もっとも、今回の決定で重要なのは、オーストラリアに米英の技術協力によって原子力潜水艦が導入されるということです。フランスとの契約では建造するのは通常動力型でしたから、大きな飛躍です。
現在、原子力潜水艦を保有している国は、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国、インドの6カ国に限られていますが、オーストラリアは7番目の原潜保有国となる可能性があるわけです。アメリカの対中戦略としても、地域における安全保障の点でオーストラリアの原潜が加われば、アメリカの負担を減らすことができますので、メリットが大きいと言えるでしょう。
もちろん台湾でも、このAUKUSについてのニュースは非常に大きな関心を集めています。先日の自由時報では、オーストラリアのダットン国防相が台湾をめぐる中国との軍事衝突の可能性について「過小評価すべきではない」と発言し、地域の同盟国と協力して平和維持に務めるとしたことや、オーストラリアのフィナンシャル・タイムズが「オーストラリアは台湾海峡での戦争に備えなければならない」という社説を掲載したことなどを報じていました。
AUKUSについては、言うまでもなく中国は猛反発していますが、マレーシアやインドネシアは地域の軍拡競争を激化させるとして、懸念を表明、フィリピンは地域のバランスを回復・維持させるとして評価するなど、国によって反応はまちまちです。
日本にとってはプラスであり、原潜を保有するようになったオーストラリアとの連携はもちろん、いずれ日本の原潜保有につながる可能性があるのではないかと思います。また、先日、中国がTPP加入を正式申請しましたが、オーストラリアは加入交渉に応じない立場を貫いており、オーストラリアとのタッグは日本にとってもますます重要になってくると思われます。
なお、米英豪から外されて激怒しているフランスですが、当然のことながら、中国はフランスに近づいてくるはずです。これまでも中国は、ドイツとフランスに接近し、欧米の中国包囲網を切り崩そうとしてきました。
一方でフランスは、台湾の国際機関参加を支持する決議案を上院で圧倒的多数で可決したり、台湾と兵器取引契約を結ぶなどで、中国から強い反発も受けてきました。
● 仏上院、台湾支持の決議案を反対ゼロで可決 外交部「心から感謝」
● 台湾との兵器販売契約を破棄せよ、中国がフランスに要求
そのフランス上院議員団が、10月上旬に台湾を訪問する予定です。これに対して台湾外交部は「熱烈に歓迎する」と表明しました。一方、中国の駐仏大使はフランスの訪台議員団に訪問を断念するように圧力をかけてきたことが判明しています。
● フランス上院議員団、10月初旬に台湾訪問 外交部「熱烈に歓迎」
おそらく武器売却や経済的な協力関係などについて話し合われると思いますが、今回のAUKUSが、台湾とフランスの交渉にどのような影響を与えるのかが注目されるところです。
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