コロナ禍によるリモートワークや外出自粛で生活スタイルが丸っきり変わってしまったという人は多く、自炊の頻度が上がった人の中には、料理に使うハーブや野菜などを自分で育て始めた人が増えています。ただ、初めてのガーデニングや家庭菜園には失敗が付きもの。失敗を解決してくれるアイデア商品がヒットしているようです。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』では今回、IoTセンサーで水やりなどの失敗をなくす商品とちょっとした不便を解決してくれるアイデアグッズを紹介。ヒットを生むヒントを伝えています。
モノにコトを加えて、顧客価値を生み出す ~ガーデニンググッズに学ぶ選ばれる理由の作り方
在宅時間が増えたことにより、消費者の家での行動が変わり、それにともなって、「時間の使い方」も変わりました。中でも、ガーデニングなどの園芸に、時間を使う人たちが増えています。総務省の家計調査によると、2020年の、一世帯あたりの園芸用植物と、園芸用品の支出額が、昨年対比で4747円増えているそうです。
私も家で仕事をする時間が増えたので、家の中のことも気になって大掃除をしたり、いらない家具や漫画本なんかを整理したりしましたが、庭のこともやはり気になって、いろいろといじっています。
これまでは、春から夏にかけて、育てやすい朝顔とゴーヤを、プランターで育てる程度でしたが、今年は、それに加えてバジルやパクチーといったハーブ類を育てたり、青梗菜(ちんげんさい)やにんじんなど、比較的育てやすい野菜を選び、庭に場所を確保し、そこを耕して、肥料をやり、「種」から育てるようになりました。
消費者が園芸をやる時間が増え、種や苗が売れるようになってくると、ガーデニング用の便利なグッズといった、周辺需要も拡大します。中でも注目したのが、農業支援をするIT企業、プランティオが出した、「グロウ・コネクト」とよばれるセンサーです。スマホのアプリと連動させると、野菜の水やりのタイミングなどを知らせてくれる、というものです。
野菜は、種類によってケアをする内容が異なります。トマトには水をあまり多くやらなかったり、逆ににんじんなんかはたっぷりやるなど、水やりのタイミングひとつとっても、勝手が違います。このセンサーは、土の温度や水分量の具合を測ってくれて、一番いいタイミングを知らせてくれる、という機能がついています。
水やりは足らないと枯れてしまいますし、やりすぎても根っこが腐ってしまうこともあります。それに、どうしても朝忙しかったりすると、忘れたりするので、園芸の初心者にとっては、とてもありがたい機能です。このスマホのアプリを使えば、園芸の専門家に質問や相談もできるそうなので、お困りごとも解決できます。
値段は3万円以上するそうですが、日経新聞によると、昨年8月にネットで販売した際には、120台が1日で完売したそうです。需要が伸びている市場の中で、他が手を出していない、隠れたニーズを見つけられたことが、このヒットにつながったと言えます。
もう一つのポイントは、「水やり機」というモノに、水やり忘れアラームや、困りごと相談コーナーというコンテンツ(=コト)を、スマホアプリで付加したことにあります。これによって、「庭の水やり忘れ」とか、「やりすぎ注意」などのうっかりミスが減って、庭が健全に保たれます。まさに、水やり機を売るのではなく、「より良い庭づくり」を売っていますよね。これが選ばれる理由になっています。
ほんのちょっとした工夫を生かした企業もあります。「モノが無くならないガーデニングトートバッグ」という商品を開発した企業です。このトートバックのポケットの部分に、スコップや水やり用のスプレーや、園芸用の手袋のイラストが大きく描かれているので、どこに何を入れたのか、がわかるようになっています。
ガーデニングをしていると、はさみやスコップなどいろいろな道具をつかうので、ガーデニングエプロンは便利です。このエプロンは、ガーデニングをやる準備をする時に必要なグッズを、それぞれのポケットに入れておけるので、「あ、忘れた」と、いちいちしまった場所に取りに戻る必要もありません。こちらも、うっかり二度手間を削減することで、より便利なガーデニング生活が実現できます。
このセンサーとトートバックに共通しているのは、伸びている園芸の市場に、今はないけれどあれば嬉しいというニーズをうまく見つけたこと。そして、今まであるグッズに、少し工夫をプラスした商品にしたこと、の2点です。
新しい発想が出ない、とか、どうしても差別化できない、という「売れない問題」を抱えている企業も多いと思います。そういう時は、基本に戻って、伸びているとか、自社が優位に立てるといった、自社にとって美味しい市場を探すこと。この場合の市場とは「ニーズ」を指します。
そして、その市場にあるニーズを持っている人たちに、「自社の製品やサービスで何ができるか?」を見つける、というステップになります。この2つの商品のように、意外と身近なところにユーザーのニーズは隠れているものです。
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