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メディアすら偏向。高知小2水難事故に見た田舎町の静かな全体主義

地方からの人口流出は、雇用や経済問題だけが原因ではないようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では著者で現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、以前掲載の「あまりに多い嘘。探偵が調査で見抜いた高知小2水難事故の深い闇」の舞台となった高知県南国市をはじめ、これまでいじめ問題解決のため関わってきた地方都市の「異常なまでの地域全体主義」を明らかにし、これを強く非難。さらに自由を求める若者達は、そのような理不尽がまかり通る地域を後にすることは自明の理であり、結果的に過疎から逃れることはできないとしています。

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高知小2水難事故に「静かな全体主義」を見た

一次産業やのどかな地域ではいじめが少ないとされてきた。

その理由に大人社会と子ども社会の距離が近いとか、サラリーマン世帯が多い郊外などと比較して人口が密にならず、互いの家をよく知っているなどの関係性が挙げられた。

しかし、それは違うのではないかという実態が今、明らかになろうとしている。

顕著に私が感じたのは、高知県小学生水難事故の調査であった。

【参考】あまりに多い嘘。探偵が調査で見抜いた高知小2水難事故の深い闇
【参考】高知小2水難事故、南国市教育委が遺族に姑息な対応。隠蔽許さず真相究明を

現状でもご遺族や私、問題の発信に協力するなどしている人への嫌がらせは続いているし、一部の証言者には、いわゆる地域の顔役が名刺をもって口止めに来るなど酷い状況があった。

被害者しか存在しないという異常ないじめ

現在、私は東京からでは飛行機を使わないと行くのが大変な地域のいじめ(重大事態)の問題を調べているが、調査は難航している。

被害者はトイレに行けず心身の不調を訴えたり、自死を決意するところまで追い込まれていたのに、事実を知る同級生などが正式に証言をすることを許されないのだ。

学校の独自の調査では、「被害者1人、加害者0人のいじめ」だという意味不明な報告が教育委員会になされているという異常状態なのである。

その実、いじめは確かにあったのだ。

その根拠は、証言の他、本人の心身の不調の原因を追究していけばわかるのだ。実際、この被害者の友人は、いじめの全てではないがその一部は知っていた。

そもそも多くのいじめは密室で教師などが居ない場所で起きるのだから、その全てを知る人物がいるほど露骨な状態は末期的症状であり、これのみを求めるような調査しかしない学校の調査などは、「犯人に犯人ですか?」と質問するような間抜けた行動と言える。

学校はよく警察ではないので捜査はしませんというが、その実、取り調べは多くするのだ。行動のみを評価すれば、刑事の真似事やっているが、結局のところ調査能力も判断能力も欠けるため、やっていることは「ヘボ刑事」そのものなのである。

さて話を戻そう。実際にいじめがある場合、その一部でも見ていたり知っている状態があれば、ほぼクロであるとみていい。それは前述の通り、いじめは見えずらいところで起きているのだから、その尻尾でも頭でも見えているのであれば、クロ判定をしていくのが妥当なのだ。

ところが、このケースでは、証言側の保護者が出てきてすべてが白紙に戻ったのだ。

その理由はこうだ。

「この地域は平和にやってきている、そんな酷いいじめがあったとなって、巻き込まれたら大変ではないか」
「みんな平和にやってきているのだから、波紋を広げるのはやめてほしい」
「いじめられて騒いで誰が得するのよ。ああかわいそうね。で?どうするの?」

簡単に言えば、これまで多少のトラブルはあったが、被害者が黙り、我慢することで、何もなかったことにして過ごしてきた。いじめの被害を訴えることは、地域がまるでダメと言われているみたいだから、問題を起こさないでほしいし、うちの子を巻き込まないでくれ。

ということだろう。

「都会の人にはわからんさ」

私はそう言われた。よくよく聞けば、何もトラブルが無いことが全てであり、何かあったとしても、みんな我慢しているというのだ。もしも我慢せず、被害を訴えるとなれば、村八分となるか派閥(家)と派閥(家)が争いになるそうだ。

確かに個人主義の私は、この全体主義に似たコミュニティでは暮らせないだろう。まあそれはいいのだが(絶対に移住とかはしないので)。

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失われた子どもの達の目の輝き

子ども達の表情を見れば一目瞭然なのだ。証言をしたい、いじめから友達を救いたいと立ち上がった友人でもある証言者らは、大人の歪んだ村意識と全体主義によって、その気持ちをもがれてしまったのだ。

うだつの上がらない大人の歪んだ世界観が、子ども達に大人とはこうあるべきという誤ったメッセージを伝えてしまっているように私は感じた。

子ども達の目の輝きは消え、彼らはきっと、現状は正しいのではないと思いながらも次の被害者が出る教室へ戻ることになるのだ。そして、次の被害者は誰なのか怯えながら、少なくとも自分が被害者にならにように、加害者らには従順になり、心の奥に引っかかる被害者であった友人をそのうち疎ましく思うのだろう。

こうやっていわゆるのどかな田舎は被害者を排除しながら、見掛けだけの平和を維持しようとするのであり、いわゆる全体的なアンケート調査では、事実が浮かび出ないのである。これは、現場で起きていることと机上の空論の乖離とも言えるだろう。

メディアすら歪む

前述の高知県小学生水難事故では、この3月になってやっと下田川の堤防に「警告看板」が設置された。最も早くに報じた地元NHKは、この現場から歩いて3分もかからないご遺族に取材の申し込みすらせず、教育委員会のみのコメントを報じた。

私もこの事案にはずいぶん長く関わっているが、ご遺族が誰もが入れる状態である川に少なからず警告看板を立てるべきだと申し出たのは2019年のことであったはずだ。

それから1年半、警告看板をつけるようにという話は何度も出てきたが、そのたびに何となくスルーされていた。市議会の質問でも出た話でもあるが、その時、南国市教育委員会は地元の理解を名目にして協議中だとしていたのだ。

結局、お隣、高知市の市議さんや新たについたご遺族の代理人弁護士などが地道な交渉を重ね、やっと設置に至ったのだ。

前述の報道ではそうしたことが一切書いておらず、まるで南国市教育委員会が努力の末、やっと設置にこぎつけたような印象すら与えるように構成されている。

この事案は当初から報道の動き方がおかしく、地元紙では提灯記事が飛び出る始末であったが、全体主義が広がれば当然に報道も歪むのである。

たが救いはある。

それは、ネットユーザーによる善意の協力である。また、問題が継続することで隠れキリシタンのように隠れ支援者が増加傾向にあるということだ。設置看板にしても、この事案をまるでなかったことにしようとしていた勢力からすれば、ある意味、看板がある限り、目に見える物として忘れようがない事実となるのだ。

※ 第2期署名は継続中です
team_hinakun 高知県小学生水難事故

いずれ地方にはびこる全体主義は淘汰される運命だろう。理由は若者の人口流出だ。

前述の通り、私が見た子どもたちの目は、静かに無意識の反骨となり、地元を捨て自由な都市部に向かうのであろうと思うのだ。彼らは「うっせぇーわ」を口ずさんでいた。

どんなに団結しても理不尽なルールは時代の流れには逆らうことができない。いずれ限界集落となり、人口減少が止まらず産業が廃れていくのだ。コロナ禍で発達したテレワークであっても、適度な地域に人口が分散する程度で、移住はさほど進まないであろう。

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編集後記

私は都会生まれの都会育ちのため、田舎のルールとか地元独自の何かの決まり事というものに全く馴染みがありません。だからと言って全部がダメだとは全く思っていません。互いに協力し合ったり、何かの時に団結したりする力は素晴らしいと思うし、「郷に入っては郷に従え」のごとく、何かの行事などではそれに従います。

しかし、明らかに被害を受けているという人や出来事を見過ごすことは、良いとは思いません。本文の中にも書きましたが、子ども達はいじめを確信しているし、助けてほしいと友達に言われ、まずはいじめがあったことをちゃんと先生に言うということを決断したのです。

友達を助けたい、その純な思いを危険だからと言えてしまうその環境こそが私は異常だと思うのです。

ちなみに私はこの調査においては、対応先を変え、第三者委員会の形成を認めさせています。委員は無記名で封入をする秘匿性の高い方式で広範囲のアンケート調査を実施することになります。とかく、どんな内容より誰が言ったかが重要な社会であるが故、こういう小社会は権威に弱い側面があるので、権威ある肩書の人らが別のアプローチから介入するやり方が最も良策だと思ったのです。

どこまでできるかは、まだ未知数ですが、わからない事は私がサポートします。

全てにおいて大事なことは、まず一歩踏み出すことです。

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image by: 伝説の探偵

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社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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