収入減を理由に、約4万7千世帯が昨年支払い分の家庭用ガス料金などの支払い猶予を求めたと、毎日新聞が独自記事で伝えました。東京ガス利用世帯からの申告は約3万件で、東日本大震災時の20倍にもなり、コロナ禍による困窮度合いの深刻さが如実に現れています。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、ガス料金に限らず、納税や公共料金の免除や猶予の情報がまだまだ少ないと憂慮。政府や自治体がもっとわかりやすく全体像を示し、積極的に周知する必要があると訴えています。
「ガス支払い猶予4.7万世帯」のスクープを毎日はどう報じたか?
きょうは《毎日》から。1面左肩の大きな独自記事、「ガス支払い猶予4.7万世帯」に注目。「公共料金」と「猶予」を組み合わせて《東京》で検索を掛けると、10件にヒット。これを対象にします。まずは1面記事の見出しと【セブンNEWS】第6項目の再掲から。
ガス支払い猶予4.7万世帯
全国大手4社 コロナで収入減
新型コロナウイルス感染拡大に伴う休業や失業、収入減を理由に、約4万7千世帯から昨年支払い分の家庭用ガス料金などの支払い猶予を求める申告があった(毎日新聞)。公共料金支払い能力の有無は貧困状態を示す指標の1つで、ガス大手4社は猶予に応じている。
4社とは、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、西部ガス。記事によれば、4社のうち、東京ガスへの申告数は約3万世帯で、同様の措置を取った東日本大震災時の1500世帯を大きく上回っていて、深刻さが伺えるという。政府は既に昨年3月、公共料金について一般家庭や事業者の支払い猶予を認めるよう、各業界に要請しており、ガス業界では昨年3月支払い分から対応、「現在の措置では昨年11月の支払い分を今年4月までに支払うことを認めるなど1~5カ月間の猶予が認められている」という。
●uttiiの眼
新型コロナウイルスの影響で収入が激減した家計にとって、支払いが猶予されるのは確かに有り難いことだが、「支払免除」となるわけではない。政府や自治体のコロナ対策の影響で収入減となった世帯に、十分な補償がなされなければ、やがて「公共料金滞納」という事態に立ち至る。公共インフラにアクセスできない人々を大量に生み出すことになるのは、なんとしても防がなければならないだろう。
記事は「行政は支払い猶予を求める世帯の把握を進めるべき」としたうえで、企業も「支払い猶予の申告をした世帯に、行政の支援につながるよう、対応すべき」という専門家の話を引いている(日本福祉大学の平野隆之教授)。
【サーチ&リサーチ】
2020年3月12日付
人物紹介コラム「この人」。タイトルは「被災者の生活再建助ける書籍出版 岡本正(おかもと・ただし)さん(41)」。岡本正弁護士は「地震や台風などで被害を受けた人々が直面する、住まいや暮らしの再建に役立つ法律を分かりやすく説明する「被災したあなたを助けるお金とくらしの話」(弘文堂)を、11日に出版」したが、その中で、「公共料金にも支払い猶予措置がある」ことを重要なポイントとして挙げている。
2020年3月17日付
当時の安倍首相は国会で、「感染拡大の影響を受けた生活困窮世帯を支援するため、公共料金の支払いや納税の猶予なども検討する考え」を表明。
*今日の記事が指摘している昨年3月の政府の要請についての記事なども。「電気やガス、水道などの公共料金の支払期限を延長するなどの措置を講じるよう関係業界や自治体に要請」とある。ドコモやNTTは3カ月間猶予するとして申し出を受け付けることに。経産省は電力会社などに1カ月間の猶予を求め、同様に電力各社は申請を受け付け始める。自治体が運営する上下水道とガス事業にも要請。
*他方、ドイツでは、企業の倒産対策として公共料金等の支払い猶予を可能にした。
2020年4月22日付
多くの業界でダメージを被った状況のリポートと「支援策」についてまとめた記事の中で、ファイナンシャルプランナーの清水香さんのコメントを紹介。以下の記述。
「緊急小口資金や総合支援資金の貸し付けを受ければ、電気・ガス料金の支払期限を1カ月先延ばしにする「猶予」が受けられます。水道料金の猶予を受けられる自治体もあります。公共料金など「固定費」の支払期限を延長できれば、その分を当面の生活資金に充てられます。まずは、市区町村に支援策を確認しましょう」
●uttiiの眼
困窮した零細な企業や個人が、免除や猶予の対象にしてほしいと願うのは、圧倒的に所得税や消費税の納税、社会保険料納付、そして公共料金の支払いだろう。
どんな制度が使えるのか、政府と自治体には「免除・猶予」に関わる制度の全体像を提示する義務があるだろう。この問題に詳しい弁護士が本を書いているが、それを買わずとも、懇切丁寧な解説が得られるようにするべきだと思う。
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