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コロナ後の世界が「資本主義」を今すぐにでも止めるべき納得の理由

コロナ禍まっただ中の世界では、「早く元の状態に戻れば良いのに」と多くの人が思っていることでしょう。しかし、「元」に戻るとは、何がどのような状態に戻ることを指すのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、環境問題をはじめ、経済などの仕組みにおいても、すでに地球全体が取り返しのつかないレベルにまでに陥っており、その根本原因である「資本主義」を止めない限り問題は解決しないとして、その理由を多くの書物などを引きながら解説しています。

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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年2月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

コロナ後の世界に向けての「資本主義」の乗り越え方ーー斎藤幸平、そして宇沢弘文を読み直す

コロナ禍が、「資本主義」によって止め度もなく生み出される過剰・過密の文明論的結末であることに疑いの余地はない。早くこの禍を克服して、元の生活を取り戻したいと誰もが思うのは当然だが、「元」とはどこであって、そこへ「戻る」ことが本当に可能なのかどうか。

いや、だって、ほんの1年2カ月ほど前までは、こんなに不安でも不自由でもない、そこそこの平穏な暮らしがあったのだから、あそこまで戻れれば十分なのだ、と思うかもしれない。しかし、あの暮らしを平穏と思うのは、その裏で取り返しがつかないほどにすでに進行していた地球環境の破滅や人間社会の狂乱という根源的な危機に真正面から向き合ってこなかった、単なるノーテンキの裏返しではないのか。

いや、だって、エコバッグを用意してレジ袋は貰わないようにしているし、ペットボトルを減らそうと水筒を持ち歩くようにしていて、けっこう地球環境問題にも気を付けている? 結構なことで、それは心がけたほうがいいと思うが、それだけでは、コロナだけでなく台風・豪雨・豪雪、首都直下型地震、富士山噴火、大津波、原発爆発等々の危機の連鎖を食い止めることは到底不可能である。

いや、だって、国連も本気になってSDGs(持続可能な開発目標)を掲げて全世界を挙げて地球温暖化に立ち向かおうとしているし、その努力からドロップしそうになった米国もバイデン政権になって気候変動条約に復帰しつつあるし、世の中はいい方向に向かっているのではないのか。

さあてどうだろうか。斎藤幸平のベストセラー『人新世の「資本論」はその冒頭で言う。

「SDGsはアリバイ作りのようなものであり、目下の危機から目を背かせる……現代版『大衆のアヘン』である。アヘンに逃げ込むことなく、直視しなくてはならない現実は、私たち人間が地球のあり方を取り返しのつかないほど大きく変えてしまっているということだ」と。

「人新世」という新次元

「人新世(ヒトシンセイ)」とは、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンの造語で、人類の経済活動があまりにも過剰になってその痕跡や残骸が地球の表面を覆い尽くすようになった、地球史上で前例のない異常事態に突入したことを、地質年代になぞらえて言い表したものである。実際、高層ビルや工場、道路、ダム、農地などが地表を埋め、海にはマイクロ・プラスチックが浮遊・沈殿し、人工物が地球の自然が耐えうる限度を超えて増えつつある。

昨年12月の英誌「ネイチャー」に載ったイスラエルの研究グループの論文によると、「コンクリートやプラスチックなど地球上で人間がつくり出したものの総重量(人工物量)が、植物や動物などの総重量(生物量)を初めて上回ったかもしれない」という。それによると、20世紀初頭の人工物量は生物量のわずか3%程度だったのに対し、とりわけ第2次世界大戦後、都市開発などで人工物量が急増。他方、生物量は森林伐採や土地利用の変化などで減少しているので、2020年には、地球上の人工物量が生物量である1兆1000億トンを上回ったようだ、としている。

人工物量は年間300億トンの割合で増えていて、これは地球上の人々が、毎週、自分の体重以上の人工物量を生み出していることを意味する。この傾向が続けば、2040年までに人工物量は3兆トンを超える。

いいですか、もう一度、数行上の文章を読み過ごさないで頂きたいのだが、我々一人一人が「毎週、自分の体重〔私で言えば70キロ〕以上の人工物を生み出して」知らん顔をしているということである。1日で7キロ。仮に毎日レジ袋1袋とペットボトル2本を捨てることに加担しなかったとしても、重量で1グラムになるのかどうか。

こういうとてつもない地球破壊に加担しているというのに、レジ袋やペットボトルの使い捨てくらいに気を配れば「なんとかなるのだろう」と思っている精神状態を「平穏」というのであれば、そこへ戻ろうとすることには何の意味もない。そういう我々の偽善を鋭く突いたのがスウェーデンの当時高校生グレタ・トゥーンベリで、「環境に優しい恒久的な経済成長のことしか語らない」大人たちを告発した。「あなたたちが科学に耳を傾けないのは、これまでの暮らし方を続けられる解決策しか興味がないからです。そんな答えはもうありません。あなたたち大人がまだ間に合うときに行動しなかったからです」「システムそのものを変えるべきだ」と。

「資本主義」を止めないと

「恒常的な経済成長」を続けながら「環境に優しい」配慮をしようなどというのは幻想にすぎない。だから国連SDGsは論外だし、それに準じて2050年までに炭素排出ゼロを目指そうという菅義偉首相の「グリーン成長戦略」も嘘なのだ。「恒常的な経済成長」を止めなければならず、それにはそのためのシステムである「資本主義」を止めなければならない。それがコロナ後の世界が進む道である。

資本の本性はひたすら利潤率を高めて自己増殖を追い求めることにあり、資本主義とはそのこと根幹に据えた経済運営のシステムを皆が承認するということである。資本主義である限り、本当に世の中にとって必要なだけの量お使用価値を可能な限り合理的な価格で提供することよりも、不必要に贅沢で無駄な機能をゴテゴテと盛り付けて交換価値〔売値〕を数倍か十倍にも膨らませたものを売りつけて利益を極大化しようとする。だから人工物量が際限もなく増えていくことになる。

資本はそもそもの初まりでは、自国の労働者を搾取し資源を略奪してモノやサービスを売り利潤を追求するのだが、それで貪欲が満たされなくなると外に出てグローバルな搾取と略奪で利潤を上げ続ける。そしてそれが可能である間は、自国の労働者・消費者からの搾取分を穴埋めするように利潤の一部を国内に還元して「中間層」を形成し、不満が爆発しないように飼い殺しにすることも可能だった。しかし、水野和夫が言うように、もはや地球上に地理的なフロンティアは残っておらず、それを代替する電子的な仮想空間で1億分の1秒とかで投機を競い合う金融的カジノ・ゲームも長続きしないとなると、恐ろしいことに、資本主義の巨龍は身を捩って後を振り返り、これまで飼い殺しにしてきた自国の中間層を食い散らかしてでも利潤を上げ続けようとする。それれこそが1% vs 99%問題の本源である。

他方、資本主義による地球資源への略奪も、ますますなりふり構わぬものとなっていき、それで今まで人類が出会わなくて済んでいた辺境の野生動物由来のウイルスを挑発してしまうことにもなった。

それは個々の資本家の道徳的な問題ではなく、資本というものの荒々しい本性に発するものなので、それをほどほどのところで押し止めようとすることはできない。資本主義は自己増殖願望を我慢することができない化け物である。とすると、資本主義を止めるしか方法がない。(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年2月8日号より一部抜粋・文中敬称略)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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