とても同意できる話ではないけれど、否定すれば角が立つと考え、その場はなんとなく笑ってごまかしてしまったという経験、ほとんどの方がお持ちではないでしょうか。今回のメルマガ『久米信行ゼミ「オトナのための学び道楽」』に読者から寄せられたのは、そのような姿勢は改めるべきなのか否かという質問。著者でiU情報経営イノベーション専門職大学教授の久米さんの返答は、武道家と著名な経済評論家からの学びを交えた、ユニークかつ大変有用なものでした。
オトナの放課後相談室「笑ってごまかすクセはありなのか?」
Question
行きつけの飲み屋さんで、気の合わない常連さんに絡まれると、私は明確な返事をせずに笑ってやり過ごすクセがあります。
場の空気を壊したくない、もめ事を起こしたくないという気持ちが働き、「それは違うだろ」と思うことを言われても、ニコニコしてごまかしちゃいます。
でも内心では、「守ってるなぁ」「ズルいな」「臆病だなぁ」と思っていて、少し自己嫌悪しています。
一方で、それにより大きなトラブルにはあっていないので、飲みの席では及第点の対応なのかとも思っています。
元から気の合わない人と無理して仲良くなろうとも思っていないので。
こういう姿勢は、改めるべきなのか、それともアリなのか、客観的なご意見を頂ければ幸いです。(東京都・43歳、男性)
久米さんからの回答
「あり」だと思います。笑顔こそ最大の防御なり。そして逃げるが勝ち。
今から25年ほども前になるでしょうか?ふとしたことから武道家の青木宏之先生から教えを受けることがありました。
青木先生は、気を使った「遠当て=体に触れずして相手を飛ばす」で知られる方で、いわゆる力でねじ伏せる武闘家ではなく、瞑想家に近い人格者でした。
ですから、青木先生からは瞑想やリラクゼーションを学んだのですが、ある時、バカな質問をしたことがありました。
「私は武道の心得がないのですが、どうしたら強くなれますか?」
正直言えば、青木先生の道場に通って強くなりたかったのです。
すると、青木先生の答えは意外なものでした。
「笑顔を浮かべていればいい」
???
曰く、笑顔を浮かべていれば、余計な争いに巻き込まれないとのこと。
それに、強がってにらみを利かせている人よりも、笑顔を浮かべている人の方が実は強くて怖いのだそうです。そう青木先生のように…。
以来、私は、いつも笑顔を浮かべるようにしているのです。
即ち、「笑ってごまかすクセ」は、私が敬愛する武道家から教わり、日々心掛けている「強くなる心得」と同じなのです。
さらに大切なのは、アブナイところに近づかないことだそうで、危険を感じたら逃げることが大切だと教わりました。「君子危うきに近寄らず」ですね。
ここで言うなら、行きつけのお店であっても、気の合わない常連さんがいたら、お店に入らないし、入ってきたらさりげなく店を出るということでしょう。
行動パターンがわかるなら、その人がいそうな日には、別のお気に入りの店を見つけて楽しむというのはいかがでしょう。
これはズルいことでもなんでもないですし、わざわざ大切な時間とお金を使ってまで、イヤな思いをする必要はないのです。
もうひとつ、これは証券会社勤務時代に、ある著名な経済評論家からこっそり教わったことをお伝えしましょう。
その先生の事務所に英語の格言ポスターがあったのですが、直訳すると「あなたが正しい時は誰も覚えていないが、あなたが間違った時は誰も忘れない」というメッセージ。そうか、経済評論家は間違ったら大変なんだなと思って、そう先生に告げると、実は違う意味で、この言葉を肝に銘じているとおっしゃるのです。
「バカに間違っているよと教えると恨みに思う」
「だから間違っているよと教えて良いのは賢い人にだけ」
これは、20代の私には衝撃的な言葉でした。
極論すると「バカにバカと言ってはいけない」ということです。つまり「バカはバカと言われるとそこから学ばず怒るだけ」ということでしょう。
以来、なかなか難しいことではありますが、私は、その教えを守るようにしています。
もちろん、言いたい気持ちになることもあります。しかし、思い切って言ったところで、意味がないどころか逆恨みされるのでは、指摘し甲斐もないですからね。
ということで、「笑ってやり過ごし、あえて間違いを指摘をしない」のは、ズルいどころか、賢いとさえ思うのです。
あとは、その人に会わないための知恵と、その店に変わる居心地の良い場所の発見が必要ですね。願わくば、その新しいお店が、お互い腹の底からホンネで語り合い、学び合い、成長できる友と出会える場所でありますように。
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