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いじめ被害家族を「悪者」に仕立て上げた新潟県立高校の大ウソ報告書

1日、新潟県で「いじめ事件」に関する会見が開かれ、全国紙でも大きく報じられるニュースがあったのをご存知でしょうか。それは県の再調査委員会が、いじめのあった県立高校の設置した「第三者委員会」の結論を覆して、不登校といじめの因果関係などを認めた「逆転勝訴」とも言える会見でした。このいじめ事件について以前より相談を受けていたという現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんは、自身のメルマガ『伝説の探偵』の中で、今回の事件の概要を説明しながら、被害家族を「悪者」にして対立する構図をでっち上げた学校側を厳しく批判。「税金の無駄使い」でしかなかった学校や第三者委員会の対応の一部始終を詳細に伝えています。

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新潟いじめ事件、まるで「逆転勝訴」のような、いじめ認定

ここ数年、いじめ第三者委員会の結論が、再調査委員会の調査で覆される問題が後を絶たない。一体、何が起きているのだろうか。

12月1日、新潟県で再び再調査委員会によっていじめ事件の結果が覆された。まさに「逆転勝訴」のような内容であった。

新潟県立高生不登校 学校第三者委の結論覆し、県調査委がいじめと認定(毎日新聞)

この事件については以前から相談を受けており、問題点はいくつもあった。まずは何が起きていたのか振り返ってみたい。

いじめ事件の概要

2017年新潟県の県立高校でいじめが起きた。主には言葉や行動によるものだが、中学時代からいじめを受けていた被害者から生きる気力を奪うには十分なものであった。

当初、この学校は「喧嘩両成敗」のごとく、両方いじめだと決めつけて、対処という対処をしなかった。

被害生徒が不登校となり、重大事態いじめへと発展したが、当初、学校は被害保護者の言い分を一切聞かずに、一方的に対立関係にして、その関係を悪化させていたにも関わらず、学校が設置者となる「第三者委員会」を設置した。

委員の多くは学校と関係が深い委員が揃い、まともな調査もしないまま、「いじめと認められない」「いじめと不登校には因果関係がない」と結論づけたのだ。

まさに、「結果ありきの第三者委員会」だったのだ。

例えば、被害生徒はPTSDとなり精神科への通院記録があったが、これを一切考慮材料にしていない。聞き取りもわずかであり、その報告内容は、学校が以前に調査した内容に酷似しており、焼き直しのようなものであった。

当然、被害側は反発した。

これにより、県知事が設置する「再調査委員会」の設置が決まったのだ。

2020年12月1日のニュースによれば、再調査委員会は、前任委員会の結論を否定し、大きく3つの指摘をした。

  1. いじめと認められる。 
  2. いじめと不登校には因果関係がある。 
  3. 前任調査委員会(第三者委員会)は、その成立において大きな瑕疵があり、委員会としての体をなしていなかった。

ある意味、根底から覆された形と言えるだろう。

前任委員会の結果を覆す再調査委員会でさえも

さらに、この日のニュースでは、被害保護者は記者会見で一定の評価はしつつも、今回の再調査委員会についても問題意識を持っていた。

私がリモートでインタビューしたところ、再調査委員会においては被害当事者や加害当事者の聞き取りを実施していなかったということがわかった。また、基礎となる資料は被害側提出のものばかりで、目新しい情報と言えば、当時の校長がいじめと認めた発言をしていたが、その内心はいじめを認めておらず、被害側の保護者を黙らせるために使った詭弁であったと告白したことくらいであった。

被害側は開示請求などを行い、自力で資料を集めた。開示請求の多くは時間が掛かり手間も酷くかかるが、自分たちの情報を知るために被害側は労力を割かなければならない状況にある

また、被害保護者は再調査員会のメンバーのうち一人のみが会ったことも見たこともない人物ということであった。

「いつも欠席していて、いったい何をしているのかわからなかった」ということである。

確かに、再調査委員会は前任調査を覆し、その問題点も指摘したが、学校による偽証や改ざんなどいわゆる二次被害の状態についてまでは明らかにできていないようである。

結果的に、モヤモヤとした不完全燃焼のような燃えカスが残るような調査であったことは容易に想像がつくのだ。

被害保護者を「悪者」に。学校と前任第三者委員会の問題点

この問題を当初から見ていくと、学校による放置状態や、いじめの問題にしっかり向き合うように申し出る被害保護者を「悪者」に仕立て上げて、学校と保護者が対立する構図があるように見せかけていたのだ。

事実、非公表となっている「前任第三者委員会の結果」と「学校による報告書」は、再調査委員会が指摘するように酷似しており、その大半は被害保護者の問題を糾弾するような内容になっていた。

事実を歪め、まともな調査すらせず恣意的に不公正な報告をおこなった学校や当初の第三者委員会の罪は極めて重い。

しかし、この問題で責任を取る人物はいないのだ。嘘をついても、誤った資料で事実関係を歪めても、誰も責任を取らない。

実は他のいじめ事案でも、いじめを否定してくる場合や自殺、未遂、自傷行為などと、「いじめ」との因果関係を否定するケースでは、その責任の所在を「被害保護者」だと主張してくるケースはあまりに多いのだ。

ある第三者委員会の報告書や調査過程では、被害保護者に責任をなすりつけるための調査がおこなわれていたというものもある。

結果、悪者を被害保護者にして、学校や環境の改善案は何も実行されぬまま、次の被害が起こる上、傷口に塩を塗りつけられる被害者側は、誹謗中傷や嫌がらせを受けて引っ越しをするなどしなければならない状況に至る。

仮に再調査が認められて結果が覆されても、第三者委員会による誤った結果によって発生した二次被害は回復できるものではないのだ。

新・新潟県いじめ条例の施行

タイミングが合ったのか、12月中に新潟県は新たないじめ条例を施行する予定なのだ。

このいじめ条例は、大きく2つのポイントがある。

1つ目は、いじめの定義を広げ、蓋然性があるいじめ類似行為もその範疇とするのだ。現行の「いじめ防止対策推進法」では、いじめは被害者が心身の苦痛を感じる時など被害者を中心として「いじめ」としてきたが、さらに、被害者がいじめられていることを隠す傾向にあることから、第三者からみて「あれはいじめに間違いないだろう」というものも「いじめ」と定義づけるということだ。

これは、すでに文科省まわりや法改正を目標にして動いている勉強会などではよく出ている改正案であり、全国に先立って、より強くいじめをなくしていこうという試みだ。

2つ目 は、責務の強化である。現行法であるいじめ防止対策推進法では、学校や学校の設置者(教育委員会)、自治体や国にいじめの要望や、起きてしまった場合の責務があるとしているが、保護者は努力規定であった。

いずれにしても罰則などはない法律なので、責務といってもそれで罰を喰らうことはないが、新潟県「新いじめ条例」では、保護者や児童や生徒にもいじめ予防などの責務があるとして、責任の範囲を広げている。

被害者提供、保護者のいじめ対応において削除されたのではないかという部分

ただ、条文案を見ていて思うのは、学校や教育委員会などの学校の設置者の条文から「責務」という2文字が消えていることだ。

この新いじめ条例を推進している新潟県の自民党の解説動画では、しっかりと「責務」について明言しているから大丈夫であろうと思うが、条文から「責務」の2文字が見当たらないことは少々不安に思えた。

また、条例を作るにあたりパブリックコメントが募集されたが、反映されるのは僅かであり、ほとんどは検討もしくは不採用となっている。検討事案が多い場合は、会派を超えて勉強会を開いたり、専門家や経験者などの意見を聴くなど慎重に動いたのだろうか。

少なからず、今回のグダグダになった逆転勝訴再調査委員会は被害側に話は聞いていないということであった。

第三者委員会の在り方を考える

インタビューをしてみて感じたことは、被害側が未だに苦しみ、辛い状況にあるということだ。確かに結果的に、いじめは認められ因果関係も認められ、当初の第三者委員会の在り方も否定された。

しかし、詳細な事実は明らかにされず、これだけの二重の苦しみを与えられた被害者側の時間や精神的な苦痛、一方で学校関係者から誹謗中傷にさらされている状態は、誰も改善しなければ、責任を取ることもないのだ。

一方でいじめ条例は解説を見る限り、先進的な進歩と言えるものが始まるのだが、第三者委員会の在り方などはこの条例案では改善されることはないようだ。

1つ言えることは、当初の学校の調査や学校設置の前任委員会である第三者委員会は、税金の無駄使いであり、大きな失策であったということである。

こうした苦しみの中、被害側がより確かな真実や責任の所在を求めていくとなれば「裁判」しかなくなってくるのだろうが、果たしてそれで何か救われることがあるのだろうか。

再調査委員会は知事が設置したものだ。その結果は必ず知事に届いているはずだろう。もちろん、現在は日本全国で自治体は新型コロナ対策により目を光らせなければならず、他の問題は疎かになりつつあるのはわかるが、再設置の再調査をして、ある意味の逆転勝訴という結果が出た本件については、この先を示す意味でも、知事には被害側に自ら会ってもらいたいものだ。

また、すでに退職したり教職ではなくなり議員になった関係者もいると聞くが、当時の事実を歪めた関係者には被害側に少なからず謝罪をするべきだろう。

よく記者会見で、ときの責任者が頭を下げるシーンを見かけるが、被害者はテレビ画面を通じてそれを見て首を傾げている。誰に謝っているのか? と思うのだ。そして、視聴者は通過儀礼のようにそれを眺めている。少し思考が深い人は、謝るべき先は被害者にだろうと思うのだ。

起きてしまったいじめやその二次被害は遡って改善することはできないが、これから先、二度と起きないためにどうするのかを話し合い、具体的な対策を立て実行することはできる。

そうでなければ、犠牲はタダの犠牲となってしまい、また次の被害を起こしてしまうのだ。

被害をこれ以上増やさぬためにも、被害者の声を積極的に聞くところから始めてもらいたい。

編集後記

今回の「新潟いじめ再調査委員会、いじめを認定」という問題は、遡れば中学時代からのいじめ問題が始まりです。

関係者からも被害側からも同様に出た意見は、「被害保護者が悪者扱いされている」ということで、この根底には中学時代にいじめ対応した教育関係者の存在があることがわかりました。

つまり、その時から誹謗中傷を水面下でおこなっていた人物らがいて、被害保護者がいじめに向き合ってほしいと学校や県教委に相談をしに行っても、そもそも歪んでいた事前情報によって、誤認しやすい環境があったと思われるのです。

また、一般的に、「第三者委員会は専門家の集まりだ」という認識があると思いますが、県知事が設置した再調査委員会は今回、学校が設置した第三者委員会に対して、「いじめの定義を知らないのか、誤った認識で判断したのではないか」という趣旨のコメントをしています。

簡単に言えば、いじめの定義は基礎の基礎ですから、その程度の認識で「専門家」にされてしまっているという問題があるわけです。

いじめの影響は一生残ったり、人の命を奪うこともある問題です。それを、こんないい加減な形で対処させてしまえることに大いに問題があるはずです。

私は、いじめ問題に権威があって遺族会等とも親しいと言われる専門家集団から人物照会を受けた際に、「チンピラ風情」「子どもを商売道具にしている商人」「いじめを希貨しているいかがわしい人物だ」と罵られました。その問題では、彼らが選任した第三者委員会が問題を放置し、遺族から解散を要求されました。

その後も、この専門家集団は私が怖いのか、必死で足を引っ張る活動をしていますが、一体どちらが専門家なのかという幼稚な思考ではなく、その活動、その行動は誰のためにやっているのかという初心をもう一度考えてもらいたいと思います。

こうした初心を忘れた方々が「子どもをいじめから解放するには」ということを疎かにした結果が今なのではないか……。

より深く根本的な問題に関わらなければ、苦しむ子どもや保護者の声は届かないと思ったのです。

私はこれから活動の範囲を広げ、立法側にも現状問題をありのままに報告することにしました。

その一環として、激務の中、ペースダウンしていた「いじめ1000人インタビュー」を加速的におこなうことにしました。雑音は置いておいて、一人でも多くの子がいじめから解放されるように、やるべき活動を続けたいと思います。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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