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「小室圭問題」よりも遥かに深刻。いま皇室制度が抱える真の危機

これまでも長きに渡り重ねられてきた、皇統維持をはじめとした皇室を巡る様々な議論。その問題の本質はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、絶対的な中立性そのものである「ロイヤル・プロトコル」とも呼ぶべき皇室の立ち居振る舞いの継承こそが重要であり、現在それが危機に瀕していると指摘。さらに、このような状況下で考えうる2つの問題解決策を提示しています。

行き詰まる皇室制度、ソコじゃない問題点

秋篠宮家の縁談停滞に加えて、突如降って湧いた皇女構想など、皇室を巡る状況がスッタモンダしてきました。これに加えて、皇統維持の問題があります。近い将来に女性はともかく女系天皇にするか、あるいは伏見宮系統などの超遠戚男系にするかなどという対立でゴチャゴチャするようだと、象徴天皇制度などというものは、風に煽られる葉のように揺さぶられて消えてしまうかもしれません。

確かに、今回の縁談停滞、皇女構想、皇統維持というのは全部1つにつながった問題です。

「現在の皇室典範に定められた明治以降の男系男子ということでは、やがて皇統が途絶えるかもしれない」

「だったら、女性天皇、女系天皇の問題を真剣に考えなくてはならないし、その一歩として女性宮家を置くとなると保守派が抵抗するので、皇女ということにしよう」

「と思ったら秋篠宮家の縁談問題がどんどん深刻化する中では、女性宮家にしても皇女にしても配偶者が世論に拒否された場合は機能しないし、縁談を強引に進めると関係する皇族への世論が厳しくなって、最後には皇室制度そのものが揺らいでしまう」

ということで、何ともはや厳しい事態になってきたわけです。そうは言っても、世論の意識としては、例えばですが、様々なスキャンダルに見舞われた際の英王室に対する英国世論のあり方に似てきたとも言えます。つまり別に特別なものではなく、前例のある話というわけです。つまり、納税者として言いたいことは言わせてもらうし、世論を全面的に敵に回したら君主制度が危ういという構図は、全く同じだからです。

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その英王室に関して言えば、悲劇の母親という伝説を背負った王孫の長男一家が世論の支持を回復したことで、当面の、それも相当な安定を見ているわけです。ですが、そのぐらいのドラマチックなプロセスを経ないと、再度の小康状態には至らないということを考えますと、日本の皇室の場合は、前途多難という感触が全くもって半端でないわけです。

今回の縁談停滞問題については、秋篠宮殿下は「結婚と婚約は別」という謎めいた発言をしています。皇室ジャーナリストの多くが指摘しているのは、「皇室における婚約」は納采の儀など正式な儀式が多く、そのたびに世論を刺激してしまうので最後には報告を受けて承認をするプロセスを含めると、今上両陛下まで傷がついてしまう、けれども結婚は憲法の規定で勝手にできる、つまり婚約プロセスを飛ばして一気に臣籍降下から結婚へという話ではないか、そんな解釈が可能だというのです。

そこまでやって、しかも支度金を相当に減らせば何とか世論を鎮めることができるかもしれない…つまり非常に追い詰められているわけです。ですが、仮にそこまでやってしまうと、新夫妻は公務では「使えない」ということで、明らかに現役世代の成年皇族は1人減ってしまいます。ですから、問題の先延ばしというだけでなく、問題はジワジワと首を締めるように一族全体に迫ってきてしまうのです。

では、現時点で問題を直視する、つまり皇統維持の問題から逆算して皇女なのか、女性宮家なのか、あるいは皇嗣の君に順位1位を返上していただいて、改めて女性皇太子の立太子をするかどうか、そこまで考えて、内閣の1つや2つ潰す覚悟で皇室典範改正へ向けて国民的大論議をやる、その際にはトランプ再集計と同じように、何とか暴力沙汰だけは避けて…という話にすれば良いのでしょうか?

この問題ですが、どうも私には「ソコじゃない」という感じがしてなりません。

どういうことかというと、問題の本質は皇統維持ではなく、皇室のデイリー・ルーチンすなわち公務という点にあると考えられるからです。

皇室の公務とは何でしょうか?それは絶対的な儀式性ということです。

一言で言えば、イベントや手続きのスタイルが、無形文化財レベルに再現できるということです。じゃあ、徹底的にスピーチを練習し、マナー講師の親玉みたいな人を引っ張ってきて訓練すればいいのかというと、これが結構厄介なのです。

この無形文化財的な皇室の立ち居振る舞いのことを、仮に「ロイヤル・プロトコル(RP)」と呼ぶことにしましょう。このRPとはなにか、それは絶対的な中立性です。

戦没者の慰霊祭にしても、あるいは災害被害への慰問にしても、福祉施設の視察にしても、本当のことを言えば政治的中立などということはあり得ないのです。ですが、それでもそのイベントの中で、例えばスピーチの読み方や、所作の中に「濁った何か」があると、どうしても政治的な匂いがしてしまいます。

例えば、福祉施設への視察をしたとして、「弱者救済のために、もう少し何とかならないものか」的な表情ないし、ニュアンスが少しでも出てしまうと「時の政府は福祉の予算をケチっている」とか「だから現在の内閣はダメだ」といった政治的な濁りが出てしまいます。それをやっても良いという考え方もあるかもしれませんが、厳密に言えばそれをやってはオシマイなのです。そうするとRPのオーラは消え失せて、そこにあるのはタダの人、その儀式はタダの形式になってしまいます。

いやいや、どうせ宮内庁が書いて内閣府がチェックしている内容なら、毒にも薬にもならない中身でしょ、とか、内閣府が「助言と承認」しているのなら、結局は現体制の肯定ということで、濁っているのには変わりはないでしょ、などという声が聞こえてきそうです。

ですが、そこはサスガに宮内庁さんですから、どういうわけか「現体制を批判しない、肯定する、でも政治的な濁りは最低限」という不思議な原稿を用意できてしまうのです。一説によれば先代も含めて、陛下自身にそのノウハウがあるという説もありますが、それはまあ現代の皇室は機関説の究極をやっているのですから、どっちでも同じです。

その原稿の上に、とにかくそこはやはり百戦錬磨の無形文化財である陛下ですから、他の誰にもマネのできない高度な口跡で、スピーチをやってしまうわけです。総理大臣以下の俗人であれば、同じ原稿でも賛成とか反対とか、あるいは自信のなさとか過剰な自己顕示とか、とにかく俗っぽい濁りを生じさせてしまうところを、とにかく一切のブレなく透明にやってしまう、これは大変なスキルであるわけです。

強いて言えば、政治的に両論があるならそれをしっかり聞き、その上で現代の日本の「国のかたち」の真ん中の狭いゾーンを確認し、そこに生身の自分の濁った意見を照らし合わせた上で、深くそのゾーン内に自分で一歩踏み込んで、その中心を探り当て、そこから微動だにしないでスタイルを積み重ねる…そんな感じでしょうか。今上も、先代もそうやってスキルを磨いてきたのだと思います。

皇后さまの場合は成人してからの、しかも試行錯誤もあるやに聞いていますが、同じように「ゾーンの中心」を探り当てる生き方へと進まれているわけです。代替わりの前は、宮中祭祀に関してまだそのゾーンの中へ入れないでいるという「説」もあったわけですが、結果的にそれは杞憂でありました。

両陛下と比較すると、他の皇族方というのは、まったくそのゾーンは広いし、中心からはブレるし、そもそも自分の濁りを意識するような冷めた自分も含めた「機関」としては未完成です。秋篠宮さまが自分は帝王学を学んできていないということを、機会あるごとに言われていますが、恐らくそのとおりで非常に危惧をされる部分です。しかもこの方の場合は、帝王学の定義にも近づいていないので、学んできていないことへの危機感自体が、ゾーンからズレまくっている感じもあるわけです。

であるにしても、秋篠宮さま以下の皇族についていえば、それでも凡人である政治家や経済人、文化人のように濁ったダメダメの人間と比べれば比較にはなりません。やっぱり「公務」として皇族が出てこないと「サマにならない」という局面があるのはそのためです。

例えばある学術会議があって、その開会式に「公務」として皇族がスピーチするという慣例があるとします。その場合に、皇族が減ってくると、そのレベルの「公務」はとても対応できないとして、会議のメンバーが互選した代表などがスピーチをしたとします。

そのスピーチに、例えば前代表批判のニュアンスが出たり、政府の介入への反発ニュアンスが出たり、俺様あるいはワタクシは偉い的な押しが出たりすると、結局はその開会式の重みは失われます。一番の問題は、スキルのない俗人が「毒にも薬にもならないスピーチ」をやると、魂が抜けてその場が本当に弛緩してしまうのです。

例えば保守派の総理が広島の原爆忌へ行って、用意された原稿を読むと「棒読みだ」という批判を受けるということが良くあリます。あれは心の奥に「核武装論を秘めて」いて、「偽善」的な「過ちを繰り返しません」的なメッセージを嫌っているから「あそこまで嫌味な棒読みをする」のだと思っている人が多いと思います。私もそう考えていましたが、RPという概念を考えてみると、違うことがわかります。

小泉純一郎氏も安倍晋三氏も、あの場で「膨大な死」と向かい合いながら「政治的な矛盾、つまり核の傘と非核願望、自主防衛と核武装の願望、親米と反米の情念」がゴチャゴチャに混ざりあったあの慰霊碑の炎の前では、どのように喋るのか、つまりその重さと複雑さを受け止めるだけの、語りのスキルもスタイルも持っていなかったのだと思います。だから、棒読みしかできないのです。

そこへ行くと、皇族の場合は別にその分野の専門家でなくても、明らかに「その場の中心点」を探り出して、そこでブレなく話すということが出来るわけです。歴史的な慰霊祭などだけでなく、国体なり植樹祭といった地味な行事でも「社会的意義」を認める中で、全く透明だけれども退屈させない不思議なスピーチをやって開会の雰囲気作りが出来るわけです。

それが福祉団体の定例会などになると、皇族の「RP効果」は抜群となります。予算をもっとよこせ、でもないし、お涙頂戴でもないし、世間への恨みツラミでもない、無色透明だけれども現場をリスペクトして、その活動を世に知らしめるということでは全くマイナスでなく、プラスである、そこにはやはり無形文化財的な口跡と、摩訶不思議な原稿が必要になるわけです。

外交などになると、RPというのは誰にもマネのできないレベルになるわけです。例えば、トランプ来日の際に、両陛下はRPの威力を見せつけたわけです。東大ハーバードとオクスフォード(MAは学習院)で学んだ夫婦が、あのドナルド・トランプとメラニアのカップルに、一切恥をかかせず、しかもメラニアに至っては大感激して帰ったというのですから、タダゴトではありません。

そのノウハウこそRPの真髄であり、そのスキルというのは、歌舞伎の大名跡と同じで、幼いときから一挙手一投足について学び、鍛え、ブレなく仕上げていって初めて可能になるものです。

問題というのは、そのようなRPというものの伝承が危機に瀕しているということであり、その危機意識が全く理解されていないということに二重の危機感を覚えます。

この問題ですが当面の考え方としては2つあると思います。1つはとにかく伝統文化の継承ということで、例えばですが対象となる候補には一人一人意思確認をした上で、10人なら10人の候補に徹底したRP教育を施しておくということです。

もう時間がないので、例えばですが上皇さまの直系である現在の対象者である次世代の4名については、全員徹底的なRP教育を施すべきです。これに加えて、もしも国家の深層にある意思として、伏見宮系なり江戸期に分かれた男系なりそこに明治さんの子孫の女系が入っているとか何でも良いのですが、本当に候補になる次世代がいるとして、それも候補にするのであれば秘密裏に入れるわけです。そのようにして、男女合わせて10名ぐらいを本気で養成しておくのです。

とにかくRPを伝承するためには一刻を争うという感覚を持っています。今回の縁談停滞騒動に関しては、当事者の人気がどうのこうのという以前の話として、そのストーリーの全体がRPの静かな崩壊ということを示していると思うということもあります。

そうは言っても、例えばですが10名の若者にRP教育をやっても、結局は伝承には失敗したということは十分にあり得ます。50年とか70年というスパンで考えると、そうしたケースは想定しなくてはなりません。

その場合は、もう世襲の宿命を背負ったロイヤルな存在というのはいなくなるのですから、政治であるとか、文化、スポーツ、経済などで社会活動を行う人間たちが、もっと意識的に客人を接遇し、社会の様々な層から好感を持たれるように「ソーシャル・プロトコル」つまり、品格ある行動様式のスキルを高めていかねばなりません。

考えてみれば、これまでの日本は、最高レベルの外交儀礼は皇室に丸投げできるので、政治家は実務の外交だけをやって、後はカラオケや飲み会とかをダラダラやっていれば良かったわけです。少なくとも全人格をかけて国を代表するなどということは、する必要もないしスキル的にはスッカラカンでも許されたわけです。ですが、RPという伝承が消えてしまうと、それは皆でやらねばなりません。

そう考えると、皇族とか皇位の継承という問題は極めて根の深い、誰もが当事者になるべき問題であるということができると思います。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

image by: kuremo / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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