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軍事アナリストが愕然。某国海軍「1年間も情報タレ流し」の過去

大規模接種センターの予約システムの欠陥を指摘された岸防衛大臣が、メディアの手法に対し激高したことについて、前回記事「日本は独裁国家か。メディアを犯罪者扱いした防衛大臣の逆ギレ発言」で、日本の弱点を晒していると警鐘を鳴らした軍事アナリストの小川和久さん。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、マスコミに指摘された防衛態勢の欠陥を1年間も放置していた驚きの事例を紹介。検証はマスコミの重要な役割であり、国と軍隊はその成果としての指摘に腹を立ててはいけないと釘を刺しています。

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マスコミが国防の穴を教えてくれる

5月27日号の編集後記では「日本の弱点をさらす防衛大臣の抗議」として、政府の政策を検証する上でマスコミが果たす役割について述べました。そこで今回は、マスコミが国の防衛態勢の欠陥を発見し、指摘したのに、それでも政府の側が問題点を放置していたケースをお話ししましょう。

私が関わりを持っているある国の海軍のお話しです。この国は世界有数の先進国で海軍力も世界でベストテンに入るレベルにあります。15年前の2月のある日、その国の新聞社のサイバー取材班から、防衛上の秘密と思われる情報がネット上に出ているので、本物かどうか確かめて欲しいと連絡がありました。数日後、サイバー取材班の主だった記者が私の仕事場にやってきました。ネット上に出ている情報は膨大で、メールでやり取りすることは無理で、パソコンごと持ってこなければならなかったのです。

一目見て、私は本物だと確認することができました。その国の海軍の秘密区分は上から機密、極秘、秘と3段階になっていましたが、少なくとも秘、なかには極秘に相当するものがあると思われました。

私はサイバー取材班のキャップに言いました。「これは国家安全保障上の問題だから、後ろから斬りつけるようなだまし討ちはしないで欲しい。国防省と海軍の広報に確認を求め、その上で大きく報道して国民に警鐘を鳴らして欲しい」。キャップは、自分も軍人の息子なので、だまし討ちはしないと約束してくれました。

ネットに上がった情報は、情報関係者にとってはヨダレが出るほどのご馳走ばかりでした。一例を挙げると、対潜水艦戦の訓練のシナリオがあります。海軍の駆逐艦が敵の潜水艦をどのくらいの距離から探知し、どんなスピードで追跡し、水上艦艇、潜水艦、哨戒機の3者で包囲し、どの武器で攻撃するのか、それが具体的に記されていたのです。手の内をすべてさらしたことになります。

私は友人である統合参謀本部議長に新聞社のサイバー取材班がネットへの情報流出を発見した旨、専用回線で連絡しました。議長は、軍のトップである自分に海軍は連絡してきていないと怒り心頭でした。

しばらくして、海軍の広報部門などを束ねる少将から電話が入りました。旧知の人物で、将来は海軍のトップになるとみなされている秀才ですが、「大丈夫でございます。秘密というレベルのものではありませんから、ご安心ください」と軍人らしからぬとぼけたことを口にしました。私はその脳天気さに思わず声を荒げてしまいました。

「情報は私のところに持ち込まれたものだ。それを私が検証し、統合参謀本部議長に連絡したことを知らなかったのか。大丈夫だ、安心しろなどということは、マスコミ相手に言う言葉だ。私をなんだと思っているのか」

この海軍少将は人格、識見ともに秀でた人物で、8年後、統合参謀本部議長に就任しましたが、有事に必要な緊張感に乏しいのを自覚して欲しいと思いました。

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そして、その1年後、私は愕然とさせられ、しばし、ものも言えない状態に陥りました。ネットに流出した情報のうち海軍の艦艇の通信網の穴が塞がっていなかったのです。なんと、流出したときのまま放置されているではありませんか。130隻の主要艦艇の専用回線の電話とファックスの番号が1年間にわたって丸見えの状態になっていたのです。敵国やテロリストが、1台のパソコンでこの国の海軍を混乱状態に陥らせられることは、簡単だとわかりました。

サイバー取材班には、私は意識して通信網の脆弱性を指摘しませんでしたから、新聞の記事にはなっていません。それもあって、ハッカーなどにも気づかれずにすんだのでしょう。あるいは、中国やロシアの軍部や情報機関は、世界有数の海軍がそんなバカなことをする訳がないと、ネット上の情報をフェイクだと受け取ったのかも知れません。不幸中の幸いでした。

さらに1年後、私はこの国の国防大臣の会議に呼ばれ、陸海空軍の問題点を指摘するよう求められ、海軍については通信網の脆弱性が放置された問題を報告しました。

このように、情報の流出について新聞が気づかなければ、多数の脆弱性がネット上にさらされ続けたことはいうまでもありません。これは偶然の出来事でしたが、意識的にマスコミが軍の防衛態勢の問題点を検証し、脆弱性を発見することもあります。マスコミはそれをもっともっとやるべきなのです。脆弱性が放置されているとしたら、それは軍の落ち度や怠慢の産物で、国民を危険にさらしているのですから。

国防省と軍は、マスコミの検証に腹を立ててはいけません。敵の情報幕僚はこちらの脆弱性を探しているわけで、それよりも早くマスコミが発見し、教えてくれることは、むしろ有難いことなのです。(小川和久)

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image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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