ネット記事などでよく目にする「ブレない人が成功する」という法則めいたフレーズがありますが、それは思った以上に真理をついているようです。今回のメルマガ『深沢真太郎の「稼ぐ力がつく! 数学的思考の授業」』では、ビジネス数学教育家で大学でも教鞭を執る深沢真太郎さんが、確率思考の観点から「ブレない人」が人生において有利である理由を証明。さらに「ブレない人」になるための条件を考察し提示しています。
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確率思考:なぜ「ブレる人」はうまくいかないのか
本日も学びのためにお時間をとっていただき、ありがとうございます。
前回に続き意思決定とメンタリティの話。そこに数字や確率思考はどう関わるのか。机上の話ではなく、ビジネスの現場で戦う人のための話を続けたいと思います。
今回は「ブレる」という心の症状について話題にしてみたいと思います。この「ブレる」とは一貫性がないという意味で使われる言葉です。
皆さんの職場にも「ブレる」人はいるのではないでしょうか。言っていることがコロコロ変わって一貫性がない。なんというか軸がないというか…最近読んだ本とかにとても影響されたり(笑)。
私は「ブレる人」と「ブレない人」のどちらになりたいかというと、もちろん後者です。人としてカッコいいと思います。加えて私は「ブレない人」の方が人生においても有利なのではないかと思っています。それを説明するために、また簡単なモデルを用意します。
2つの箱があり、それぞれをAとBとします。Aにはくじが2枚入っており、あたりとはずれが1枚ずつ。一方のBはくじが100枚入っており、あたりが51枚ではずれが49枚だとします。それぞれの箱でくじを1枚引いた時の当たる確率は次の通りです。
A 50%
B 51%
当たりを引く確率が高いのは箱Bです。普通に考えれば、誰もが箱Bを選んでくじ引きをするでしょう。そこでこんなことを考えます。
<Q1>
どちらかの箱を選んで本日1回だけくじ引きができます。
あたりが出たら100円もらえます。
箱Aを選ぶことは絶対に無理でしょうか?
実際にあるビジネスパーソンにこの問いをしたところ、このような答えをいただきました。
「絶対に無理かと言われると…実際のところたった1%の違いですし、ほとんど変わらないから箱Aでもいいかなぁと思ったりするかも」
頷く方も多いのではないでしょうか。確かに確率もほとんど変わりませんし、得られるものもたった100円ですから、そう考えるのは不自然ではないと思います。ではこのような条件だといかがでしょうか。
<Q2>
本日から10年間、どちらかの箱を選んで毎日1回だけくじ引きができます。
日によって箱を変えても構いません。さてどうしますか。
いかがでしょうか。ちなみに先ほどのビジネスパーソンの方は「迷わず箱Bで固定して10年間やります」と答えました。そこで私はその理由を尋ねます。
「うーん…なんでだろう?(笑)」
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なぜこの方は答えが変わったのか。ここから私の解釈を説明します。いつも申し上げることですが、ビジネス数学は正解がありません。いろんな解釈があり、いろんな解がある。ぜひ皆さんもそのことを楽しんで欲しいと思います。
話を戻します。
まずは箱Aと箱Bの違いを整理しましょう。
仮に箱Aで1,000回のくじを引くとします。大雑把に考えて、あたりは500回引くと予測できます。
では箱Bで1,000回のくじを引くとします。大雑把に考えて、あたりは510回引くと予測できますか。つまりこちらの方を選ぶ方が賢いですね。
続いてQ1とQ2の違いを整理しましょう。
Q1は1回だけくじを引けること。
Q2は10年間ずっと毎日1回だけくじを引けること、つまり3,650回もくじを引けることになります。
加えてQ1はうまくいっても得られるものは僅か100円。
しかしQ2はうまくいけば365,000円を手にできます。
Q2においては箱Bを選ぶ方が合理的な選択であり、途中で箱Aに“浮気”してしまうことは確率の高い方を選ぶという判断基準を守らない行為、つまり「ブレている」ということになるのです。
得るものが小さい場面での意思決定はブレても大きな影響はありませんが、得るものが大きい場面での意思決定はブレずに確率に素直になった方が賢いのではないかということです。
「迷わず箱Bで10年間やります」とおっしゃったのはそういう心理が働いたからではないでしょうか。そしてそれは確率思考の観点から強く推奨するものです。
つまり、もし人生において確率の高い方を選ぶという判断基準を持つなら、それは徹底して続けるべきだということです。短期的なものや重要でないものならその場でどう決めようと自由です。しかし長期的なものや重要なものは確率の高い方を選ぶという姿勢を貫き、それがブレない方がいいのではないかということです。例えば長期的な投資はリスクの小さい銘柄を選び、短期的な結果に一喜一憂することなく、“浮気”せずに継続することが大事だといいます。
この授業で主題にしているビジネスや人生というものは、私たちにとって明らかに長期的で重要なものです。続ければ100を手にすることができるのに途中でブレてしまったがゆえに70しか手にできなかったとしたら、それはとてももったいないことだと思います。
人生は長い。だから確率思考で考え、それを一貫して継続する方がトータルでうまくいくのではないか。私はそう思っています。皆さんも「ブレずにいこう」と思うのなら、それは「確率に素直になろう」と同義だと私は考えます。「ブレる」という極めて心理的なテーマも、確率思考で捉えてみるとこのような解釈もできるのではないでしょうか。
自己啓発書やそのようなセミナーでは「ブレずに軸を持っている人は成功します」といった類の教え(?)が存在するようです。信じるかどうかは皆さん次第ですが、少なくとも確率思考の観点では正しいことを言っているように思います。個人的な考えですが。
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ただし、先ほどのような「ブレない人」になるためには条件があります。確率という数値に素直になれるかです。すなわち、Aが50%でBが51%であるなら迷わずにBを選び固定することができるか、そしてそこに「でも」「だって」「そうは言っても」という選ばない理由を持ち込まないメンタリティがあるかどうかです。
かつて私の上司に「根拠は必ず数値で示せ」とおっしゃるタイプの人がいました。でも実際に根拠を数値で示すと、「まあ数値はそうだけどさ」や「そうは言っても」ばかり言って結局は意思決定せずに逃げていました。数値に素直になれないなら、そもそもその意思決定に数値はいらないということになります。「根拠は必ず数値で示せ」という主張はとても矛盾しますね。
一般論として、「でも」「だって」「そうは言っても」という言葉を発する人は成果が出ないように思います。確率思考を使うならなおさら、ということでしょうか。私自身も気をつけなければと戒めます。
似たような話ですが、たとえば100点満点で合格点が70点以上と設定された試験があるとします。70点以上と決まっているのですから、70点は合格であり69点は不合格です。もしここで「まあ点数は足りないけど」や「そうは言っても頑張ったし」などと言い始めてしまうと、この70点という合格基準は全く意味がないものになります。そんなことを言い始めるなら点数に関係なく全員を合格にすればいいと思ってしまいます。
70点は合格だけど69点は不合格だとはっきり区別し、例外は認めないと腹をくくる必要があります。数値で意思決定すると決めたなら、一度たりとも例外を作ってはいけません。そういう意味で、私は「ブレる人」とは「例外を作ってしまう人」だと思っています。絶対に例外を作らない強い意志が、現実の世界で意思決定できる人の心的傾向です。
私もビジネス数学という数字と論理の世界で生きる人間です。だからメンタルなんて関係なく、数字や論理が最強であり、それで導いた答えが正解であると本当は言いたいんです。確率思考の授業ですから、確率が万能であると声高に言いたいんです。
でも、当たり前ですがそんなことはありません。人間に意思決定できるメンタリティがなければ、数字や論理はあまりに無力なのです。意思決定できるメンタリティの人だけが確率思考を武器にできる。そういうことです。
(メルマガ『深沢真太郎の「稼ぐ力がつく! 数学的思考の授業」』2021年5月25日号より一部抜粋)
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