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学術会議だけじゃない。「陰の総理」杉田官房副長官を証人喚問せよ

日本学術会議の会員任命拒否を巡り、実際に任命見送りの判断をした人物として、杉田和博官房副長官の名前が浮上し、法的な問題も含め議論の対象となっています。ジャーナリストの内田誠さんは、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、東京新聞に掲載された「杉田和博」氏関連の記事を抽出。内閣官房副長官に就任して以来、あらゆる課題の調整に「官邸側」として関与し、権力者としての存在感を増してきた姿をあぶり出すことで、問題点を指摘しています。

東京新聞は「陰の総理」杉田和博官房副長官をどう報じてきたか?

きょうは《東京》の番になります。1面左脇に、日本学術会議の会員任命に関わる記事があり、菅首相は1人1人をチェックしたのではなく、杉田官房副長官が実質的に除外の判断を行っていた可能性が指摘されています。

そこで、きょうのキーワードは「杉田和博」氏に。警察官僚として一貫して警備・公安畑を歩み、内調の室長などを歴任した後、第2次安倍内閣で内閣官房副長官に就任して以来、8年近くの長きにわたり、官邸で「事務方トップ」の官房副長官に止まり続けている人物です。

過去5年の記事が使える《東京》のデータベースで「杉田和博」を検索すると、280件ヒットしました。ちょっと多いですが、実はその多くは「首相の一日」、つまり首相の動静を記録する短信の中に名前が出てくるケース。つまり、首相と会った記録です。その多さは特筆すべきではありますが、きょうのテーマからは外しても問題ないでしょう。《東京》の検索は「NOT」も使えるので、「杉田和博 NOT 首相の一日」で検索し直すと、80件に減りました。

1面左脇の学術会議会員任命の問題についての記事。まずは見出しと、【セブンNEWS】第3項目の再掲から。

学術会議候補6人除外
「首相 1人ずつチェックせず」
杉田官房副長官が口頭報告

菅首相が日本学術会議から推薦された会員候補6人を任命しなかった問題で、加藤官房長官は「首相が一つ一つチェックしていくわけではない。1つの考え方を共有し、事務方に任せて処理をしていく」と発言。また、事前の判断に杉田官房副長官の関与も明らかに。

記事は、結局のところ加藤官房長官は「首相がどのように判断して除外を決めたのかは、明確に語らなかった」としつつ、「菅義偉首相が除外の判断に関与していなかったともとれる発言」、とも言っている。

●uttiiの眼

首相が判断せずに任命の可否を事務方に決めさせていたのなら、法律違反の可能性が出てくる。加藤氏曰く、任命拒否の過程は「通常のやり方に則って作業が進められた」として、「最終的には首相が決めている」と強調したというが、記者が取材した政府関係者によれば、杉田官房副長官が「任命できない人が複数いることを決済前に口頭で首相に報告していた」のであり、また別の官邸幹部は「(首相が)誰が任命されないかまで把握していたかは分からない」と語ったという。

既に菅首相は、学術会議提出の105人の推薦候補者名簿を「見ていない」と公言しており、加藤官房長官があとから「詳しくは見ていなかった」と“修正”を試みたが、詳しく見もせずに任命拒否の判断を下すことの問題性を考えれば、その罪は変わらない。

関連記事など

最近5年間の記事で「首相の一日」を除き、「杉田和博」の名が出てくる記事80件のうち、一番古いのは、伊勢志摩サミットや2020東京五輪のテロ警戒に関する記事。

2015年11月15日付
開催まで半年と迫る伊勢志摩サミットに関し、政府は内閣危機管理監を務めた杉田和博官房副長官をトップに、関係府省庁の局長級で構成する準備会議を設置した、というもの。警備・公安畑を一貫して歩んできた杉田氏をトップとするのは当然のことだったのだろう。

2016年1月26日付
2020年の東京五輪・パラリンピックに向けた受動喫煙対策強化の一環として、内閣官房や財務省、厚生労働省などによる検討チームが立ち上がる。座長は杉田氏。

*その後、健康増進法の法改正は難航するが、今年4月1日に飲食店や職場などの屋内が原則禁煙となる改正法が全面施行される。総合調整」の能力を高く評価されている杉田氏が座長でも、この議論は長引いた。

2019年4月14日付
名護市辺野古沖への新基地建設計画をめぐる代執行訴訟の和解を受け、実務者レベルで協議する作業部会を首相官邸で開いたという記事。政府は海上に設置した工事用資機材の一部撤去を検討する考えを示したものの、立ち入り禁止区域の見直しなどには応じられないとした。現場一帯を埋め立て承認前の状態に戻すよう求める県との温度差が浮き彫りになった、とする。この会合の政府側も杉田氏。調整の難しい場面にはいつも杉田氏の存在。

2016年6月22日付
沖縄県の翁長知事(当時)が地位協定の改定を求めて、政府、防衛省、米大使館に要請書を手渡す。政府側で要請書を受け取ったのは杉田氏。この後、天皇の退位問題に逢着する。

2016年7月14日付
菅義偉官房長官(当時)が記者会見で「政府としてのコメントは控えたい。(生前退位の意向は)全く承知していない」と述べた。その上で「皇族の減少にどう対応するか、杉田和博官房副長官の下、内閣官房の皇室典範改正準備室を中心に検討はしている」と説明した。ただ、準備室での退位制度の検討については、「考えていない」と否定した。天皇の退位の意向と抵抗する官邸が衝突する。

*カジノ法に関連しても「杉田」の名が出てくる。

2016年12月27日付
「政府は、カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)整備推進法(カジノ解禁法)の施行を受け、ギャンブル依存症の予防や相談体制などの対策を盛り込んだ基本法制定の検討に入った」と。基本法検討のための幹事会は杉田氏ら実務者で構成。

*その後、金正男氏死亡に際して、「杉田和博官房副長官を議長とする合同情報会議」が開催される。オリンピックも杉田氏で、2020東京五輪・パラリンピック連絡協議会の議長は杉田和博官房副長官。

2017年5月26日付
加計学園問題で、前川喜平前文部次官の証人喚問の是非が議論され、その過程で、杉田氏の名が出てくる。菅官房長官(当時)は「前川氏が認めた「出会い系バー」への出入りについては、杉田和博官房副長官が以前、前川氏に確認した上、注意したと明らかにした。菅氏はこれまで、前川氏の在職中には事実関係を把握していなかったと説明していた」

*少なくとも前川氏について、おそらくは公安警察が行動を把握し、情報として官房副長官である杉田氏に上がっていたのだろう。杉田氏の権力はさらに集積されていく。

2017年8月4日付
「政府は三日、府省の幹部人事を一元管理する内閣人事局の局長に、杉田和博官房副長官を充てる人事を発表」。政務担当官房副長官の萩生田氏に代わっての就任。

*森友問題でも官邸を代表して対処している杉田氏。

2018年3月15日付
「森友学園文書改ざんに関し、国交省の保管文書と、財務省が国会議員に開示した文書に相違があることを5日の時点で首相官邸へ報告していたと明らかにした。財務省はこの後も国会質疑などで「調査中」として改ざんの有無を明言せず、官邸側は国交省からの報告を公表していなかった」という。この「官邸側」は杉田氏のこと。

*西日本豪雨に際しても、省庁横断チームのトップは杉田氏。

●uttiiの眼

政権にとってその帰趨が大きな意味を持ってくるような重要課題は、当然だが調整が簡単ではない。そうしたテーマの悉くについて、杉田氏のコントロールのもとで政府内の調整が図られることになっていた。また、森友、加計問題のように、政権が政治的な窮地に陥ったような場合にも、杉田氏が対応を主導してきたようだ。

安倍氏や菅氏と背中合わせになったような存在であり、調整を通して権力を集積していったようにも見える。前川氏の「出会い系バー」通いの一件は典型的で、官僚の弱みとなり得そうな情報は、おそらくは古巣の内調や警視庁公安部の働きによって杉田氏が自由に使える武器になっているのだろう。皆、杉田氏に逆らえなくなってしまう。首相補佐官の今井尚哉氏を「陰の総理」と呼ぶ向きがあるが、杉田氏こそ、その名に相応しいかもしれない。

これだけ見てくると、杉田氏が日本学術会議の会員任命に当たって、事実上権力を行使し、警察情報などに基づいて6人の任命拒否をさせたとしても、何の不思議もない。国会に喚問して徹底追及すべきだろう。

【あとがき】

以上、いかがでしたでしょうか。5年遡っただけで、杉田氏の権力者としての姿がクッキリと浮かんできたように思います。「安倍1強」も問題でしたが、事務方トップの元警察官僚が各省庁の幹部人事から諸問題の調整まですべて掌握しているというのは大問題ではないでしょうか。

image by: Yuukokusya / CC BY-SA, 内閣官房内閣広報室 / CC BY

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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