知っていて当然と思われることや、あまり真剣に考えたこともないような疑問は意外と多いものです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、人間関係をテーマにした「よく知らない」話を、科学的根拠に基づいて真剣に解明する興味深い一冊を紹介しています。
偏屈BOOK案内:竹内久美子『ウソばっかり! – 人間と遺伝子の本当の話 -』
『ウソばっかり! – 人間と遺伝子の本当の話』
竹内久美子 著/ワニブックス
この本では様々な人間関係を軸に「そんなの当然じゃない」「そんなこと、真剣に考えたこともなかった」「なんとなくわかっていたつもりだけど、よくよく考えるとわからない」といった問題を、深掘りし、科学的根拠に基づいて解明、解説する。科学的といっても、難解な理屈は出て来ないからいいね。恋愛10、家族9、印象8、体15、合計42テーマ。
編集プロダクションが企画制作したお手軽な内容でなく、著者は京大理学部の博士課程(専攻は動物行動学)を経て著述業になった竹内久美子。この人の著作はよく読んでいる。いずれのテーマも具体的でわかりやすい。そのなかからいくつかを紹介する。
これは特別な色だと思われる色を挙げよと言われたら、かなり多くの人が赤と応じる。わたしもそうだ。赤が血の色であり、唇や頬などが赤みを帯びていることが血流がよいことを示すからだが、もうひとつ重要な意味があるという。
赤のユニフォームや防具をつけていると、試合に勝ちやすい。ボクシング、テコンドー、レスリングのグレコローマン・スタイルとフリー・スタイル。実力が伯仲しているとき、赤と青では試合結果に多大な影響が出た。4種を平均すると、赤の勝率が62%、青が38%だった。なぜこんな大差が出たのか。赤を見た青はビビる。赤は自分が強くなった気分で自信たっぷり、だといわれている。
「人間の男が赤を身にまとうと、対戦者は相手のテストロステン(男性ホルモン)のレベルがとても高く強そうに見え、ビビってしまう。赤を身につけた方は勘違いして、自分が強くなったような気分になるのでしょう」
さらに、赤は審判の目をごまかしていて、よい採点をしてもらえるから勝ちやすいのではないか。よし、次は赤を着よう。って場面は、わたしにはないんだけど。
血液型の本質とは、免疫の型である。知らなかった。初めて聞いた。
「免疫の型とは、自己と他者を区別するために存在する、印のようなもの。もし他者(病原体など)が侵入してきたとわかったときには、容赦なく免疫的に攻撃する。そんなわけで、病原体でなくても、他人の血液を輸血してもらう際にも、型が合う、合わないという問題が生じるのです」
血液型が侵入者と戦うための戦術の違いである以上、型によってより戦いやすい相手と、そうでない相手があるはずだ。実際、血液型によってより気をつけるべき病気の種類が違う。A型がO型に比べ罹患率が高いのは何といってもガン。それに良性唾腺腫、リウマチ性疾患、悪性貧血、糖尿病、心筋梗塞、狭心症などいろいろ。とくに好酸球増加症はO型の2.38倍と深刻。わたしはA型Rh+。
コレラ菌に対してはO型が弱く、AB型がとても強い、B型もかなり強いということは統計学的にわかっている。コレラの家族への感染については、どの血液型であっても一定の確率で、血液型によって感染のしやすさが違うのではなく、感染してからの重症化の程度が違うということだ。
血液型がO型の人は病気全般に強く、弱い病気にしても胃潰瘍など薬で治せる病気が多く、気をつけるとしたらコレラくらいと圧倒的である。現代ではその最強O型の人が多いが、O型とは真逆の、あらゆるガンに弱く、貧血も多く、元気のない印象のA型が、日本をはじめ多くの国で最大勢力になっている。なぜなんだ?著者は二つの大きな理由を挙げる。
一つはA型は病弱であるために、慎重に行動するという性格が備わり、そのために生存のうえで有利であるということ。そして、もうひとつの理由は、ガンになりやすいということ。え?ガンになりやすいと、どうしていいんだ?ガンとは本来、中年以降に発症する病気である。子供が独立し、孫もいるという状況下で発生することが多い。人類は過去の多くの時間を食うや食わずの極限状態に晒されてきた。そのような状況で、無駄飯を食うだけの人間は存在すべきではない。それが動物としての現実である。ひどい表現だが真実である。
「自分の遺伝子のコピーは既に受け継がれているのであり、もはや存在して彼らの食い扶持を奪うよりも、いなくなった方が自分の遺伝子のコピーを残すという点で有利なのです。そんなわけで、子が独立したなら早々にこの世を去るということこそが、他ならぬ自分自身にとって最善の道。このような過去があるために、一見健康には不利な血液型であるA型が最も大きな勢力になっているのではないでしょうか」。
この本では様々な人間関係を軸に、「そんなの当然じゃないか」「そんなこと真剣に考えたことなかった」「何となくは分かっているつもりだったけど、よく考えるとわからない」といった問題を、深く掘り下げ、科学的根拠に基づいて解明、解説している。「科学的」と言っても、難しい理屈はほとんど出て来ない。人間についての問題、疑問をより深く理解することを目指すという本。
読んで「何だ、単にそういうことだったのか。これまで悩んでいて損した」という人もいるだろう。わたしなんか健康についてはほとんど悩まないから(それでも妻からは小心者扱いされている。お産した女は強すぎる)あら、そうなの、で済む。
ルックスがいい男に女が惹かれることには、誰も異論を唱えない。しかしそれを軽薄だとする風潮は、ルックスのよくない多数派の男たちのプロパガンダである。「ルックスのよさとは、動物行動学や進化論の分野では、ずばり免疫力の高さ、つまり病原体と戦う力の高さを意味します」。だから、一目惚れというのは、免疫力の高さを見抜き、惚れるということなんですって。
気になるタイトルを並べてみる。
・動物行動学的にも人は見た目が9割
・浮気男と相性のいい尻軽女
・男は「名前をつけて保存」女は「上書き保存」
・世界共通の「魔の2歳児」
・若い女性が痩せたがるのは?
・人の印象を悪くする決定的な要因は?
・血液型によって決まるもの
などなど。面白いぞ。
編集長 柴田忠男
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