなるだろう。それでも、工業製品にはない魅力はあるはずだ。企業が零細、個人レベルになれば、株式市場にも影響されない。逆に言うと、投資する機会は少なくなる。そして、自給自足に近づけば、貨幣経済の比率も少なくなる。

米国と中国は良く似ている。似ているから争うのかもしれない。それに比べて、日本は異質だ。異質であることを逆手にとって、独自の経済システムを発展させることが、日本人の幸せにつながるのではないか。

編集後記「締めの都々逸」

「似た者同士で 角突き合わせ どちらも引かずに 動けない」

米国と中国は似ています。考え方が、そっくりです。似ているから、仲良くなれたし、似ているから張り合っているようにも見えます。日本人から見れば、どちらもならず者です。常に他人から奪うことを考えています。それが国際ビジネスというものなのでしょう。

日本人は他人から奪うのが下手で、ビジネスも下手です。だから、平和が一番。そんな生き方はできないのかな?(坂口昌章)

image by:FivosVas/Shutterstock.com

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