現在、北朝鮮全域と中国の首都北京をにらむ米国の反撃能力は、横須賀を母港とする米空母の護衛艦11隻と巡航ミサイル原潜が搭載するトマホーク巡航ミサイルだけを見ても約500発にのぼります。北朝鮮に向けられた韓国のキル・チェーンと呼ばれる反撃能力は短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルが1000発以上。2022年までに2000発の配備が計画されています。この米韓の反撃力がミサイル発射国に襲いかかることになるのです。
そうなれば、北朝鮮は壊滅的な損害を受け、中国も深手を負うことになるのは火を見るよりも明らかで、いかに日本にミサイルを発射しようと思っていたとしても、手出しを躊躇うのは当然のことです。これが抑止力というものです。
日本に対する破壊目的の攻撃が核兵器によるものだった場合、米国の反撃も核戦力によるものになります。この核攻撃のシナリオは、北朝鮮や中国が国家として生き延びることを考えている以上、あり得ないと考えてよいでしょう。
それでは日本が先に手を出した場合、どういう展開になるでしょう。
日本が敵基地(あるいは敵地)攻撃能力を持ち、敵国の動向を的確に把握できるだけの情報収集能力を備え、機先を制してミサイル攻撃を行ったとします。最初の一撃で敵国のミサイル戦力を壊滅状態にできない限り、敵は必ず反撃してくると考えなければなりません。それに対して上記のような米韓の反撃が行われます。朝鮮半島でいえば、第二次朝鮮戦争の戦端が開かれたことになるのです。
敵基地(あるいは敵地)攻撃には、このように「戦争の引き金」という性格があり、日本が先にミサイルを発射するというのは日本が「戦争の引き金」を引いたという状況です。
そうであればこそ、米国は米韓相互防衛条約で結ばれた韓国のキル・チェーンを在韓米軍司令官のコントロール下に置いているのです。韓国が勝手に「戦争の引き金」の引き金を引いたら、米国は望まない戦争に引き込まれる恐れがあるからです。
日本の場合も同様に考える必要があります。敵基地(あるいは敵地)攻撃能力を持つ場合、米国との調整のもとで能力の内容と発射の管轄権が定められることになるでしょう。米国の承認なしにミサイルを発射できなくされることは間違いありません。
日本が米国との調整のもと、反撃力の一角を構成しようとする場合、反撃速度の点から射程距離2000キロほどの準中距離弾道ミサイルが有力な選択肢となるでしょう。そのように考えれば、既に導入が検討されている巡航ミサイルは速度と射程距離の点から離島防衛などを目的とするスタンドオフ兵器として位置づけられる点も理解しておく必要があります。
さらに、非核三原則(持たず、作らず、持ちこませず)を二原則にして、米国による核兵器の持ち込みを認めるという選択も、日本には核武装するという選択肢が備わっていない以上、反撃力、抑止力の点から冷静な議論が行われてよいのではないかと思います。
日本に核武装やNATO諸国のような米国の戦術核兵器のニュークリア・シェアリングという選択肢がないことは、改めてお話ししたいと思います。(小川和久)
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