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米軍は台湾にすら近づけず。情報筋が明かした中国人民解放軍「真の実力」

今年3月には米軍司令官が、中国による台湾侵攻が6年以内に起こる可能性を示唆するなど、緊張の高まりが伝えられるインド太平洋地域。近年は中国の軍事力向上が喧伝されていますが、長らく米軍有利と見られていた同地域における軍事バランスは、どのような変化を見せているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、中国サイドから得た情報等を総合しその現状に迫るとともに、今後の米中軍事バランスを大きく左右する「2つのカギ」を挙げ、国際交渉人としての目線でその各々について考察しています。

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インド太平洋地域における“本当の”米中軍事バランスと国際情勢

「これから6年以内に、インド太平洋地域において米中が軍事的に衝突する可能性が高い」

「2020年代に米中で武力衝突が起こる可能性は高く、その舞台は十中八九、台湾海峡だろう」

「中国の軍拡および戦闘能力の向上が著しく、米国の軍事的な規模を超えるのも時間の問題だ。アジア太平洋地域における海軍力については、すでに中国がアメリカを凌駕しているのではないか」

「中国のミサイル能力は加速度的に向上している。中でもアメリカの領土を直接的に攻撃できるグアムキラーや対潜水艦の攻撃能力は脅威になっている」

これらの発言はほぼすべてペンタゴン(アメリカ国防総省)の高官や軍のトップが議会上下院で証言する際に“語られる脅威”です。

「もう中国人民解放軍の軍事力とプレゼンスが、アメリカの軍事的な優位を脅かす日も近い」という発言も確か最近あったと思います。

私自身、これらの発言をそれなりに真に受けて、中国の脅威の増大について警告してきたのですが、これらの発言の後になされる「ゆえに…」の部分までしっかりと聞いてみると、「ホンマかいな」という問いがわいてきます。

その理由付けとはつまり「ゆえに、もっと軍に対して予算をつけるべきである」という内容につながっています。

トランプ政権時代、オバマ政権までの方針を覆すかのように、軍拡にゴーサインが出されたというイメージで、軍部はさぞかし満足だっただろうと思われますし、軍拡はしても実際にやみくもに行わないというところも、軍のプロ・トランプな感情をくすぐったのだと思います。おまけに宇宙軍が戦略部隊に格上げされましたしね。

それがバイデン政権になり、表面的にはトランプ政権時代の方針を反転させるということになっているためか、軍拡に対して待ったがかかったり、ことごとく見直しが提案されたりと、軍、軍需産業にとってはマイナスイメージかもしれません。

これらの発言の内容については、しかし、全くのウソとは言いきれず、ミサイル能力や海軍力の“物理的な”充実という点では、中国の軍拡体制は、太平洋地域を含むSeven Seasすべてに海軍を置くアメリカにとっては由々しき問題なのでしょう。それゆえの予算獲得のためのロビイングがこのような発言の連発につながっています。

しかし、現実はどうでしょうか?

艦船の数、国産戦闘機の登場、急ピッチで建造・進水する空母、そしてグアムキラーや極超音速長距離弾道ミサイルをはじめとする“規模の拡大と充実”については、これらの警告は当たっていますが、実際の能力は規模では測れません。

カギになるのは、それらの最新鋭の軍備をいかに運営して、能力を最大限引き出すことが出来るかという“運用能力”です。

これについては、“少なくとも今は”という但し書きを付けますが、圧倒的にアメリカとその仲間たち(ここではクアッド参加国と英仏独の軍)に軍配が上がります。特に空母攻撃群の運用については、多種多様な戦力のマネージメントと連携が必須ですし、空母への戦闘機および補給機などの航空機運用は、かなり高度な習熟度が必要とされるそうです。

この点は、まだ中国の人民解放軍の習熟度と熟練度は上がっていないと思われます。

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国境線の防衛と反撃能力の充実に資源を集中投下

しかし、上意下達が徹底されている人民解放軍と中国共産党との一連の連係プレーにより、物理的に軍備が急激に充実したのと同じく、今後、習近平国家主席がいうlast one pieceとされる台湾併合へ向けて、そしてそれを阻止する勢力に対して対抗できるように訓練がより過激かつ頻繁に行われることになるという見解が、安全保障コミュニティで強まってきました。

そこにすでに経済面でも証明済みのハイテク技術に支えられた高度化と、技術的なキャッチアップスピードの短縮が期待されます。

そして、いろいろと中国関係者から聞いて出てくるのは、「長距離対応の戦力の充実よりも、現時点では国境線の防衛と反撃能力の充実に資源が集中投下される方針」だそうです。

それには短中距離対応の弾道ミサイル(核弾頭搭載可能)や地対空ミサイル、対潜水艦ミサイル、潜水艦から発射可能なミサイル能力、そして沿海における脅威に対する海軍能力と、戦闘機における作戦など、アメリカとその仲間たちが、中国近辺において軍事行動に出る場合の対応です。

そこに、台湾への軍事作戦を想定した島への上陸作戦と空軍及び海軍力による支援という“攻撃用パッケージ”の作成と習熟が加わっています。

つまり中国への攻撃、特に接近戦については、かなりの能力を蓄えていると思われますし、それは、台湾周辺を舞台にした直接的な対決においては、中国側に軍配があると考えられるかもしれません。

かりに歴史的な宿願である台湾併合・統一のために武力行使を行った場合、中国の野心を食い止めるべく、中国近辺に近づいたら、アメリカ軍とその仲間たちも苦戦する可能性があり、台湾にすら近づけないかもしれません。

もちろん、長距離からの弾道ミサイルによる攻撃であれば、運用能力と攻撃能力ではアメリカに軍配が上がるでしょうが、中国が開発し、配備する迎撃システムの能力向上の噂が聞こえてくる中、最近語られる台湾を舞台にした米中衝突の行方は不透明になってくるような気がします。

であれば、今年、日米首脳会談での台湾防衛へのコミットメントの明言に始まり、G7サミットでも確認された「台湾の安全へのコミットメント」をどうやって実現するのでしょうか?

中国サイドは、すでに触れたとおり、台湾への圧力の強化が止まりませんし、訓練内容も上陸戦の実施を想定した内容が多いようです。そして台湾および中国本土に近づく相手は、持てる力を結集して破壊する覚悟を固めているようです。

それに対して、アメリカとその友人たちのサイドは、クアッドと欧州3か国との協力に見られるような“艦隊の編成”による物理的な圧力の強化と、おそらく対中サイバー攻撃への準備は強めていくでしょう。

しかし、基本姿勢として、アメリカ政府は台湾との国交樹立はプランに入れておらず、あくまでも“独立した”台湾が存在する「現状維持」を目的にしています。

また、アメリカ軍も明言しているように「対中先制攻撃はない」とされており、中国が台湾を攻撃して初めて軍事的な対応措置を取るという姿勢があることを忘れてはなりません。

それはサイバー攻撃なのかもしれませんし、シリアに行われたようにトマホーク巡航ミサイルを同時発射する形で攻撃する形かもしれません。

もしくは、最近、アメリカ国内で縮小と廃止への議論がバイデン大統領から出され、物議を醸し出している小型戦略核兵器による、限定的でありつつ決定的な攻撃手法になるのかもしれません。

ただし、どのような形式での対応になる場合でも、同盟国すべてが同意する・サポートする内容・方式である必要があり、反応時間にタイムラグが生じるかもしれません。ましてや小型核爆弾の使用の是非について、果たして唯一の被爆国である日本が同意するのは困難でしょう。加えて多国籍軍としての連携能力にも、もしかしたら限界があるかもしれません。

このような状況を踏まえると、なかなかシンプルにインド太平洋地域における“両陣営の軍事バランスと優位性”に対してクリアな答えが導き出せないと考えます。

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カギとなるASEAN各国の立ち位置と独仏両国の覚悟の度合い

そこで今、カギを握るのが、ASEAN各国の立ち位置です。軍事的には、どこも中国の脅威に曝され、中国による横暴な領土拡大欲に恐れおののいているところですが、これまで口約束ばかりで中国から守ってくれなかったアメリカと欧州各国への不信感が募っている状況です。

コロナウイルス感染拡大を受け、米(欧州)と中国の間で対応に差が顕在化する中、経済的な連携の拡大と強化、債務の軽減、投資拡大、インフラ事業の拡大、そしてワクチンの供与という多重的な支援のオンパレードで畳みかけ、ASEAN内でくすぶる対中脅威感情に風穴を開け、対中包囲網に綻びをもたらそうと、活発な働きかけが行われています。

そのASEAN各国に対して、どれだけ信用が高いサポートを行えるかが、アメリカとその仲間たちの陣営にとっては運命の分かれ目になるでしょう。

このパーツにおいては、確実に日本の果たす役割は大きいと考えます。

日本はクアッドのコアメンバーで、自衛隊も軍事協力の一翼を担っていますが、クアッドも、大西洋におけるNATOのように、軍事・安全保障に加えて、情報や経済などのソフト分野での連携も高める方向性が考えられる中、いかに多重的に迅速な対応ができるかが重要でしょう。これまでのところ、個人的な意見ですが、日本が不得意だと思われる部分ですが。

もう一つのカギは、EUの中でも独仏両国の覚悟の度合いでしょう。香港国家安全維持法施行を機に、中国離れを演出し、アメリカ主導の対中包囲網への参画を明らかにした両国ですが、日米(豪)とは対応に温度差があり、中国にとっては、包囲網を決定的に崩したいのであれば、攻めどころは独仏になります。

人権問題(ウイグル自治区、香港など)を盾に中国批判の輪には加わるものの、これまで高め続けてきた中国経済への依存が、両国の経済発展のエンジンに組み込まれており、そこにアフターコロナの世界経済において、一刻も早い回復を遂げ、かつ主導権を取りたいと画策する独仏にとっては、アメリカと日本に先んじるためには、中国との経済協力の維持・強化が最も手っ取り早い手になります。

それに気づいている中国は、盛んに高官を派遣して関係の修復と強化に勤しんで巻き返しに躍起です。欧州各国(特に独仏)は、表向きはEUの方向性に沿って、人権問題を対中国カードに持ち出して非難していますが、アメリカ・バイデン政権が強化する方向の対中経済制裁からは距離を置き、明らかな温度差を露呈しています。

この秋に退任するメルケル首相も、人権問題については強い非難をしてきましたが、経済的な対中制裁に話が及ぶと、いつもきまってトーンダウンするか、議論の輪からフェードアウトしてきました。この姿勢は、おそらく次の政権のトップが誰であろうと、継続するでしょう。

マクロン仏大統領にとっても、弱り続ける支持基盤と支持率に直面し、再選は不可だろうと言われている中、起死回生の逆転ホームランを打つためには、彼が失敗し続けた経済刺激策を打ち出す必要があり、それには中国(経済)との密接な関係が必要とされています。

ゆえに、独仏共に、期待されているほど、中国に対して強くできない事情があり、そこにアメリカ主導の対中包囲網の欠点が見えるのではないかと思います。

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イラン・ロシアとの関係性を深める中国の思惑

そしてそこに加えるなら、中国がどんどん進めるイランとの協力強化とロシアとの連携の強化でしょう。これは直接的な影響もありますが、中ロの連携によって、東アフリカ地域での勢力圏拡大が行われており、そこを対イスラエル・中東への足掛かりとして守らないといけないアメリカの神経を逆なでし、実際に軍事的なリソースを含む様々な戦略的リソースを割かせています。トルコとの面白い関係もそうでしょうし、シリアへの肩入れも同じでしょう。

そうすることで、米欧から中国に向けられる注意と批判のベクトル(人員と軍事力など)を分散させて、中国対応、特に台湾問題への直接的な関与度合いを一気に落とす戦略的な動きにも余念がありません。

このような経済的、戦略的な動きと合わせて、インド太平洋地域における軍事的なバランスを見直してみた時、果たしてどちらに軍配は上がるでしょうか?

そしてそのバランスは今後どう変化し、その変化は米中、それぞれの同盟国にどのような影響を与えるでしょうか?

そして、これから生まれてくるバランスは、“6年以内に起こる可能性が高い”と証言される米中戦争を早めることになるのか?それとも回避する方向に抑止力として働くのか?

非常に目が離せない状況がそこにあると私は考えますが、皆さんはどうお考えになりますか?

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image by: 防衛省 海上自衛隊 - Home | Facebook

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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