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ネットで物を売る戦略を突き詰めると、売るべきは「人」になる

ここ数年、ECサイトでの売上がアパレル各社の売上に大きな影響を及ぼすようになっていましたが、コロナ禍により自由な買い物が制限を受けたことで、ネット通販の重要性がさらに増しています。メルマガ『j-fashion journal』著者で、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、実店舗とはまったく違うアプローチが必要になるネット通販のマーケティング戦略について考察。価格競争に陥らないためには、オンリーワンの商品はもちろん、オンリーワンのコーディネートを提案できる「人」こそが価値のあるものになると伝えています。

ネット販売のマーケティングを考える

1.ネット通販のマーケティング戦略

ネット通販のマーケティング戦略は存在するのか。それが知りたくて、ネット通販のセミナーに参加したことがある。ネットショップの構築の方法、買い物カゴの仕組み、ネット広告、SNSによる情報発信、商品写真の撮り方、そして、様々な成功事例。こんな話を聞かされて、それなりに勉強にはなったが、私が知りたい内容ではなかった。私が知りたいのは、店舗流通と同様の予算が組めるのか、ということだ。

例えば、店舗を出店する。出店費用とその後の運営費用を計算することは可能だ。保証金、坪あたりの家賃、光熱費、人件費、その他の消耗品費、システム代等々。経費が出れば、損益分岐点が分かるし、売上予算が立つ。周辺の店の売上が分かれば、おおよその予算は立てられる。10店舗出店した場合、100店舗出店した場合の損益も分かるし、そうなれば、何年で採算が取れるかも予測可能だ。

設備投資は大きくてもいい。企業が取り組む事業なのだから、「1億投資したらこうなる」、「10億投資すればこうなる」というシミュレーションが組めれば、事業の提案ができるのである。

しかし、「コンサルして売上を2倍にしました」と言われても、それは個別の事例に過ぎない。例えば、年商3億の事業計画を組め、と言われた時に、どうすればそれが可能なのかが分からないのだ。現在のネット通販は、ある意味、出たとこ勝負である。やってみなければ分からないし、やってみて改善を積み重ねるしかないのだろうか。

2.ショップか個人か

店舗なら増やせば売上が伸びる。しかし、WEBショップを複数出店することで効果が出るかが分からない。もし、デザインの異なる複数のサイトを作り、そこで同じ商品を並べて、売上が伸びるならば、そうすればいい。しかし、顧客が全員商品を検索するのであれば、複数のWEBショップを作っても意味がない。

もし、写真を変えたらどうだろうか。あるいは、同じ商品でも少しずつ価格を変えて、複数のWEBショップで販売するのはどうだろうか。とにかく、ネットショップで確実に売上が増える方法が知りたいのである。1軒のショップで販売するよりは、複数のショップで販売した方が露出が増えるので売上は伸びるかもしれない。

最近は、インスタグラムで商品を購入する人も増えている。WEBショップを増やすより、インスタグラムで情報発信する個人を増やすのはどうだろうか。例えば、インフルエンサーを10人育てて、10人が独自のコーディネートで発信する。インフルエンサー個人に顧客がついているなら、この方が確実に売れるだろう。同じ商品であっても、コーディネートが異なれば、画像は全く異なる。もし、インフルエンサーを増やせば売上が確実に伸びるのであれば、企業にとっては、インフルエンサーを増やしていけばいい。

3.人がブランド、商品はパーツ

実店舗はブランドを表現するのに適していた。実店舗というパッケージには、ブランドイメージを伝えるショップデザインがあり、商品とそれを着用している販売員がいる。それらの全ての要素がブランドイメージを演出している。

しかし、ネットショップでは商品は商品で検索される。基本は単品であり、トータルなイメージを訴求するのが難しい。そういう意味では、特定のインフルエンサーが複数の服を複数のコーディネートで着用した写真をインスタグラムに上げるほうがブランドイメージを訴求できるだろう。

というより、インフルエンサー自身がブランドであり、商品は、そのパーツに過ぎないのではないか。商品を主役に考えるのではなく、人を主役に考える。店舗からネットへの転換は、商品から人への転換でもあるのだ。

4.初めに商品か、コミュニティか

ここまでの仮説が正しければ、ネット販売のマーケティングは店舗流通のマーケティングとは根本的に異なるだろう。店舗は商品の入れ物であり、商品を全国に並べて、全国の人に見せることで売上を上げていた。しかし、商品を検索できるようになり、店舗の優位性は崩れた。

一方で、店舗とは商品を販売するだけの場所ではない。半日以上、店で過ごし、店長や販売員と会話し、「話を聞いてくれたから」という理由で商品を購入していく顧客も存在する。商品の決済だけならネット通販で十分だが、ネットでは人とのふれあいは存在しない。実は、ネット通販も同様だ。商品だけを並べてあるネット通販は最終的に価格競争に陥る。価格競争したくなければ、オンリーワンの商品が必要である。

商品が介在しなくても、多数のコミュニティがネット上には存在している。まず情報発信者がいて、そのファンが集まり、その中で商品企画が生れ、その経過を紹介し、最終的に商品が完成し、それを販売する。初めに商品ありきではなく、初めにコミュニティありきの方がネット通販では王道かもしれない。

5.商品ではなく、個人を売る

資本力さえあれば、店舗を増やすことは可能だ。しかし、資本力はあっても、新規のコミュニティを次々に作るのは大変だ。コミュニティを育てるには、人と時間が必要なのだ。もし、人気のある個人がいれば、その人の仕事や趣味を中心にコミュニティを作り、そこからビジネスを組み立てることができるかもしれない。

個人をブランド化し、個人を紹介するWEBを作り、オンラインサロンを作り、コミュニティを作る。これを個人に任せるのではなく、システム化し企業が組織として取り組む。企業が個人をプロデュースするという意味では、芸能プロダクションに近いのかもしれない。

違いはイベントや音楽パッケージ販売で稼ぐのではなく、商品を開発し、物販で売上を上げるという発想である。SNSというメディアは個人をプロモーションするのに適している。ネットで販売すべきは商品ではなく、個人なのかもしれない。

編集後記「締めの都々逸」

「モノとヒトとが 入れ代わっても 金が動けば 構わない」

考えれば、考えるほど、ネットの時代は人の時代です。モノを売るよりヒトを売れ。人を集めて、人と人とをつないでいく。SNSというメディアは、人が発信し、人が評価し、「いいね」をつけます。人の信用でモノを買う。あるいは、人が面白がって、モノが売れる。どこまで行っても人が主役です。

店舗に投資するように、人に投資するべきです。そして、人を育てて、その人を中心に顧客を集める。モノを売るのはそれからです。モノとカネの時代は、時間を金で買いました。ネットの時代は、人と時間の時代です。時間が人を育て、人がカネを生むのです。人に投資しなければ、何も生れない。そんな時代だと思います。(坂口昌章)

image by: Shutterstock.com

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