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河野氏が総裁選で炙り出した、日本を破滅させる軍拡論者と守旧派の正体

9月17日の告示から13日の選挙期間を経て、いよいよ29日に投開票が行われる自民党総裁選挙。4名の立候補者がそれぞれに独自性を強調した政策を訴えてきましたが、日本の未来を任せるに足るのは一体どの候補なのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、総裁選のこれまでの流れを振り返りつつ、各候補を比較。その上で、選挙戦を通じ日本を破滅に追い込む抵抗勢力を暴き出した河野太郎氏を、高く評価しています。

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※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2021年9月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

 

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総裁選直前、各候補を比較する

自民党総裁選は、本日29日に投開票となります。小規模な党内選挙にしては異例に長期間に渡ったこと、総選挙を目前に控えていることから議席の危機を感じた各地方組織や各議員が「間接的に民意を強く意識」したという条件が加わったことで、「面白い」選挙になっています。ですが、自民党がより有権者にアピールする党に脱皮するには、やはり時間をかけた本格的な予備選というのが必要なのだと思います。

今回の総裁選は、残念ながらその点で「尻すぼみ」といった印象は免れません。というのは、終盤に来て「いつもの病気」、つまりテクニカルな「2位・3位連合」がどうとか、「票の貸し借り」がどうとかいう低レベルの議論が出てきたからです。この種の議論というのは、正に党員や民意をバカにしたものであり、こうした姿勢が何度も再現されては党への有権者の信頼は崩れてしまうと思います。

それはともかく、これまでの選挙戦を通じて見えてきた、各候補の特徴に関して、選挙直前のこの時点で寸評という形で議論の材料をご提供しておきたいと思います。

河野太郎候補

善戦していると思います。選挙戦を通じての予想外の風圧にもよく耐えていると思われ、今回は他の候補に譲るにしても数年後の河野政権へのステップとなったと思います。

改めて思うのですが、無駄な軍拡競争という経済破滅の道を断ち切り、同時に経済、とりわけ生産性向上を目指した徹底した構造改革を行うというのは、現在の日本に置いて、国家生存のための「唯一のセット定食」だと思います。

これを断行することに対しては、勿論、軍拡競争の拒否というのは軍需という公共事業に群がる人々、そして軍拡しないと安心できないという対外恐怖症世論による激しい抵抗に合うのは予想できた問題です。

また構造改革への抵抗というのは、改革により失職する可能性を感じている層と、改革により過去の自分の栄光(例えば「紙を操作するだけの事務員として40年勤め上げた」など)を否定されるようで嫌だという層が想定できます。更に世の中が変わることへの漠然とした恐怖ということもあるでしょう。

いずれにしても「軍拡論者+守旧派」というグループが、日本を破滅に追い込むであろう最大の抵抗勢力であり、このグループをいかにして「切除する」のかが、喫緊の課題だということを、河野氏は暴き出したと思います。そして、その抵抗勢力が実はそれほどシャープでもないし、パワーがあるわけでもないことも暴露できたのではと思います。

その意味で、今回の選挙戦というのは手応えがあったという総括で良いのではないでしょうか。尚、個人的には日本の改革に関して言えば、エネルギーと財政規律を中心に良い議論ができた一方で、教育や公用語の問題は手がついていませんでしたが、この2つの問題は、生半可な格好で世論と対話するのではなく、権威と権力を獲得した時点で進めるしか道はない種類のものですので、今回争点化させなかったのは、それはそれで上策だったのではと思っています。

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岸田文雄候補

新自由主義を脱する云々というのは、勿論、抵抗勢力におもねる姿勢に他なりませんが、強いて言えば脆弱化した地方経済に金を回したいということが根本にあるのだろうと思います。その意味で、この点に関しては石破式の発想法に似ているという理解をしています。

その一方で、再分配によって分厚い中間層を再生するという話は、少々疑わしいですし、まして「現代版の所得倍増」というのは、全くもって空想論に過ぎないという印象があります。

勿論、大学進学率50%という高い教育水準を誇りながら、一人あたりGDPが3万ドルを割り込む危険に直面しているというのは、おかしいわけです。高い教育水準を持った中間層が、正しい生産活動に従事していないわけで、ここを変えていかなくては日本経済の未来はありません。

ただ、そこに減税をするとか、補助金や公共投資でカネを回して雇用を拡大するといった「小手先の手法」では、そんな「分厚い中間層」の再生などということはあり得ません。

2つの問題があります。1つは徹底したコンピュータ化により「現状維持型の仕事は機械化する」ということで、その上で生身(なまみ)の人間は高度な判断や、未知の領域における試行錯誤など高付加価値な業務に移行してもらって、本来の「大卒という教育水準」を正しい生産性に結びつけなくてはなりません。

もう1つは英語であり、ITや金融においてアイスランド、イスラエル、韓国、シンガポール、インドなどが成功しつつあるのは全て準英語圏だからです。何故ならば、コンピュータのソフトウェア、そしてハードと連動したITの世界では、英語が公用語だからです。また、金融に関しては、勿論日本の場合は規制緩和をしないと話にならない部分もあるのですが、こちらも英語のインフラありきという話になります。

そうした変更を考えないで、漠然と再分配をすれば分厚い中間層が再生して経済も社会も安定するなどというのはファンタジーやイリュージョンとしか言いようがありません。その辺り、有権者のニーズに合わせて出してきただけなのか、それとも「中の人」が全く事態を分かっていないのか、岸田氏に関してはそこが最大の疑問と言えます。

あとは、岸田政権ということになると、清和会(細田派)が下野することになります。つまり、森喜朗が小渕氏の死去を受けて強引に政権を奪って以来、麻生という多少の例外を除くと延々と続いてきた清和会主流体制が壊れるわけです。

その一方で、岸田氏は保守票欲しさに「中国の人権問題担当補佐官」を置くとか、「敵基地攻撃能力」がどうとか、威勢のいい話をポンポンする傾向があります。その場合に、岸田=宏池会は本籍が中道なので、安心だという見方もありますが、清和会のように「表面は反中だが奥には対中チャネルがある」というような二重構造がないことで、万が一の場合は細かなコミュニケーションが途切れる危険を感じます。

つまり中国外交ということでは、最悪の場合に野田佳彦政権が尖閣国有化に突っ走って(石原の挑発に乗せられた面はあるにせよ)日中関係を乱したような「素人っぽさ」が出るのではないかという懸念です。

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高市早苗候補

どうも結局のところは、原籍清和会ということで、右派的言動+国内では守旧派という「第二次安倍政権以来の停滞」を継承してしまう感じがしています。菅さんと比較すると、質問の意味を理解して、想定できる回答のゾーン内で返すことはする姿勢があります。ですが、結局は全領域にわたっての現状維持派であるので、危機には動きが取れなくなる可能性を感じます。

驚いたのは「鉄の女」を自他ともに任じていることで、これは故マーガレット・サッチャー女史にはいかにも失礼と思います。国営企業を叩き切り、徹底した規制緩和と民営化、そして厳しい財政規律と通貨価値の維持で「英国病」に対して大胆な手術を行ったサッチャーに対して、高市氏のポジションは財政金融はズブズブのリベラル、社会経済は現状維持ですから、全くもって「鉄の女」の正反対だからです。

野田聖子候補

軍拡競争には消極的であり、この点は大いに結構ですし、少子化問題が喫緊の課題という認識は鋭いと思います。ですが、そうした正しい政策が、どうして郵便局の世襲に象徴されるような(少なくとも小泉政権時代にはそうでした)悲惨な現状維持とセットで供されるのか、日本の悲劇の象徴のような人物と思います。

ちなみに、配偶者の方によくない噂があるわけですが、この点に関しては自民党の「身体検査」が甘いというよりも、ライブの際にお話したように、結局のところはご本人も認めているように(のちに撤回)誰も野田氏の当選を想定していないという事なのだろうと思います。

巷間噂されるように、結局のところは地方票を分散して河野氏の第1回での過半数を阻止するために、「推薦人を融通してもらった」出馬という以上でも以下でもないのかもしれません。

(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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