先日掲載の「コロナ有事で露呈。京大・藤井聡教授が考える「日本経済が地獄に堕ちた根本原因」」等の記事で、菅政権や日本政府のコロナ対策を批判した京都大学大学院教授の藤井聡さん。藤井教授は自身のメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』の中で、四度目となる緊急事態宣言を出しながら「オリンピックは無観客でも開催する」と言い出した菅総理と政府を猛批判。この矛盾した決断によって、菅総理は自ら政権「崩壊」への道を選んだとして、今後の政治の行く末を憂いています。
(この記事はメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』2021年7月10日配信分の一部抜粋です。続きはご購読の上、お楽しみください)
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緊急事態宣言が導く「悪夢の菅政権」の“崩壊”と「●●政権という悪夢」の“予兆”
菅総理による四度目の緊急事態宣言には、驚いた方も多かったものと思います。
五輪やるっていってる菅総理が、まさか五輪開催を真っ向から否定する緊急事態宣言なんて出すはず無かろう、と皆思っていたからです。
が、誠に驚くべき事に、菅総理は出してしまったのです。
まずコレを見て、多くの国民は「菅って、俺たちが思っている以上に、マジでとてつもなく馬鹿だったんだ……」と思った事でしょう。
そもそもここで緊急事態宣言なんて出したら、「国民のイベントは、自粛させる緊急事態宣言を出すくせに、お前等がやりたい五輪だけはやるのか!?」という批判が噴出することなんて確実なのに、そんな事すら分からないくらいに、菅総理は愚かな方だったのです。
逆に、五輪に「肯定的」な国民でも「そんな事したら、無人開催になるじゃないか!?」という批判が出るのも必定です。
つまり、今回の緊急事態宣言は、五輪否定派からも肯定派からも批難される判断だったわけです。
ただし菅総理は今、こうした五輪賛成!反対!という「イメージ論」「感情論」から反発を受けているだけではありません。科学的合理性、法学的合理性を重視する人々からも一斉に「理性的」に反発を受ける状況に陥っています。
そもそも今や高齢者のワクチン接種がそれなりに進んでいることや、重症者数が東京でこれから大幅に減少することが見込まれておりました。したがって、医療崩壊リスクが限りなくゼロに近づいており、科学的合理的に考えて緊急事態宣言の必要性は今、著しく低くなってきているのです。
にも関わらず宣言を出せば、凄まじい経済被害が出ることは確実。つまり、この宣言は「益無く、害だけ山ほどある」という最悪の選択なのです。だからこの真実を理解する一般の知識階層の人々は、一斉に今、菅総理のこの宣言を批判し始めているのです。
しかも、「法的合理性」を重視する知識人達も今、この基準のまずさを徹底的に批判しはじめています。
そもそも、緊急事態宣言は、個人の自由を制限するもの。個人の自由は憲法第13条に保証されているわけで、この宣言は「憲法違反」の疑義濃厚な代物なのです。
唯一、これが憲法違反じゃない、と言い張るためには、「その自由の制限は、公共の福祉のために必要だったのだ」という言い訳が絶対必要なのです。
ところが、上記の様にこのタイミングでの緊急事態宣言は、科学的、合理的に考えて「必要じゃ無い」と言わざるを得ないものです。だからこれは「公益の福祉のためでもなく、ただ単に個人の自由を制限するもの」なわけで。
これはもう、明白な憲法違反です。
だから、一部の有識者達は、この憲法違反だという視点から、今、菅総理の判断に対して烈火のごとく憤怒しているわけです。
つまり、五輪賛成派からも反対派からも、イメージや感情で判断する人達からも、理性的に判断する人達からも、科学的に考える人達からも、法学的に考える人達からも、今回の菅総理の緊急事態宣言は、メッタメタに、ボッコボコに徹底批判される論外中の論外な代物だったのです。
にも関わらず菅総理が宣言に踏み切ったのは、次の様に思ったからだと考えざるを得ません。
すなわち……
『このままだったら、五輪開催時点で、感染者がメッチャ増えてしまって、メチャクチャ批判されて、もう政権が持たなくなるだろう……だったら、ここで“先手先手”に緊急事態宣言出して、感染者抑え込めれば、五輪やっても批判されなくなるだろう……で、五輪さえやったら、日本人は盛り上がって、また俺の支持率が上がって、政権も続けられるだろう……だったら俺が生き残るには、もう今すぐ宣言出すしかない……多少批判はあるかも知れないが五輪さえできたら盛り上がって、政権を続けられる……そうだ、ここは緊急事態宣言出すしかない。そうすれば、俺はまだまだこの椅子に座ってられるんた!そうだ、絶対そうだ、ここは宣言しか無いんだ!!』
……こういう精神状態は、TVドラマや映画で犯罪者心理としてよく描写されているもの。追い詰められた犯罪者が一か八かを狙ってどんどん犯罪を重ねていって、どんどんどんどん視野が狭くなり、ドツボにはまっていく──っていうありがちなパターンにはまっているのが今の菅総理なわけです。
こんな人が総理大臣であるっていうこと自体が、日本が地獄への道をまっしぐらに進んでいることの証左。今、菅総理の精神も、政府も、そして日本国家も皆、もうメチャクチャになってる、ってことなわけです。
ただし、唯一の望みは、ここまでどうにかこうにか続けてこられた菅政権が、ここに来て一気に「崩壊」のリスクが拡大してきたという点。
今の政局で言えば、少し前まで菅政権は五輪がつつがなく成功すれば、あと3年続投も致し方無いか……と言われてきていたのですが、この緊急事態宣言で「五輪成功で、菅さん大人気→総理続投!」っていう芽が事実上無くなってきたわけです。その結果、菅おろしが一気に自民党の中で拡大していく公算がどんどん高まっているのです。
具体的に言うなら、これまでは、
【オプションA】
「9月に菅総理が解散総選挙を行い、自民勝利→ 10月の総裁選で菅総裁・続投決定、菅政権続投」
【オプションB】
「9月の総裁選で菅総裁・続投決定→ 10月の衆院選で自民勝利、菅政権続投」
が考えられており、いずれにしても菅政権続投だろうと言われていたのですが、今回の宣言によって、この両オプションの芽が急速になくなりつつあるのです。
なぜなら、菅総理が国内で大バッシングされ、「菅による解散なんて許さない!そんな事されたら、自民党はぼろ負けするじゃないか!」という雰囲気が自民党内に一気に広がったからです。
もともと菅氏は、党内での基盤が脆弱で、安倍内閣からの流れで、二階幹事長の差配で「たまたま」総理大臣になれただけの人なので、菅政権そのものが元来、不安定な存在だったのです。
党内には今3Aといって「安倍・麻生・甘利」の三人が最大勢力を誇っていると言われています。そして、この3Aは、今、ポスト菅を自分達で作り上げるための調整を図り続けています。だから、何にしても彼等は菅政権を早く終わらせたいと考えているわけです。
一方で、それと「対立」しているのが二階氏で、いま菅総理の頼りは、二階氏だけだと言われています。
で、二階氏が3Aと対立するのは、3Aが政権を取れば、二階氏を幹事長にせず他の人物を幹事長に推すことになると見込まれているからです
そして二階氏は、菅内閣が続く限り幹事長を続けられます。だから二階氏は、いま3Aと対立しながら、菅政権の継続に加担し、それを通して幹事長の続投を狙っていると言われています。
すなわち、もし二階氏が菅総理を見限り、他の人を総裁候補に推せば、菅総理は後ろ盾が全くなくなり、総理続投は不可能となります。そして二階氏は、そうする可能性は十分にあるのです。そもそも二階氏が菅氏を推してきたのは、そうすることで自身が幹事長になれるからに他なりません。つまり二階氏にとって菅総理は、自身が幹事長になるための「道具」でしか無いわけです。
だから二階氏にとっては、自分を幹事長にしてくれる人物なら、菅である必要性など何もないのです。だから、二階氏は、菅よりも別の人物の方が、自分を幹事長になるために有利だと判断すれば、瞬時に菅を見限るわけです。
そして今、国民から激しく批判されはじめた菅氏は、二階氏が幹事長で居座り続けるために必要な「道具」として急速に魅力がなくなりつつあるのです。
その結果、今、上記のオプションA、Bとは別の、下記のオプションCが実現する可能性が急速に拡大しつつあるのです。
【オプションC】
「9月に総裁選が行われ、新総裁が決定→ 10月の衆院選で、新総裁で自民勝利、新しい自民政権誕生」
この総裁選で一体だれが総裁になるのか……今いくつかの可能性がありますが(これについてはまた別の機会に解説したいと思います)、ここで重要なのは、兎に角それは「菅氏ではない」という一点。
かくして、菅総理が愚かにも五輪開催のために緊急事態宣言をしたことで、自らの総理続投の芽を摘んでしまったわけです。その結果、大変に有り難い事に(!)、まさに今、「菅政権という悪夢」が終わりかけているわけです。
……が、喜んでばかりはいられません。
なぜなら今、恐るべき「新たな悪夢」が始まりつつあるのです。
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