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山田内閣広報官騒動で浮き彫りになった「腑抜け」官邸会見の大問題

衛星放送関連会社に勤める菅首相の長男などから接待を受けていた問題で国会招致され、去就が取り沙汰された山田真貴子内閣広報官が「体調不良」を理由に辞職しました。あくまで本人都合による辞職の体を貫き、菅総理の判断ミスを糊塗しようとしていると指摘するのは、ジャーナリストの内田誠さんです。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で内田さんは、朝日新聞が掲載した「内閣広報官」についての記事を1年分通覧。広報官が首相の「ボディーガード」のように取り仕切る官邸会見の問題点を掘り起こし、加えてNHKにも大きな問題があると持論を述べています。

この1年間、新聞は「内閣広報官」についてどう報じてきたか?

きょうは《朝日》から。「体調不良」を理由とした山田真貴子内閣広報官の辞職。その「理由」を文字通りに受け取る人はいないでしょう。野党議員による国会での追及は必ずしも成功しませんでしたが、少なくとも、高額接待を受けた山田氏が、この先も首相会見のしきり役を行い続けられるはずはなく、結局は辞職を余儀なくされたということは明らか。本当の理由は「内閣広報官として不適格」ということでしょう。

今後、この辞職がどんな影響を及ぼすのか。官邸の機能がいよいよ崩壊に瀕するきっかけとなるのかもしれませんね。そこで、「内閣広報官」に関して過去1年間にどんな内容の記事が書かれているのか、見てみることにしましょう。キーワードは「内閣広報官」です。

この1年間の東京版朝刊に掲載された《朝日》の記事中、47件にヒットしました。まずは1面、及び関連のある2面、4面、12面(社説)の各記事について見出しを抜き出し、併せて、【セブンNEWS】第1項目を再掲します。

(1面)
山田内閣広報官が辞職
首相長男接待 「体調不良」で一転

(2面)
接待批判やまず一変
山田氏辞職 続投宣言5日後
政権危機対応 また痛手
首相に物言う側近不在

(4面)
後手の辞職「不信招く」
内閣広報官 与野党から批判
党役員会で首相陳謝

(12面・社説)
総務官僚接待
幹部留任で深まる不信

(【セブンNEWS】第1項目再掲)
総務審議官時代に、菅義偉首相の長男が勤める放送関連会社「東北新社」から7万4千円超の接待を受けた山田真貴子内閣広報官は「体調不良」を理由に辞職。首相は続投させると表明していたが与野党から高額接待を問題視する声が強く、一転、辞職を受け入れた形。

●uttiiの眼

「1面記事」の要点は、菅首相が「続投」させるとしていた頓珍漢ぶりへの批判。首相の判断の間違いを糊塗するために山田氏の「入院」と「体調不良による辞職」を演出したことは明らか。

「2面記事」はとりわけ時系列を重視するスタイルの「時時刻刻」。「続投」への拘りは、山田氏辞職が総務省幹部の辞任ドミノとなるのを防ぎたいがためだったとする。閣僚や与党幹部からも判批が出る状況で「辞職」となったが、飽くまで「体調不良」を理由に押し立てるしかないところに追い込まれている。首相は一連の問題で後手に回り、しかも総務省接待疑惑では息子が絡むことで距離を置こうとして判断を誤り続けていると。

「4面記事」は、とりわけ野党による追及に触れている。「12面・社説」は、今後の総務行政への影響について。武田総務相は処分した11人の官僚のほとんどを現職に止め置き、「引き続き放送行政を担当させる」としている問題。NHK改革、あるいはNHKチャンネル削減後の衛星放送帯域の利用などの問題で、高額接待を受けたような官僚が担当していて良いのかという指摘。

【サーチ&リサーチ】

*「内閣広報官」に関する記事。最初は去年の3月。

2020年3月3日付
当時の安倍首相の官邸での記者会見で、「司会役の長谷川栄一・内閣広報官が「予定していた時間は過ぎている」として会見を打ち切った」

*「首相会見の打ち切り役」としての内閣広報官はたくさんの記事に登場する。この後も、長谷川栄一内閣広報官は会見打ち切りを策して、記者たちの抗議を受けている。

2020年3月17日付
「(Media Times)首相会見、官邸と記者の実情は」と題する記事では、官邸での会見の問題を直接取り上げ、全面的に論じている。新型コロナウイルス対策で「全国一斉の休校措置」などが問題になった時。フリージャーナリストの江川紹子氏は、《朝日》の取材に対して、「質問に答えていない首相に繰り返し聞こうともせず、会見の続行を求めることもせず、記者の職責を果たしていない」と記者会の加盟社を批判している。「首相会見の主催は記者会だが、慣例として司会は官邸側の内閣広報官が務めてきた」のであり、江川氏は「会見の司会は主催の記者会側が務めるべき」と提案していることなど。

2020年6月11日付
持続化給付金事業の業者選定を巡る問題が沸騰する中、電通の下請に入った企業の顧問に、長谷川栄一内閣広報官が就任していたことも問題になる(長谷川氏は元中小企業庁長官)。そして9月。菅氏の首相就任と共に人事が動く。

2020年9月16日付
「首相会見で司会をする内閣広報官には、安倍政権で女性初の首相秘書官を務めた山田真貴子・前総務審議官(60)を起用する。女性の広報官は初めて」。

2020年12月5日付
臨時国会が事実上閉幕した後の首相会見。「会見終了時、司会の山田真貴子内閣広報官は、指名されなかった記者の質問は文書で受け付けるとした」と。

*「文書で受け付ける」というのは山田氏の独自性?
*安倍前首相が、事実と違う答弁を繰り返していたなどの問題で、議員会館の狭い部屋で短い会見を開いたとき、司会を務めたのは、安倍政権時の内閣広報官、長谷川栄一氏だった。
*これ以降は、菅総理の長男が勤める東北新社絡みの山田真貴子氏に関する記事。

●uttiiの眼

この1年の記事を通覧してみると、その間に、「内閣広報官」を巡って重要な論点が出てきていたことが分かる。

記者会見場の内閣広報官は、いわば首相の「ボディガード」役であって、記者側が代表すべき国民の「知る権利」との鍔迫り合いが行われているということ。記者は必死に食い下がって「知る権利」の充足のために奮闘しなければならないが、現状はそうなっていないこと。官邸での記者会見の司会を内閣広報官から記者会側に取り戻せとの江川紹子氏の提案は、本質を衝いている。

記者側の体たらくの要因はいくつもあるだろうが、NHKが政権の広報担当のような存在になっていることが最も大きな問題だろう。官邸は自由質問について圧倒的にNHK記者を充てることが多く、他社はスポイルされている状態だ。NHKの体制護持機関としての本性がここに現れている。

内閣広報官と内閣広報室は、テレビを中心とした政権批判の言論に目を光らせながら、政権にとって好都合な事実や見方を、NHKを使って効率よく全国にばらまく戦略の中心を担っている。

image by: 首相官邸

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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