各地での大混乱が伝えられるコロナワクチン接種の予約状況ですが、もはや「苦行」と言っても過言ではない様相を呈している地域も多いようです。今回のメルマガ『久米信行ゼミ「オトナのための学び道楽」』では著者でiU情報経営イノベーション専門職大学教授の久米信行さんが、母親の代わりに軽い気持ちで引き受けたものの、実に4時間以上もかかったという接種予約の全行程を詳細にレポート。その上で、苦労したからこそ気づいた問題点と解決策を記しています。
ワクチン接種予約という名の悪夢
みなさんはご両親のワクチン接種予約をしましたか?
あっさりサクッとネット予約できましたか?
この質問を見た瞬間、顔色が曇ったとしたら、あなたは私の同志です。おそらく、スマホとパソコンを前にして数時間もツライ難行苦行をしたのでしょう。
ことの始まりは、4月の下旬に81歳の老母から、ワクチン接種の案内状を見せられたこと。合わせて、ワクチン予約の方法が記された「すみだ区報」も手渡されました。
見ての通り、これが高齢者にはなんとも難しい内容。残酷なことに、原則としてスマホを使わないと予約ができないのです。うちの母親には、かんたんスマホを買ってあるのですが、電話をしても出たためしがない活用レベル。おそらくQRコードの意味もわからないでしょう。
そんなスマホリテラシーゼロの高齢者は母だけではないはず。もし使えなければ、おそらくは、いつまでもつながらないであろう電話を延々とかけ続けなければ、ワクチン接種もままならないのです。
逆に言えば、ここは親孝行のチャンス!
「ダイジョーブ、ぼくがやっておくよ」
と、ワクチン接種の資料一式を預かりました。
そう。この時は、まだ、私はワクチン接種予約を甘く見ていたのでした。
もともとおっちょこちょいなウカツものの私。5月1日予約開始とだけ記憶して、深夜0時から予約開始、1時間半もトライしてつながらかったので、怒りのfacebook投稿をしたら、お友達から「8時半予約開始と書いてありますよ」と指摘され、ああ、恥ずかしい。
翌朝は、サクッと予約をして「昨日の深夜、早とちりして予約にトライしてつながらず、ハハハ私がバカでしたごめんなさい」というfacebook投稿をする予定でした。
しかし、状況は昨夜とまったく同じ、いやもっとヒドイことになっておりました。
症状1 まずはトップページにつながらない
症状2 券種番号と生年月日による認証もタイムアウト
症状3 名前・連絡先入力後、確認ボタンを押しても先に進めず
症状4 接種会場名が表示されてもカレンダーまで進めない
症状5 カレンダーで希望日を入力しても落ちてしまう
症状6 希望日時を選んだらトップページに戻れエラー
症状7 全入力完了し最終確認ボタンを押すとまたエラー
つまり、7つのステージでボスキャラをすべて倒さないと先に進めない激難しいゲームのよう。しかも負けたら「振り出しに戻る」で、ゼロから入力し直しなのです。
さらに心が折れるのは「なぜ負けたかもわからない」うちに「何も悪いことをしていない」のにゲームオーバーになってしまうこと。
気が付けば、既に1時間半経過。スマホとPCの二丁拳銃で優に200回以上はトライしております。ところが、一向に先に進める気配がないままゲームオーバー。そして、毎回毎回「券種番号」を入れ直し、母の生年月日をプルダウンで選ぶのが、なんとも面倒です。
そのたびに表示される、この見慣れた画面。
もしも、ログインに成功して、この接種会場選びなんぞ表示されようもんなら狂気乱舞です。
ところが、接種会場を一覧から選んだとたんに、また「処理を中断しました」画面。
なんで中断するわけ?
それでも、一度だけ、病院の日時指定までいったのです。
「やったー」と思って、日時指定をしてクリックしましたら
こんなんでましたけど。
それでもめげずに続けていたら(我ながらエライ)おお、ようやく行けたのです!
無事に日時を指定する画面まで。
ほっとしてクリックしたら、反応なし。
イヤーな予感。
ああ、やっぱりね。もはや見なくともメッセージを暗唱できます。
「処理を中断しました。大変申し訳ありませんが、トップページに戻るボタンからやり直してください」
絶望。そして「トップページに戻るボタン」を捺したら、また「処理を中断しました」画面が出てきて絶望アゲイン。
絶望のオーバー・アンド・オーバー・アゲイン。
結局、ステージ4まで行けたのが2回、ステージ6まで行って落ちたのが1回。
ああ、まるで、ギリシア神話のシーシュポスの気分です。
石を山の上に持ち上げても持ち上げても、石が落ちてきて、振り出しに戻っては、また持ち上げ続ける。
この世で最悪の罰を課せられたような気分。
ええ、そうです。せめてステージ4の希望会場まで入力したら、ウエイティングさせていただけないでしょうか?
そして、順番に逐次処理をして、つながった時点で空いている日時を通知してはいただけないでしょうか?
いや、そこまでも望みません。
もはや会場もどこでもいいです。空いているところを勝手に割り振っちゃってください。
私が母を車で送っていきますよ。都合がつかなければ、タクシー代を払ってもかまいませんから。だって、狭い墨田区内じゃないですか。
こんなことでは、やっとつながった時には、おそらくワクチン切れ、会場枠満杯で、どこも空いていないのだろうな。絶望した!
もはや同じ苦行をしているであろう墨田区に老いた両親を持つ子供たち(厳密にはおっさんおばさん)が、ライバルではなく同志に思えてきました。みんながスマホ片手に絶望する様子を実況中継して欲しい。
気が付けば2時間経過。フルマラソンの世界記録、あるいはゴルフのハーフラウンドができそうな時間です。その間に、スマホとパソコンで、1分間に2回はトライし続けた健気な私。これはこれで私にとってのギネス記録です。
ようやく奇跡的に最終確認画面までたどり着いたことがありました。さきほどは進めなかった日時指定クリックの後、初めて見る最終確認画面 が現れたのです。
自分でも何が起きたのかわからないラッキーに、一瞬目を疑いました。
「どうか神様!私に救いを」と心のなかで叫び、祈るような気持ちでポチッとしたら、あああああああ、もう200回以上見た「処理を中断しました」のでトップページに戻れとの命令画面。
もはや笑いしかでてきません。
そして、トップページにアクセスすると、なんてこった!うんともすんとも言わなくなった。
これは人格崩壊促進装置でしょうか?
あるいはゴールデンウイークの緊急事態宣言ステイホーム状況を楽しむ新種のホラーアトラクションかなんかですか?
モーツアルトを聴いて心を鎮めていますが、本当はデスメタルをヘッドバンキングしながら叫びたい気持ちです。何言ってるかわからないデスボイスで。
しかし、本当の絶望はこれからでした。
どんどん状況は悪化し、どの画面をクリックしても、あのエラーメッセージが出るまでに、信じられないほど長い時間がかかるまでになっていました。
そして、予約開始から2時間20分が経った、10時50分に、ついにトップページがこんなメッセージに変わりました。
ついにサーバーがパンクしたのです。
受付が停止してしまいました。
怒りを通り越して脱力。
これでは、もはやトライすることもできません。
仕方なく、仕事をしながら、時折、トップページにアクセスするのですが、相変わらず受付停止。受付停止。受付停止。
もはやこれまで。ゴールデンウイークは母のコロナワクチン接種の予約だけで終わるのかと思った正午過ぎ。友人からfacebook経由でうれしいメッセージが届きました。
それはまるで天から声のようでした。
「私も両親の予約をしております。少し前からようやくサイトスムーズになってきており、登録しておりましたら予約できました」
ホントかな。
ホントだ。
トップページのメッセージが消えてる。
それでも何度かはエラーが出ましたが、進めます。前へ進めます。
え、ウソ!ホント!?
もはやロジカルシンキング崩壊のひとりごとをつぶやく私。
そして、ついに…。
やったー!予約できましたー!
親孝行コンプリートだー!
たぶん、みんな「あの受付停止の絶望トップページ」を見てあきらめてしまったのでしょうね。
いざ、日時予約画面まで到達したら、まだ結構予約枠が残っていて、これまた驚き。でも欲張らずに、ちょっと先の日時を選びました。だって、直近の日時を選ぶ人が殺到しているに決まっていますからね。
そうか、ワクチンが足りないのでも、病院がいっぱいでもなかったのですね。単にアクセス集中だったのですね。だとしたら、やっぱりシステムがおかしい。
facebookにて悪戦苦闘しているであろう同志たちに「今がチャンス」とシェアしたところ、続々、予約できたとの喜びの返信が。なんだか嬉しいような切ないような 。
なお、欲張って2回目をと思ったら、それは接種後ですとのこと。そこはちゃんと?できていますね。
ああ、気が付けばスタートから4時間あまり。朝8時半から始めて、午後1時になろうとしております。
ようやく不毛の作業が終わりました。
まあ、ここで、愚痴ばかり言っていても仕方ないので、私が担当大臣あるいは首長だったらどうしたか問題点と合わせて提言いたしましょう。
問題点
- まずは高齢者にスマホと電話を使わせるのが間違い。わざわざ接種の案内はお金をかけて郵送しているにも関わらず、なぜそこで完結しない?
- うちの母のように「接種できれば時間はいつでも良い」人が大多数のはずなのに、わざわざ日時予約までさせて混乱させるのが間違い
- 高齢者は、ご近所の会場で打つとわかっているのに、わざわざ場所までを選ばせて、予約フローを複雑にするのが間違い
解決策
高齢な人から打つというたったひとつのルールで接種者を選んでいるのだから、高齢者は
- 時間に余裕があること
- 近所の会場に行くことを前提として、あらかじめ、日時と場所の候補を割り振って合理的に決め打ち
具体的には、会場ごとに接種者の住所で分類し、誕生日が昔の順から並べ替えることで、会場別接種者一覧表を作ります。そこに日時を入れるだけなので、表計算ソフトとバイトでできるレベルでしょう。
そして郵送した接種案内通知に、
あなたの候補日時と場所は、
第一回 〇月〇日〇時 〇〇会場
第二回 〇月〇日〇時 同会場 です。
との告知書兼確認FAX返送書を同封し、「その予定でOK」との返信を、自宅あるいはコンビニからFAXしてもらう。その日にどうしてもダメな場合は、1カ月遅れの予備日の中から選択して返送してもらう。
そうすれば、早く接種してもらいたい人は、大概はあらかじめ決められた日でいいと返送するでしょうし、返送で出席確認も取れます。
打ちたくない人は、おそらくFAXをしないでしょう。
問題は寝たきりの人、郵便も読めない人ですが、少なくともスマホと電話で予約しろというよりは多くの人をカバーできるでしょう。
それで、空きが出た場合に限り 、たとえば前々日の9時~ネットで募集をするという風にすれば、システム負荷は激減するはずです(私見ですが、こうした空き分は、病院、救急、消防関係者などのエッセンシャルワーカーに回した方が良いのでは?)。
それから、iUの教員でご一緒している平山敏弘さんにお聴きしたら、26日12時開始だった稲城市は、システムダウンも起きずにサクサク動いたとのこと。
墨田区で起きた悲喜劇は、おそらく5月1日というキリの良い日、しかも休日の朝8時半というタイミングで、日本中のこのシステムに乗っかっている自治体の予約受付が重なったからではないかと想像しています。
百歩譲って、このシステムを使うにしても、自治体の予約が重ならないように負荷分散をすれば、少しはマシだったと思います。
- 自治体毎に日時の分散を
特に人口の多い首都圏の自治体は、予約開始の日時が被らないように分散すればよかったのではないでしょうか。稲城市の26日のように。これは厚労省が指導すればできたはず - 同じ自治体でも、予約枠を二分する
券種番号末尾が奇数の人、偶数の人で、あらかじめ予約枠を二分して、別の日時で受注するようにすれば、負荷は半分になったはずです。これも運用面でなんとかなりそう
残念だなあ、コストをかけずにできる改善案なのに。
と言った改善案も行われることなく、おそらく、今度は自分自身のワクチン接種予約で、もう一度悪夢を見ることでしょう。と思っていたら、当メルマガ読者も多いであろう横浜市で1時間後にダウンしたそうですね。
そこで、個人でできる傾向と対策は
- 開始直後はアクセスが集中するのでやめる
- 4時間ぐらい経過してからアクセス開始
- 場所は人気がなさそうなところを選ぶ
- 日時は、〇がついている直近日ではなく先を選ぶ
- ダウンしてもそんなもんさと怒らない
ことぐらいでしょうか?
私のようにシャカリキになった人ほどバカを見る仕組みですのでご注意を。
後日、母に聴くと、ご近所の老人会仲間もひどい目にあっているらしいです。子供たちにも手伝ってもらいながら、ご近所の病院は既にいっぱいで選べず、どこか遠くの会場になってしまった人が多いらしいのです。
まさに、ジャパニーズ・ワクチン・ラプソディ。
iU教員仲間の佐藤紀行さんによれば、最初から、このためだけのシステムなど作らず、チケットぴあやEチケットのシステムを使わせてもらえば良かったとのこと。実際にその案を採用している自治体もあるようです。かしこいなあ。
マスメディアも、毎日、感染者の数だけ報道していないで、この目に見えない悲喜劇と、その対応策をきちんと取材してほしいですね。
やれやれ。大丈夫かニッポン!?
読者のみなさんのワクチン接種予約が、どうかうまくいきますように!!
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