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モーニングショー玉川徹氏の自己矛盾と「因果不明」発言にみるTVの傲慢

12月に東京都で1日の感染者数が800人を超えるなど、依然として収束が見えない新型コロナウイルスの感染拡大。そんな中、コロナ自粛と自殺者の増加に関して放送したワイドショーで「因果関係がはっきりしない」と断言したのが、歯に衣着せぬ物言いで世間の注目を集めているテレビ朝日系「モーニングショー」のコメンテーター「玉川社員」こと玉川徹氏です。この発言に対して、精神科医にして映画監督でもある和田秀樹さんは自身のメルマガ『テレビでもラジオでも言えないわたしの本音』で、最近のコロナの感染急増は「GoToトラベルのせい」と断言するのに、コロナ自粛による自殺急増は因果関係を認めない玉川氏やテレビ局の態度を疑問視。さらに、「何でもコロナ自粛」の世間に対しても持論を展開しています。

「感染症」のためなら何でもしていいのか?

感染者数が増えて、ますますコロナ騒ぎが拡大している。

これでますます冬の自粛が進むだろうし、家に閉じこもる人が増え、人との会話が減ると、セロトニンの分泌も減るし、鬱気分の発散も困難になるからうつ病や自殺が増えることが容易に予測されるし、現実に増えていることは前にも述べたとおりだ。

そこで気になったのが、世間では良心派といわれている玉川徹というテレビ朝日の社員コメンテーターの発言だ。12月14日のモーニングショーで、今回の自粛で自殺が増えていることが問題になった際に、「因果関係がはっきりしない」と切って捨てた。

そもそもテレビというのは、直接的な犯罪については正義の味方の顔をして、加害者をコテンパンに叩きのめすが、統計学的に、それが原因で死が増えているものに関しては知らぬ顔をする。

たとえばツイッギーという痩せすぎモデルの出現以来、拒食症という病気が生じ、アメリカのプレイボーイ誌のセンターフォールドの女性モデルのウエストのサイズと拒食症の患者数に相関があるという論文が出ていても、「因果関係がはっきりしない」ということで、毎年100人の死者が出ても、痩せすぎタレントを使い続けるのが日本のテレビ局だ。

あるいは、自殺報道と自殺者にははっきりした相関があるというUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)の研究やWHOなどの勧告を無視して、派手な自殺報道を繰り返すのがテレビ局だ。

海外では、重大な相関関係があって、人の死を防ごうといろいろな国際機関が勧告しても「因果関係がない」とか、自己責任だというのが、テレビ局の姿勢なのだろう。

そして、その声を代表したのが玉川徹のコメントと言える。

自分が都合が悪いことなら因果関係がないというのに、コロナに関しては、たとえばGo Toトラベルのせいだと平気で断定する。

自分たちの言うことはなんでも正しいと思っているのだろうか?

医者がみな口をそろえて言っているわけではない

さて、この玉川氏は大阪で無作為に介護職の人にPCR検査をしたら1%以上の陽性率があったことから、実は市中感染率は1%以上なのだろうと推定していた。だから、人の接触で簡単に感染してしまうという警告をしていた。

確かに感染についてはそうかもしれない。

さすがに地方でこんな市中感染率はないと私は考えるが、東京については十分にあり得る数字だ。だとすると東京だけで、感染者は14万人の感染者がいることになる。

それに対して入院者数が12月17日現在で1952人。約70人に1人が入院する必要がある病気ということだ。医師の立場からすると、そこまで怖い病気とは思えない。

というのは、そのうち重症者数は66人。2000人に1人にも満たない。

死者数がこれまで532人(16日の新規は0だった)。

仮に感染している時期が2週間だとすると、2週間で20人やそこらしか死なないのだから7000人に1人ということになる。

これが通常のインフルエンザや性質の悪い風邪(これでも高齢者はかなり死にいたる)より怖いとは思えない。

「うつしては犯罪」のようにマスクが強制され、自粛が強制され、自殺が何割も増えるような生活を強いる病気にはとても思えない。

ラジオやテレビを見たり、聞いたりすると、「医者が口をそろえて、自粛を強調しているのに、それを無視する政治家はなんだ」とか「危機感をもたずに歩き回る若者はなんだ」というようなことをしょっちゅう耳にする。

医者が口をそろえて言っているわけではない。

普段、ろくに患者を診ていない感染症学者が口をそろえて言っているだけだろう。

心ある精神科医は「まずい」と言っている人はたくさんいる(もちろん精神科医でも、一緒になってビビっている人も知っているが)。免疫学者にしても、この自粛の危険性を論じている人は何人もいる。

ただ、そういう人をテレビやラジオに出さないだけで、医者が口をそろえて言っているわけでない。

実際、私の聞く九州のほうの大病院では、病院のオーナーの掛け声のもと100人以上の医者を呼んで新年会をやる計画があるそうだ。

何人の人が参加するかわからないが、医者が口をそろえて感染が危ないと思っているなら、そんな企画ができるわけがない。

学問的業績よりテレビに出ている学者のほうが偉い国ニッポン

さて、何度も問題にするように、高齢者は危ないからという扱いをコロナで受けることになった。

いま時、65をちょっと過ぎたくらいで高齢者扱いする必要がある人がどこにいるのか、というのが高齢者を専門とする医者としては実感するところだし、現実に高齢者の定義を変えようという動きも強い。

要するに高齢者にも働かせるし、年金もなるべく遅くなるまで払いたくないというときには、前期高齢者、少なくとも70歳未満の人は高齢者扱いしない方向になっているし、免許を取り上げる時だってさすがに75歳で線を引いた。

それなのに、Go Toトラベルを適用しないというときには65歳以上はダメということになった。

なんというダブルスタンダード。

ところが、優先的に入院させる年齢が65歳から70歳に引き上げられたという。

こういうことにはきちんと根拠をあげてやるのが科学者の仕事だろうが、「専門家」会議はそんなことはしない。

それでも、Go Toをやめさせて、言うべきことを公言した立派な人ということになる。

この国は、学問的業績よりテレビに出ている学者のほうが偉いのだから、立派な学者と思われるためには、テレビ局が言ってほしいことを言う学者にならないといけないようだ。

激減したインフルエンザ患者

さて、今回の自粛政策は確かにメンタルや免疫学的なこと、あるいは高齢者の運動機能や認知機能には大きな影響(というか副作用)があるが、死者を減らす効果は確かにあるようだ。

昨年のインフルエンザの累計患者数が約700万人だったそうだが、今年は11月15日までの累計でなんと171人だという。

たとえば11月第二週を比べてみると、2019年の9107人に比べて今年は23人という激減だ。

みんながマスクをし、人と会わず、会話も控え、手洗いや消毒を徹底すると感染症がそれだけ減るということだ。

高齢者施設や病院の関係者に聞いても、肺炎も激減しているようだ。

インフルエンザは毎年3000人以上の死者が出るし、それによって持病が悪化して死ぬ人も合わせると1万人以上の命を奪っている(コロナの死者の場合、それもカウントされている)。

肺炎も毎年10万人もの命を奪っている。3割減ったら3万人だ。

おそらく自殺など副作用の影響で1万人死んでも、感染症で死ぬ人が4万人減れば、昨年などより全体の死者数は確実に減る。

ということは、コロナの自粛政策を主張する人たちが、命のためには経済も人間らしい楽しみも我慢すべきと主張しているなら、命のためなら一生、この「新しい生活」をすべきということになる。

そのほうが確実に人は死なないのだから。

コロナの時と違って、インフルエンザや肺炎は高齢者しか死なないから(数は少ないがこれは嘘である)、コロナが終われば通常の日常に戻っていいとでも言うのだろうか?

要するに、ほかのすべての人間的な生活を犠牲にしても感染症が減るならそれでいい、という発想だ。治療が何もない時代であればペスト禍のあとにルネッサンスが起こったが、その逆をやろうという発想である。

ここでもマスコミの高齢者差別が露わになるだろう。

人は一定数死ぬということや、人間生活を潤滑にするためにはそれも仕方がないという受け入れが今こそ必要に思えてならない。

かつては2万人の命を奪っても自動車を禁止にはしなかったし、今だって5万人の命を毎年奪っていてもアルコールは禁止にならないのだから。

image by: Osugi / Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』2020年12月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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高齢者を専門とする精神科医、学派にとらわれない精神療法家、アンチエイジングドクター、そして映画監督として、なるべく幅広い考えをもちたい、良い加減のいい加減男。

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