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リモート会議で上司が部下に「顔出し要求」はハラスメントになるか?

コロナ禍により増えたWeb会議での顔出し指示をハラスメントと感じる20代会社員が55%に上るという衝撃の調査結果あります。こうしたケースに上司はどう対応すればいいのでしょうか?今年3月に創刊されたメルマガ『『櫻田毅の人材価値向上講座』~「仕事をこなす人」から「仕事ができる人」への成長読本』著者で、『管理職1年目の教科書』などの著書があり、多くの企業の人材開発に携わっている櫻田さんは、まずは信頼関係を築くことと、部下の気持ちへの寄り添い方を伝えます。そのうえで、個人間の問題ではなく、会社の問題として捉え解決する方法もお勧めしています。

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上司はリモートハラスメント問題へどう対応すべきか?

ダイヤモンド・コンサルティングオフィスが行った、リモートワーク環境下の会社員の意識調査が話題を呼んでいます。中でも衝撃的だったのは以下の問いへの若手社員の回答です。

質問)「上司がリモートワークの際に、会議で顔出しすることを強要する」ことについて、パワーハラスメントに該当すると思うか。
20~29歳の回答)
絶対に該当すると思う(16.4%)
おそらく該当すると思う(38.6%)(合計55.0%)

つまり20代の半数以上が、顔出し強要はパワハラだと考えているのです。なお、調査は、2020年11月時点でリモートワークを実施し、上司や部下がいる20代から60代の会社員1,091名が対象です。

このような、リモートワークによってクローズアップされてきた新たなハラスメント問題(リモハラ)に、神経をすり減らす管理職が増えてきているようです。

もっとも、パワハラとは「職場内での優位性や立場を利用して、業務の適正範囲を超えた叱責や嫌がらせを行うこと」です。したがって、顔出し問題に対する弁護士などのネット上の見解も、「お互いの表情を確認し合うことによるコミュニケーションの円滑化、という業務上の合理性があればパワハラではない」というものが大半です。

上司側としては、自分が話しているときの部下たちの表情で、わかっているのかそうでないのか、納得しているのか反発しているのかなど、本音の反応をキャッチしたいと思うでしょう。

ただ、業務上の合理性があるのだから顔出しを要求しようと思ってはみたものの、部下たちの反応が読めずに躊躇してしまい、なんとなく音声だけで会議を行っている上司も多いようです。さて、もし自分が上司という立場にあると想定した場合、この問題をどう取り扱えばよいのでしょうか?

理屈はわかるが……

まず押さえておくべきことは、私たちは納得するかどうかを「論理的納得性」と「感情的納得性」の2つの側面から判断しているということです。あなたも、このように思った経験がないでしょうか?「理屈はわかるが納得する気にはならない」あるいは、「気持ちはわかるがそれでは理屈が通らない」。

前者は「論理的納得性」はあるが「感情的納得性」がない場合、後者は「感情的納得性」はあるが「論理的納得性」がない場合です。私たちがちゃんと納得するためには、論理的納得性として「アタマ」で理解した上に、感情的納得性で「ココロ」から納得することが必要なのです。

私たちの仕事には、周りの人への協力依頼やグループの合意形成など、関係者に納得してもらわなければならない場面がたくさんあります。顧客に対する場合はなおさらです。そのとき、とにかく早くとばかりに論理的納得性だけでぐいぐい押していこうとすると、感情的納得性の壁に阻まれて思わぬ抵抗を受けることがあります。

では、このやっかいな感情的納得性を得やすくするために、私たちはどのようなことに気をつけなければならないのでしょうか?

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感情的納得性を得るための「共感的理解」

ひとことで言うと「共感的理解」です。人間関係において「相手のことを理解する」ことが大切だとよく言われます。そのときに、相手の考え方や立場だけでなく、相手の「気持ち」もあわせて理解しようとするのが共感的理解です。

相手の気持ちが良いか悪いかは関係ありません。正しいか間違っているかも関係ありません。ましてや、そうあるべきかどうかなど全く関係ありません。目の前にいる相手が、「いまどのような気持ちなのだろうか?」と想像し、それを尊重、理解しようとすることです。

この場合の「理解する」とは、自分も同じように思うということではなく、また、相手の気持ちを正当化させることでもありません。ただひたすら、相手の気持ちを「知ろうとする」ということです。

「おこっているのかな」
「不安だろうな」
「なんかつらそうだな」
「不満を感じていそうだな」
「うれしいだろうな」
「誰かに聞いてもらいたいのかな」
「一緒に喜んでもらいたいのかな」
「認めてもらいたいのかな」

このように、心の中で相手の気持ちを口にしてみることが「共感的理解」です。この気持ちに配慮して、話し方や接し方を工夫することで感情的納得性を得やすくなります。

感情的納得性には自分と相手との間の信頼関係が大きく影響し、特に自分の気持ちをわかってくれる人に対しては信頼感が増してくるからです。その結果、「あなたがそう言うのであれば」とココロから納得することができます。

できるだけ気持ちに配慮した対応を

さて、オンライン会議の顔出し問題に戻りましょう。上司は「お互いの表情を確認し合うことにより、コミュニケーションの円滑化が図れる。一緒に良い仕事をするために理解して欲しい」――このようなことを丁寧に説明すれば、とりあえず「論理的納得性」を得ることはできるでしょう。そこで、「では明日から全員顔出しね。以上!」とやったら、部下はどう反応するでしょうか。

大きく2つに分かれるでしょう。1つ目のパターンは、すでに上司との間に信頼関係があり、あの人がそう言うのならまあいいかと考えて顔出しOKとなる人たちです。論理的納得性と感情的納得性の両方がそろうことで、双方にとって問題解決です。

これが理想のパターンですが、2つ目はそうはいかない人たちです。次のような反応が返ってきます。
「顔が見えなくても会議に支障はないと思います」
「顔が見えない分、話に集中できるんじゃないでしょうか」
「では、電話では仕事ができないということですか」
「メールで十分な意思疎通ができているじゃないですか」

一見、理屈で反対しているように見えますが、その裏には次のような感情的な反発が潜んでいます。
「自宅を見られるのはいやだな」
「会議のためにわざわざメイクをするのは煩わしいな」
「せっかくルームウェアでリラックスできているのに」
「友達の会社は声だけでやっているのに何でウチだけ」
最初から顔出しNGという感情的な結論ありきで、後付けで理屈を探しにいっているのです。

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上司がそのことに気づかずに管理職権限で押し切ろうとすると、ますます話はこじれます。あげくのはてに、「そもそも、この会議に意味があるんですか」と、論点のすり替えまで起こされてしまいます。

そこで共感的理解の姿勢で相手の気持ちを想像し、「まあ、そう感じるかもしれないよな」と、いったん感情を受け止めて尊重し、できるだけ心理的な抵抗感を和らげるための配慮を実施します。

たとえば、「心理的な抵抗があるかもしれないので……」
「バーチャル背景を使ってもいいですよ」
「希望者には背後の視界を遮るカーテンを会社が支給します」
「マスクをしたままでもいいですよ(目だけは出してね)」
「社内打ち合わせの場合はリラックスした私服でかまいません」
「通信費用が個人負担とならないよう補助金を支払いますね」

さらに上司は何が見えても、何が聞こえても、部下のプライベートに立ち入るような発言は一切慎むこと。上司と部下の関係に限らず、同僚、顧客、関係会社など、さらに、プライベートな関係においても対人関係があるところすべてで、私たちは「論理的納得性」と「感情的納得性」の両方に配慮すべきです。

反発してくる相手に対しては、「共感的理解」のセンサーを働かせて裏に潜んでいる感情を理解しようとします。もし、そこに反発の原因がある場合は、理屈でいくら論破しても問題は解決しません。

社内共通の問題は会社に仕切ってもらう

今回は、オンライン会議の顔出し問題を例として論理的納得性と感情的納得性について紹介してきました。最後に、実際に顔出し問題が職場で起きた場合の適切な対処法について述べておきます。

感情的納得性は2人の間の信頼関係の度合いに影響を受けますが、それは同じ部下でも人によって異なってきます。ギリギリ「しかたないな」と思う部下もいれば、最後まで抵抗しようとする部下もいるでしょう。感情的納得性には個人差があるのです。

そこで、「顔出し問題」のように感情的納得性に影響されやすい案件で、しかも会社全体で共通の問題である場合は、上司と部下といった個人的な関係の問題として扱うのではなく、組織的にもっと上の問題として対処してもらうべきです。

たとえば、人事部案件として社内ルールを策定してもらい、人事部長名で全社員に通達してもらうなどです。大げさに思えるかもしれませんが、会社は断固としてハラスメントから社員を守る責任がある一方、言いがかり的なハラスメント問題から上司を守る責任もあります。

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会社通達であっても、感情的納得性が十分に得られない可能性は残りますが、信頼関係が希薄な上司の職権乱用だと受け止められるよりはましです。経営者としても、ある部署は顔出しで会議が行われているのに対して、別の部署は部下の反発を恐れた上司の判断で声だけ会議になっている。このような管理職個人にこの問題を押しつけようとするのは無責任です。

もちろん会社に仕切ってもらう場合でも、少しでも感情的納得性が得られるように、社員の気持ちに配慮したルールを添えることを忘れてはなりません。

もっとも、そこまでやらなければならないのなら、自分が我慢すればいいので「顔出しなしでいいや」と思う上司であれば、それはそれで1つの選択です。ただし、感情的納得性への対応力をつけていかなければ、相手にココロから納得してもらう力があるとは言えません。本当に仕事ができる人は、論理的納得性だけでなく感情的納得性への対応力も高い人です。

【今日のまとめ】

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image by: Shutterstock.com

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造船会社で深海調査船の開発に従事した後、証券会社での投資開発課長、投資技術研究室長などを経て、米国資産運用会社で資産運用コンサルティング部長。その後、執行役COOとして米国人CEOと共に経営に携わる。 現在、日米のグローバル企業での実績をもとに、講演・研修を通じて多くのビジネスパーソンの成長支援に関わる。日本投資顧問業協会、日本証券アナリスト協会などの委員を歴任。九州大学大学院工学研究科修了。 主な著書に『管理職1年目の教科書』『管理職3年目の教科書』(ともに東洋経済新報社)がある。

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