老朽化した建築物を壊すことなく、その8割を再利用し建物の寿命を伸ばす「リファイニング建築」が注目を集めています。コストも建て替えの6~7割というこの新たな再生手法、どういったコンセプトで、どのように進められるものなのでしょうか。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者のでマンション管理士でもある廣田信子さんが、リファイニング建築の原則や認定制度等について詳しく解説。その上で、これまで当建築法が活用されてこなかった分譲マンションについても、建替えや敷地売却ができない場合の「第三の選択肢」として視野に入れておくことを推奨しています。
「リファイニング建築」を知っていますか
こんにちは!廣田信子です。
「リファイニング建築」って知っていますか?「リファイニング建築」とは、建築家 青木茂氏が提唱した建築物を再生する一手法です。
リファイニング建築は、リフォームやリノベーションとは異なり、弱体化した構造躯体の耐震性能を軽量化や補強によって現行レベルまで向上させるとともに、既存躯体の約80%を再利用しながら、建て替えの60~70%のコストで、大胆な意匠の転換や用途変更、設備一新を行い、その行為を繰り返すことによって建物の長寿命化を図る新たな再生手法です。青木茂氏の工房では、既に約130件をこの手法で再生しています。
リファイニング建築には下記の五原則があります。
- 内外観ともに新築と同等以上の仕上がり
- 新築の60~70%の予算
- 用途変更が可能
- 耐震補強により、現行法規および耐震改修促進法に適合する
- 廃材をほとんど出さず、環境にやさしい
リファイニング建築は、老朽建築物を壊さず、現行法に合致させ、長寿命化させる手法として注目されていました。建替えに比べ、廃棄物を6割減、二酸化炭素を8割減にできるといいますから、脱炭素時代に合致しています。
この度、「一般社団法人リファイニング建築・都市再生協会」が、老朽建物を壊さず長寿命化する再生建築の認定制度を2021年度中にも始めると発表しました。
マンションやビルの老朽化が進む中、資金や立地の問題で建て替えが難しい事例で、設備や意匠の刷新だけでなく耐震補強もするなど基準を満たす物件を認定し、依頼主が工事費の長期融資を受けやすくすることを目指します。また、講習会で再生建築の担い手も増やすといいます。
認定制度によって、リファイニング建築に対する信頼性が高まり、市場での評価も新築と同等になっていくのでは…と期待されます。
リファイニング建築による再生は、「建て替え」と比べると、建築費を7割以下に抑えられ、工期を2年程度から10カ月程度に短縮できるため、これまで、賃貸マンションでは、活用された事例がいくつかあります。また、オフィスビル等をリファイニング建築でマンションに生まれ変わらせるという事例もありました。
しかし、もともとが分譲マンションの場合、合意形成の壁があり、これまで活用されていませんでした。
今後、建替えも敷地売却も合意形成ができない場合の第三の選択肢として、「リファイニング建築による再生」も覚えておきたいです。
建物や設備が老朽化し、改修には多額の費用が掛かるが、修繕積立金が大幅に不足していて厳しい状況にある。漏水が頻発していて、専有部分の大規模な設備改修も必要だが、ほとんどの住戸で手がついていない…というマンションには向いている手法だと思います。建物をスケルトンにして、共用部分、専有部分すべてを新築同様にできるのです。
ただし、現行では、特別法での定めがないので、全員合意が必要というハードルがあります。今の敷地売却制度は、建物の解体が条件なので、建物を残してリファイニング建築する場合は使えません。
しかし、脱炭素社会への取組みはますます重要視されますから、法整備や推進施策は今後進んでいくでしょうし、全員が賛成すれば、いつでも何でもできるのがマンションです。市場できちんと評価されるようになり、融資が受けやすくなることで、マンションでもリファイニング建築による再生の検討が進むのではないか…と希望を見ました。
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