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倒木の危険性もあり。ブナ科の樹木を襲う伝染病「ナラ枯れ」とは

枝の落下や倒木の危険性がある「ナラ枯れ」。近年、その被害が山間部だけでなく都市にまで広がりを見せていることをご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』ではマンション管理士の廣田信子さんが、マンション敷地内の樹木にも無縁ではないナラ枯れについて詳しく解説。さらにその被害拡大を防ぐ方法を、自治体が公開している情報を引く形で紹介しています。

マンションの樹木にも「ナラ枯れ」被害が…

こんにちは!廣田信子です。

みなさんは、「ナラ枯れ」って知っていますか?私は、恥ずかしながら、昨年、初めて「ナラ枯れ」というものを知りました。マンション内のナラ等の大木で、被害が数多く発生し、管理組合を悩ませたからです。

「ナラ枯れ」は、カシノナガキクイムシ(略称、カシナガ)という昆虫が媒介する「ナラ菌」によってナラ類、シイ・カシ類等のブナ科に起こる樹木の伝染病です。正式名称は「ブナ科樹木萎凋病」。この病気にかかると、樹木は、通水機能を失い、一斉に枯死します。ナラ枯れで伐採した樹木の中を見ると、痛ましいほど枯れ果てています。

ナラ枯れは、直径10センチメートル以上のナラ類、シイ・カシ類(ドングリの実がなる)で感染が確認されていて、大木になるほど感染する傾向が高いことが分かっています。樹木の幹に1.4~1.8ミリメートルの穴(根元付近に多い)があり、根元に木くずが溜まっている場合は感染の可能性があります。

水が上に上げられないため、木の幹や枝は枯れ果て、葉は茶褐色に枯れ、秋になって落葉しません。幹の中の変化には気づきにくく、秋になって落葉しないことで初めて気づくこともあるようです。

1980年代以降、日本海側を中心に拡大し、近年、全国的に被害が増加しています。もともと森林で被害が多く発生し、林野庁が対策を考えていたものですが、それが、森林から森林公園、街中の公園の樹木へ、さらに、マンション等民有地の樹木へと急速に広がっています。

首都圏でも、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の各県で、郊外の森林に近い地域から順に被害が報告されていて、各自治体で対策が検討されています。私の住む自治体は、海に面した、森林からは遠い地域ですが、そこでも被害が発生しているということは、かなり広範囲に被害が発生しているのだと思います。

どのようなメカニズムで起るのか調べてみると…酵母と共生しているカシナガ(5ミリメートルほどの昆虫)が、樹木の幹で繁殖する際に、酵母(餌)に紛れ込んでいるナラ菌を増殖させるために起こる現象だといます。

乾燥しにくい大径木の地面近くに雄が集団で多くの穴を開け、1組の雄と雌が1つの穴で子どもたちを育てるので樹木が、あっと言う間に、大量のカシナガファミリーの新築タワーマンションのようになってしまうのです。

それで、樹木は水を吸い上げられなくなって枯れてしまいますが、翌年の春には同じタワーマンションで育ったカシナガが数万から数十万の数で新居を探すことになります。そして新たな被害樹木が生まれるという形で、拡大していくのです。

なぜ、カシナガが大量発生するようになったのか…については、所説あって定かではないようですが、根本に、地球温暖化による高温で土壌が乾燥して樹木と共生している菌類が死滅して水や養分が吸い上げられなくなって樹木の生命力が衰えたことが素因(原因)としてあるといわれています。

拡大を止めるのはかなりたいへんなことです。カシナガにとっては、森林なのか、公園なのか、民有地なのか…は、関係ありませんが、一斉に対策をとらないと拡大を止めることはできません。

私の自治体のホームページには、下記の内容が書かれています。

伝染病に感染した樹木内で繁殖したカシノナガキクイムシは、6月から8月頃にかけて、別の健全なナラ類、シイ・カシ類の樹木にナラ菌を持って移動し、伝染病が拡大します。

 

したがって、ナラ菌の感染が進行した樹木は、感染を拡大させないため、カシナガの幼虫が羽化して飛び立つ前(5月まで)に、伐採・焼却処分を行う必要があります。その方法は、下記となります。

 

  1. 伐採:根元付近に多く侵入するため、根元から10センチメートル以下の高さで伐採
  2. 切断:伐採した幹や枝葉を切断(チップ化処理するため長さ80センチメートル程度)
  3. くん蒸:切り株を殺虫・殺菌するためくん蒸
    樹木に薬剤を浸透させ、ビニールシートなどで密閉し、害虫の駆除や殺菌をする方法(2週間程度)
  4. 搬出:切断した幹や枝葉を処理施設に搬出
  5. チップ化:焼却処分するため、幹や枝葉を細かくチップ化
  6. 焼却処分:チップ化した幹や枝葉を焼却処分

 

感染が確認された樹木は、その樹木管理者により適正な対応が必要です。

 

市では民有地への感染拡大を防ぐため、公園や緑地で感染が確認されたすべての樹木について、管理責任者として3月末までに伐採・焼却処分を行います。

 

民有地についても、その樹木管理者が伐採から焼却処分(上記1から6)までを自ら行う必要がありますが、市は、感染拡大防止の観点から、今回に限り、市の管理樹木の処分に併せてチップ化と焼却処分(上記5、6)を行います。

ナラ枯れ感染拡大防止のおねがい

昨年から、人間の世界では、新型コロナウィルスのパンデミック、植物の世界では、ナラ枯れのパンデミック(と表現されている専門家が…)。共に、その背景には、地球環境の変化があると思われ、深い因縁のようなものを感じてしまいました。

皆さんの地域、マンションはだいじょうぶですか?皆さんの自治体では、どんな対策が取られていますか?この話を友人にしていたら、そもそも、自分のマンションの庭にどんな樹木があるかなんて知らない~と。私も同じようなものです。

近隣の感染状況や自分のマンションの樹木の種類を確認して幹の根元近くの変化に気を付け、兆候が確認されたら、樹木がカシナガのタワーマンション化してしまわないうちに、できるだけ早く処理して、周りへの飛び火を防ぐことが重要になってくると思います。ナラ類、シイ・カシ類(ドングリの実がなる)の幹の太い木がある場合は特に要注意です。

そして、いろいろ調べると…森林のナラ枯れは深刻で、重点箇所においては、可能な限り閉じ込めて広がらない対策をとらなければならないのですが、たくさんの樹木が密集している森林で、完全にカシナガの飛び火を防ぐのは至難の業で、大木を予防的に伐採してしまうしかないという話まであります。森林での巨木の枯死は将来的な斜面崩壊にもつながる可能性が高いと心配されています。

最終的には、地球環境を回復して、樹木の生命エネルギーを高めるしかない…というところは、人間と新型コロナウイルスとの関係と同じかもしれない…と思いました。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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