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デジタル庁長官は南場智子氏?DeNA創業者に立ちはだかる2つの問題

平井卓也デジタル改革担当大臣の「デジタル庁のトップは女性がいい」という発言を受け、その候補として名前が取り沙汰されているDeNA創業者・南場智子氏。実績だけを見れば適役のようにも思われますが、一筋縄ではいかないようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、南場氏をデジタル庁のトップとするのにふさわしくない「2つの問題」を指摘しています。

デジタル庁長官、南場智子氏で上手くいくのか?

平井卓也IT担当相は、2021年に創設を目指すデジタル庁のトップ人事について、「何も決まっていないが、(恐らくは民間の)女性がいいと思っている」とTVの報道番組の中で語ったそうです。(共同通信電)

そこで誰もが頭に浮かぶのは南場智子氏の名前です。女性経営者としてDeNAを創業、年商1,400億円の大企業に育てたのは事実ですし、横浜DeNAベイスターズのオーナーとしても著名です。つまり、菅総理の地元つながりということもあるわけです。

南場氏の実績を考えると、良さそうな人事ですが「ちょっと待った」と言わせていただきたいと思います。南場氏については、2つの問題があるからです。

1つは、南場氏は女性の社会進出について、やや問題のある姿勢を取り続けてきたということです。

それが見える形で出たのが、2013年にフェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ氏が来日して、著書『リーン・イン』の発売キャンペーンの一環として、南場氏との合同講演会を行った時のことです。

サンドバーグ氏は、当時はフェイスブックのイメージはそんなに傷ついていなかったですし、「時の人」でした。そして、この著書は、全米でベストセラーとなって、日経が日本語版を出した、この時はその関連イベントだったのでした。

タイトルの「LEAN IN」とは「更に一歩踏み出す」という意味であり、女性が本当に男性と平等・対等に渡り合うために、ジェンダー・ステレオタイプを払拭するとともに、あらゆる賃金差別に抗議して行こう、そうした思いが込められていたのです。

ですが、その場に登場した南場智子氏は、「私は仕事において、女性であることで損をしたことがありません」とか、「今日はとてもアウェーな感じ」と言ってのけたのです。

私は当時、その動画を見て大変に違和感を感じたのですが、南場氏を知る人からは「南場氏というのはそういう人」だという解説があり、それも一人ではなく、何人もの人からそうした声を聞いて余計に驚いた記憶があります。

こういうことだと思います。南場氏という人は、仕事の上の困難に直面した時に、この困難というのは理不尽だ、あってはならないことだと怒ったりするのではなく、あらゆる困難というのは与えられた条件なのだと受け入れて、それに対して独特の才能と努力でそれを乗り越えてしまう、そういった人なのだと思います。

それはいい意味でそうであり、だからこそ圧倒的に遅れていた日本においてオンラインゲームの環境を確立するなどの実績を残したのだと思います。そんな南場氏にとって、ジェンダーが絡む困難というのも、例えば土地を買ったら水はけが悪いので排水ポンプが必要で、許認可もコストも大変だとした場合に、そこを知恵と熱意とでクリアしてしまう、そんな感覚で乗り越えてしまったのだと思います。

水はけの悪い土地を買ってしまって、払込も登記移転も終わってから、水はけが悪いと怒っても仕方がありません。ですから、許認可を得るべく書類の書き方を研究し、筋の良い行政書士を見抜いてチームを組み、ボッタクリをしない施工業者を選んで施工する、そんな努力をするしかないわけです。

南場氏にとっては、ジェンダーも同じことではなかったのかと思います。この国の権力者は全て高齢男性で、女性を格下の存在として見ているだけでなく、女性がハッキリものを言ったり、対抗してきたら自分の自尊心が壊れてしまうようなガラス細工の脆いものだなんてことは、「水はけの悪い土地」と同じように受け入れるしかないので、怒ってもダメでしょ、だったら自分の側が損をしないように動けばいいのよ、そんな発想法が身についている、そう考えるのが自然です。

問題はもう1つあります。

ジェンダー問題だけでなく、この国では新興のテック企業というのも、またテック関係のエンジニアというのも激しい差別に晒されています。賃金水準は安いですし、発注側が優位な地位を利用して不当な要求をしても反抗できない、そして業界全体が既成の財界から敵視されないか、気を使って動いている、そんな状況です。

ある渋谷系の大手企業の創業者は、「いつも堀江貴文氏が投獄されたという事実が念頭にある」つまり、この国の権力とか国家意志に逆らったらヒドい目に会わされる、そんな恐怖心に心のどこかが支配されていると語っていました。

考えてみればデジタル庁というのは、そうした国家意思の中にある守旧派と徹底的に戦わなくてはならない、それがタスクです。そう考えると、例えば企業を社会的に認知させるための保険として、多少高価でもプロ球団を買うとか、そこでオーナー会議の議長になってコミッショナーを通じて、国の中枢にコネをつけてもらうといった「実務をテキパキ」とやってしまった南場氏というのは、果たして適任なのかという疑問が湧いてきます。

ジェンダーということでも、テックの利用ということでも、この国は先進国中最低最悪であるわけです。ということは、それを与えられた「水はけの悪い土地」だというように、受け入れて自分が買った部分だけ実務的に対応して、「不器用」な努力で乗り越えるのではなく、そもそも全体の土地を改良する、つまりジェンダーの問題として、社会全体を変え、コンピュータ技術の利用ということでも、この国の仕事の進め方を変えなくてはならないのです。

どうせこの国は男性優位、この国の政財界は新技術なんて嫌っている、だから自分が変わればいいし、その自分の動き方は不器用に見えるかもしれないが、現実的にはそれで成功してきた…その種の人材は、ハッキリ言って守旧派を助けているだけです。そのようなアプローチでは、この老大国の中身の入れ替えなどということはできません。

但し、そうではない、もしもタスクとして官公庁のデジタル化、そして民間の事務仕事の徹底した省力化と生産性向上をやって、本当にGDPにプラスの貢献をする、そのための数値目標を設定して、その実現のために南場氏の才能を使うということでしたら、そして、南場氏も受け止めるだけでなく、変えるべきところは変える、そのために貴重な才能を惜しみなく使おうというのであれば、チャンスを与えるのも良いかもしれません。

ですが、また悪い癖が出て、どうせ相手は変わらない、だから自分側の努力で数値目標だけは達成するので、それで勘弁して下さい、不器用なので…などという姿勢で取り組むのであれば、その人事には反対です。

image by: Joi Ito, Flickr(CC BY-SA 2.0)

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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