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「いじめ放置王国」佐賀県某市の異常。杜撰な第三者委の選定基準

腐敗しきった教育行政の現場には、もはや自浄作用など期待できないようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では著者で現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、全国の自治体に設置されているいじめを巡る条例について、それらの多くが「瑕疵だらけの欠陥条例」であると断言。その上で、我々国民による教育行政の放置は国難しか招かないとの警告を記しています。

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佐賀県のある市では「とんでもない」条例も。瑕疵あるいじめ条例が横行

「いじめ防止対策推進法が教育現場に浸透していない」

どの専門家に聞いても、1つでも現場を知っている専門家であれば、この問題は深刻なんだと話すであろう。

まあ、学校擁護をする専門家と、これは専門家と言えるかどうか不明だが現場を知らない人は、そんなことはないというか、教員の労働環境がブラックだからだと話をすり替える。

実際、いじめ防止対策推進法を知っている教育現場はあるものの、その通り実施できているかと言えば、相当に怪しいものだ。

私がいじめの現場にいくと、対応する教員や教育委員会の担当はいじめの定義すら怪しいケースは常である。

ただ、いじめに関する法律はそれどころではないのだ。実はもっと根本的なところで、大きくねじ曲がってしまっているのだ。そして、これはもはや収拾がつかない状況に陥っている。

福島市の条例といじめ防止対策推進法の差異

2020年9月に報道で明らかになった問題では、福島市でおきたいじめ問題は、国のガイドラインによれば、「重大事態いじめ」の要件を十分に満たしていたが、福島市教育委員会は福島市のいじめ条例の条文を盾に「重大事態いじめ」と認めなかった。

多くの識者が法の趣旨の曲解だと批判した。さらに、これが異常だということで報道されると、途端に態度を変え、自傷行為があったことで重大事態と認めると言い始め、第三者委員会の設置を認めたのだ。

自傷行為はすでに申告も報告もあったことであろうが、何か苦し紛れに言い逃れる方法もないままに自らの誤りを認めないために、わかりきった理由をこじつけたわけだ。

こんなやり方で、福島市教委は真摯に対応してきたというが、信頼関係を構築できるわけもないし、崩壊の原因そのものだと言えるだろう。

ただ、これは福島県の地元紙が勇気をもって報じたから世間に伝え漏れたに過ぎず、このような事態は多数の地域で起きている。

私などはこういう事態をこの「伝説の探偵」で報告するから、議会の議事録や委員会の議事録に、「とんでもない探偵記者ヤロウ」として記載されている。

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佐賀県のある市のとんでもない条例

まずは、いじめ防止対策推進法の始まりを見直してみると、大々的に報じられた凄惨な大津のいじめ事件がきっかけとなっている。それまで、学校任せだったいじめをしっかりと法整備することで、いじめ問題に歯止めをかけようとしたのだ。だから、いじめ法の大前提は、「被害者の立場に立って」になっている。

立法は議員立法であり、勉強会などを重ねて海外のいじめ法を研究してできたものである。施行となって、多くの抜け道や被害者側やご遺族側の不満はあったし、改正の指摘も多くあったが、そもそも初めの段階から完璧な法はなかろう。

実施と運用を重ね、多くの知恵が集まって、様々な人の汗や涙を重ねて法とはより実態に適したものへとなっていくが、いじめ法は改正期に校長会の強い反発などがあり、結局改正できなかった。

つまり、いじめ法に関しては、立法から運用面で問題などの改正が進まないまま、一種の妨害勢力があって歪んだ解釈が横行している状態であると言える。

また、いじめ法は各自治体でいじめ条例を作り運用することになっている(条例がまだないという地域もありそうだが…)。つまり、いじめ防止対策推進法は各地域で条例ができていて、その中で運用のルールなどを規則にして決めるが、福島市の前例のように、いじめ法といじめ条例の差異が生じているのだ。

佐賀県のある市でも条例があるが、これを見ると、いわゆる第三者委員会についての記載は下記のようになっている。

いじめ問題専門委員会

 

(設置)

第10条法第14条第3項及び第28条第1項の規定により、〇〇市教育委員会(以下「教育委員会」という。)に○○市いじめ問題専門委員会(以下「専門委員会」という。)を置く。

 

(所掌事務)

第11条専門委員会は、教育委員会の諮問に応じ、次に掲げる事務をつかさどる。

 

  1.  いじめの防止、いじめの早期発見及びいじめへの対処のための対策を実効的に行うための専門的知見に基づいて審議を行うこと。
  2. 市内小・中学校における法第24条に規定する事案について調査すること。
  3. 市内小・中学校における法第28条第1項に規定する重大事態について調査すること。

 

(組織)

第12条 専門委員会は、委員10名以内で組織する。

2 委員は、次の各号に掲げる者のうちから教育委員会が委嘱する。

 

  1. 学識経験のある者
  2. 市内小・中学校に在籍する児童・生徒の保護者
  3. 関係行政機関の職 

法律の細かな解釈はややこしくなるので省くが、簡単に言えば、「法第28条第1項」というのが第三者委員会が行う重大事態の調査のことで、これに当たる委員会の構成メンバーについて定めたということである。

その構成メンバーが最も下部に示した3つの属性になっているが、ここには、

  1. 学識経験者
  2. 現在の保護者、
  3. 大まかに市の職員

となっている。

ところが、文部科学省の重大事態いじめガイドラインには下記のように第三者委員会を構成するよう明確に記されているのである。

いじめ重大事態の調査に関するガイドライン・文部科学省より抜粋

つまり国の基準では、「法の専門家」で事実認定に長けた弁護士、医師から精神科医、学識経験者、心理や福祉の専門家など、いじめ問題で中心的な課題となる問題に対して専門的な知識や技能、経験を有する専門家で調査委員会を構成するように要請しているのだ。

佐賀県の○○市の条例は、法の専門家の記載がなく、心や福祉、精神の専門家の記載がないわけだ。

多くのケースで、学識経験者は元校長など教員が当たるが、PTAの会長を歴任している人もその範疇にある。

また、この市の条例では、保護者の代表が委員になるという記載があるが、そもそも保護者の代表にいじめの専門的な関連知識や経験があるのだろうか。

職業柄たまたま専門知識や経験を有しているという保護者もいようが、それは偶然の産物に過ぎないだろう。

また、場合によっては、市教育委員会の対応についても調べる必要がある第三者委員会にとって、市の職員や関連行政官が関わっては、その時点で第三者性は不存在とするのが一般的であろう。

事実運用では弁護士などの専門家は第三者委員会に入ったことがあるというが、それでは、条例の記載の何に当たるのか不明瞭になっており、この条例は設置段階ですでに瑕疵があり、欠陥条例と言わざるを得ないであろう。

しかも、こうした条例は目を覆うほど多く各地域に点在し設置されてしまっているのだ。

つまり、各地にある条例は、「いじめ法」乃至「国のガイドライン」と結果が異なる形で、いい加減に設置され、いじめ問題が起きると勝手に発動され、勝手に有効に機能させられており、被害者やご遺族だけがある種の瑕疵条例の被害者になっているのだ。

これはハッキリ言って、地方議会の怠慢と各地の教育委員会が如何に「いじめ」を軽んじ、他人事に放置した結果であろう。

また、事態を把握しつつも、本腰を入れない国と文部科学省の怠慢であるとも言えるだろう。

もちろん、必死で動いている人もいるのを知っているので、批判だけになってしまうのは避けたいところではあるが、結果はどうしても追いついてこないし、ここで手をこまねいている間にも今まさに命を絶とうとする子は後を絶たないのである。

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あるテレビ番組で

あるテレビ番組で地方議員が年収で1,000万円以上をもらいながらも、議会では居眠りを連続して行い、人によっては議題とは全く異なる本を読んでいる様子を撮影し、その後、なぜそんなことをしたのかと質問に行くというのをやっていた。

一部の議員は困った様子で事実を認め、謝罪していたが、逆切れして車で逃げだすような議員もいた。

ハッキリ言えば、こんな議員は今すぐ辞職していただきたい。少なからず、居眠りした分は全て報酬を返納し、一生涯議員などにはならないでもらいたい。また、そんな居眠り多発でも成立する議会であるならば、居眠り議員や内職議員の議席は削減してもいいだろう。

その分余った予算があれば、教育に回して頑張る教員らの残業手当に充てればいいし、数が足りないのであれば報酬基準をあげて、地方行政に必死で汗をかく職員に回せばいい。コロナ禍の今であれば、報酬の安い医療従事者や足りない医療インフラがあればそこに回せばいい。

特に杜撰で法との乖離があるいじめ条例をやるような議会などは、いくら子どもの福祉だ、安全だと言ってもその実はうわの空なのだろう。

いずれ怠慢条例だと明らかになる。その前に、改正してもらいところであるが、彼らに自らを省みる志はないだろうから、地域の恥となる公表を居眠りでもしながら待っていたら良いかもしれない。

編集後記

条例ボロボロです。ハッキリ言って、どこに行っても、立法の趣旨を知らんのか!と怒鳴りたくなるほど杜撰です。あまりに教育委員会がコントロールできることを想定したものであることから、法の悪用としか思えないものばかりを見ています。

「ここにも王国があったか!」

教育行政は独立していて、結果誰も手を入れることができない仕組みになっています。首長が教育長を任命する仕組みがあっても、多くは次の教育長は決まっていて、それを単に承認しているだけというのが実態です。

そうして、法にも従わなくてもお咎めがない王国ができあがるのです。

仮に審議会のような監視組織を作ろうにも、結局は教育行政側から人が来たり、ズブズブの関係の専門家が来て、いいようにできる組織が出来上がり、終わります。

信託された議員も権力に巻き取られたり、目をつけられて身動きが難しくなります。実際にきちんと動けている議員さんはごく僅かであり、脅迫を受けたりすることもあるようです。

日本が真に民主主義であるならば、国民市民は行政を監視し、選挙により信託を受けた議員に立法を行わせ、不正を正したり、特権階級による理不尽が起きないようにしていくのが正道でしょう。

そんな単純ではないことはわかっていますが、教育行政の放置は国難しか招きません。ブラック校則も然り、教育委員会の形骸化や王国化も然りです。

今回取り上げたようないじめ条例などがあれば、ぜひとも教えてください。リスト化し分析して問題提起を続けていきたいと思います。

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image by: 伝説の探偵

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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