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ホンマでっか池田教授が探る「物々交換」の未来。金と格差はなくせるか

コロナ禍で喘ぐ庶民を尻目に上がり続ける株価。資産があり余る人たちはさらに資産を増やし、問題視されているはずの貧富の差は拡大する一方です。それが資本主義の必然と言えばそれまでですが、貧富の差がなかった物々交換の時代から貨幣経済成立までを概観し、新たな貨幣の可能性を探るのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもお馴染み、メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』著者の池田教授です。先生は、貨幣の性質の中でも貧富の差を生む最大要因は貯蔵可能性にあると指摘。お金に有効期限があって貯められない場合について思考します。

物々交換の過去と未来

資本主義は何もコントロールしなければ、必然的に貧富の差を拡大させる装置である。その根本的な理由は、物と物とを交換するための道具に過ぎない貨幣の専制にある。物の売り買いによって生じる資本家の儲けは、上手に再配分させなければ、特定の法人や個人に蓄積し、結果的に貧富の差は拡大する。

法人や富裕層の税率を強化するとか、労働者の最低賃金を上げるとかすれば、多少は貧富の差の拡大は防げるが、法人税の税率は儲けに関わらず一定であり(日本では23.2%)、個人の税率も日本では4000万円までは累進課税であるが、それ以上は一定で(税率45%、1億円の所得でも10億円でも税率は45%)、相続税の累進課税も法定相続人の取得金額6億円までで、それ以上は一定である(税率55%、100億円相続しても、1000億円相続しても税率は55%)。これでは超富裕層の子孫はいつまでも超富裕層のままだ。

物やお金が国境を超えて自由に行き来している、グローバル・キャピタリズムの下では、法人の税率が高い国の企業は、国際競争で不利になるので、法人税は下がる傾向にある。実際アメリカのトランプ政権は法人税を35%から21%と大幅に引き下げた。アメリカは個人の最高税率も39.6%から36%に引き下げ、ために富裕層と貧困層の経済格差はますます拡がっている。アメリカが法人税を下げれば、他の国も自国の企業の国際競争力を確保するために追随せざるを得なくなり、グローバル・キャピタリズムをコントロールしない限り、貧富の差の拡大は世界的な傾向となる。

私は近刊の『環境問題の嘘 令和版』(MdN新書)で、物々交換こそが、行き過ぎたグローバル・キャピタリズムを牽制する力を秘めていることを述べたが、まずは物々交換から貨幣経済へ変化した歴史を概観し、その後で、物々交換の未来と新しい貨幣の可能性について考えてみたい。

今から1万年以上前、人類が50人から100人くらいの集団で暮らしていた狩猟採集生活の頃、物々交換で欲しいものを入手するということは滅多になかったのではないかと思われる。獲ってきた獲物や果物、種子などはみんなで食べ、誰か特定の個人の所有物ではなかったので、物々交換はまず起こりえなかったに違いない。

物々交換が起こるのは基本的には定住や農耕が始まり、穀物といった財を蓄えることができるようになり、他のグループと交流するようになってからであろう。風土が違うところに住むグループ間で、自分たちの特産品を交換したのであろう。

青森県に三内丸山という縄文時代の遺跡がある。今から5500年前から4000年前まで、1500年もの間繁栄した大規模集落であり、最盛期には500人ほどの人が暮らしていたと推定されている。クリの実を主食としていたようで、遺跡から出土したクリのDNA鑑定からこのクリは栽培したものであることが分かっている。他にもクルミ、トチ、一年草の栽培植物であるエゴマ、ゴボウ、マメなども出土した。さらにエゾニワトコの実を発酵させて、酒を造っていたことも分かっている。肉はノウサギとムササビが主で、シカやイノシシも狩っていたようだ。それ以外にも海産品も食べていた。

遺跡からは土器、石器のほか、交易で得たと考えられる黒曜石、琥珀、漆器、翡翠などが出土している。翡翠は上越地方から黒曜石は北海道などから船で運ばれてきて、三内丸山の特産品、恐らくクリと交換されていたものと思われるが、もしかしたら交換品は酒だったかもしれない。物々交換は三内丸山ばかりでなく、交流がある遠く離れた集落間で特産品が異なる場合は、比較的頻繁に行われていたのだろう。

しかし、労力をかけて運んできても、相手が欲しいとは限らないので、欲しい時に欲しいものを得られる道具として、物々交換していた商品の中から、耐久性に優れ、希少性が高く、嵩張らずに持ち運びに便利なものが、取引の道具として使われ出し、これが貨幣の起源になったというアリストテレス以来の商品貨幣起源説が長らく信じられていた。

近現代では貨幣として金や銀が使われることが多かったので、この説にリアリティを感じる論者は多い。ちなみに知られる限り最古の金属貨幣は紀元前7世紀のリディア王国(現トルコ)から出土している。

しかし、商品貨幣起源説には確たる証拠があるわけでないので、別の仮説もある。信用貨幣起源説は、取引は債権(請求)と債務(支払い)から成りたち、これは貨幣制度が導入される前から存在しており、貨幣はこれを具現化したものだという説だ。信用は互いによく見知った人の間でしか成り立たないため、良く知らない人と広く交易をおこなうために貨幣が導入されたというものだ。

ミクロネシアのヤップ島に石貨(フェイ)と呼ばれるものがある。主に冠婚葬祭時に送られる贈答品で、大きなものは持ち運びをせずに所有権のみが移行する。船や不動産の取引に使われ、これは信用取引の一種である。ヤップ島には他にも貝貨という貨幣があり、これは食品や日用雑貨の取引に使われたという。貝貨は我々が使用する貨幣と使い方は変わらない。

いずれにせよ、現在の貨幣の機能は、1交換手段、2価値尺度、3価値の保蔵手段だということは確かである。しかし、機能面だけからでは貨幣経済が貧富の差を拡大する原因を突き止めることは難しく、貨幣が持つ本質的な性質をまず考えなければならない。フォン・ヘーゲンは貨幣の性質として1貯蔵可能性、2交換可能性、3無名性を挙げている。

この中で、機能面から見た貨幣の性質で最も重要なのは交換可能性で、他の2つは無くとも、これだけで貨幣として機能する。しかし、資本主義が存続するためには残りの2つの性質も不可欠である。その果てに、少数の富裕層と大多数の貧困層が出現する。無名性は誰が使おうとどんな手段で手に入れようと、1000円は1000円ということで、貨幣に広範囲な流通可能性を与えた半面、手段を択ばず、儲かればよいといった非倫理的な心性を助長した。

最大の問題は貯蔵可能性である。資本主義は、禁欲的に労働に励む精神から始まったというのがマックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の主張である。禁欲的に労働に励んだ結果、利潤を得たのであるから、利潤の獲得と利潤追求の正当性は肯定されるべきだ、というのが資本主義の精神だ、というわけだ。儲けた金は貯蔵可能でそれを元手にさらに儲けることができる。かくして資本主義は金儲けとお金の蓄積を最大の目的とする装置となったのである。

利潤を最大化するには製品を生み出すコストを最小にしなければならない。そのためには、労働者の賃金を抑え、一次生産者(農業や漁業に従事している人)から仕入れる生産物を買いたたく必要がある。物々交換は資本家の介在する余地がないから、資本主義を潰す極北の方法である。貨幣が機能しなくなれば、資本主義は潰れる。しかし、物々交換は物を生産できる人々の間でしか機能しないので、都会で労働者として暮らしている人々には無縁なシステムである。

そこで、行き過ぎたグローバル・キャピタリズムを多少とも制御するために、貯蔵できない貨幣を使うことを考えよう。株式会社eumoを立ち上げた新井和宏さんは電子地域通貨eumoという通貨を考えて、2019年の9月から実証実験をスタートさせた。この貨幣がユニークなのは貯められない(基本3か月経つと使えなくなってしまう)ことだ。貨幣は貯められるので、多くの人はお金を貯めることを目的にしてしまう。物と物との交換のための道具だったものが、いつしかお金が一番大切といった倒錯に陥ってしまったのだ。(メルマガより一部抜粋)

image by: Shutterstock.com

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