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コロナ有事で露呈。京大・藤井聡教授が考える「日本経済が地獄に堕ちた根本原因」

先日掲載の「京大教授が呆れた、吉村府知事「飲食店いじめ」発言の支離滅裂」等の記事で、国や自治体のコロナ対策を痛烈に批判した京都大学大学院教授の藤井聡さん。大阪の問題だけでなく、なぜ日本政府はコロナ禍という“有事”に、対応が後手後手なだけでなく、日本経済にとってむしろ悪い方向に進むような判断ばかりしてしまうのでしょうか。藤井教授は自身のメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』の中で、この原因を日本から「政治」が不在になったことだと推察。過去の消費増税や今回のコロナ禍で繰り返す失敗を例に、日本の「政治不在」の深刻さを分かりやすく解説しています。

(この記事はメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』2021年6月12日配信分の一部抜粋です。続きはご購読の上、お楽しみください)

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コロナ禍が炙り出す、日本に「政治」が無くなったという真実

今の日本経済も社会も、大変に惨たらしい状況に陥っている……と感じている方は、当方だけではないと思います。

政府はコロナ禍を重く見て「緊急事態だ! 宴会スルナ!」とタテマエでは言っていますが、感染症対策に関わる厚労医系技官は23人で宴会をしたり、五輪は兎に角やるのだと主張しているところを見ると「ホンネ」では、さして緊急事態だとは思ってはいないことが透けて見えます。

こうして自粛させているが故に経済は大いに冷え込んでいますが、欧米諸外国とは比較にならないくらいに補償は全く不十分の状態ですので、経済は激しく疲弊し続けています。

しかも、コロナ禍以前に消費増税で日本経済は大打撃を受けていたのにそんな議論は殆どなされておらず、消費減税の議論は全くされていません。

……そんな事を考えていた所、とある記者の方から、「日本経済・社会は、なぜ今のような有様になってしまったとお考えですか。詳しくお聞かせください」とご質問を受けました。

「詳しくお聞かせ下さい」

とのご質問だったので、かなり詳しくお答えしてみました(笑)。おそらく、詳しすぎて全て採用されないと思いますので、その時にお答えした内容を踏まえ、そこでお話しした内容をさらに膨らませつつ改めてじっくりと、なぜ日本がこんなに滅茶苦茶な国になってしまったのか……というお話を、政治学的、政治思想的にここにご記載したいと思います。

まず最初に申し上げねばならない、日本がこれだけ惨たらしい状況になってしまったことを考える上で一番大切なポイントは、『今の日本社会には「政治」存在していない』ということです。

そもそも「政治」とは何かというと、状況を把握しながら、なすべき事を考え、決断し、実行することです。つまり、政治の本質は「政治的決断」にあります。そして今、日本にはそういう「政治的決断」が存在していないのです。

【関連】京大教授が猛批判。緊急事態宣言の延長で「重症患者が逆に増える」不条理

これまでの日本は、そういう決断がなくても、何となくやってくることができました。

戦後は、外交や安保問題を全てアメリカに任せることができたので、政府が政治的決断を何もせずとも、国民がそれぞれ政治の事を考えずにカネ儲けにだけ勤しんでいれば、それで成長することができ、それぞれが少しずつ裕福におカネ持ちになっていくことができたのです。

それが高度成長期の成長であり、バブル時代の好景気と呼ばれるものでした。

ですが、政治が巨大な間違いを引き起こしてしまい、日本は地獄に落ちていくことになります。

それが、1997年の消費増税です。

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そのとき、政治は何もせずに民間に経済を任せておけばよかったのに、バブル崩壊後に政府が経済対策を行い、政府の国債発行額が少し増えてしまったことに肝を冷やし、「政府の借金が増えてきた、このままでは日本は破綻するーーー!!」とビビりまくってしまい、あたふたとし、馬鹿な事に「それじゃぁ、安定財源の消費税を増税しよう!これなら、バブル崩壊後の不景気の時代でもコンスタントに税収が入ってくるからだいじょうぶだぁ~~~!!」と言い出したのです。

で、そういう馬鹿な学者なりエコノミストなりのアドヴァイスを真に受けて消費税を増税し、それによって、デフレになったのです。

言うまでも無く、デフレになったときに成すべきは、財政赤字=政府支出の拡大です。

なぜなら、極々簡単に言うなら、デフレとは、「あらゆるお店でお客さんが少ない」状況であり、デフレ脱却を目指すために必要なのは「お客さんが増えること」だからです。で、お客さんが増える、ということを、政府自身が主体的に行おうとすれば、政府がおカネをいろんなところで散々使うということの他ありません。そしてそうすれば必然的に財政赤字が拡大する事になるわけです。

だから、財政赤字の拡大がデフレ脱却のためには絶対に必要なのです。

逆にデフレの時に財政赤字を縮小させれば、政府はおカネを使わなくなり、ますますあらゆるマーケットでお客さんが少なくなり、デフレが深刻化する事になるのです。

ちなみにそんなことは、誰でも少し考えればわかる話ですし、マクロ経済学の教科書にも書いてあること。 

だから諸外国はそれを当たり前の様にやっています。リーマンショック時のアメリカ、中国は巨大な財政赤字の拡大を行い、デフレ化することを防ぎました。今回のコロナ不況でも、欧米は未曾有の財政赤字拡大を行い、コロナ不況からの脱却を図ろうとしています。

でも、日本にはそもそも政治がなかったので、財政赤字の拡大を果たす、という政治決断が出来なかったのです! だから、デフレになって税収が減って財政赤字が増えてきたというだけで、あたふたとビビってしまい、当たり前の対策ができなかったのです。

そしてもちろん、今もなお、出来てなどいないのです!

それはひとえに、政治の根幹である、国家の存続の問題(つまり安全保障の問題)の全てを、自分でやらずにアメリカに委ねてきたことの帰結として戦後日本人に「政治的決断」なるものができなくなってしまったから……なのです。

本当に残念という他ありません。

当方は、もう少し日本人でも政治ができるんじゃないかと期待して、内閣官房で参与として様々な内閣の皆様にアドヴァイスさし上げてきましたが、残念ながら、デフレ脱却も、防災力の抜本的な強化(=強靱化)も実現することはありませんでした。

そんな中でもどうにかこうにか、デフレ脱却や強靱化が進むためにどうすれば良いか考えてきましたし、そして、これからも考え続けようとは思ってはいますが、今回のコロナ騒動を契機に、日本の政治の不在っぷりが、余すところなくクッキリと露呈されてしまったように思えます。

欧米と客観的に比べれば「さざ波」と言われる程の水準の感染拡大を、まるで「大津波」の様にとらえて、アメリカと同水準の自粛を国民に強いる。しかも、韓国や台湾などの、日本と同程度の「さざ波」レベルの感染拡大状況の国では、そこまで自粛が強いられていないにも拘わらず、です。

しかし、アメリカは700兆円規模の真水をつかって、その自粛による経済被害を緩和し、成長していくための凄まじい経済対策を行っている一方、そんなアメリカに比べれば日本の経済対策の水準はまさに「さざ波」レベルにしか達していない。

その結果、日本一国が最も激しく疲弊していくという憂き目に遭っているにも拘わらず、国民経済をどう救うかを議論するどころかコロナ増税の議論すら始められる始末。

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さらには、ワクチンにしても、これだけ緊急事態だ緊急事態だと煽ってきたのに、しかも五輪開催のためには必須条件だと鼻息荒く首相官邸が必死になっているにも関わらず、欧米の先進諸国の中ではダントツに遅い接種状況であることは今や誰もが認識しているところ。

……つまり、感染症対策にしても経済対策にしても、欧米、そしてアジアの主要国に比べれば、驚く程幼稚で稚拙なものしかできていないのが、我が国日本の実態なのです。

そしてこうなってしまっているのは、政治の無い国の特徴なのだと言うことができます。

何の有事もなく、平時が延々と続いていく時には、政治が無くても、何とかやっていくことができるのです。ところがコロナのような、何らかの有事が起こってしまった場合、政治的な判断が絶対的に必要となるのですが……政治不在の日本では、そういう判断が何もできず、ただただ被害をダラダラと拡大させていくことになってしまうのです。

こうして、「日本の無能さ」が、コロナによって暴かれてしまったわけです。

(メルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』より一部抜粋・敬称略。続きはご登録の上、お楽しみください)

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image by: 首相官邸

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京都大学大学院・工学研究科・都市社会工学専攻教授、京都大学レジリエンス実践ユニット長。1968年生。京都大学卒業後、スウェーデンイエテボリ大学心理学科客員研究員,東京工業大学教授等を経て現職。2012年から2018年まで内閣官房参与。専門は、国土計画・経済政策等の公共政策論.文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。著書「プライマリーバランス亡国論」「国土学」「凡庸という悪魔」「大衆社会の処方箋」等多数。テレビ、新聞、雑誌等で言論・執筆活動を展開。MXテレビ「東京ホンマもん教室」、朝日放送「正義のミカタ」、関西テレビ「報道ランナー」、KBS京都「藤井聡のあるがままラジオ」等のレギュラー解説者。2018年より表現者クライテリオン編集長。

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【著者】 藤井聡 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 土曜日

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