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日本は生き残れるか?中国の「孤立」と共にグローバリズムは終焉する

強まる覇権主義に新型コロナのパンデミックもあり、世界からの孤立を深める中国。その影響により、世界を席巻してきたグローバリズムも終焉を迎えようとしています。一国に依存したサプライチェーンの脆弱性が明らかになった今、目指すべきはいかなる経済圏の形成なのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』ではファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、中国中心のグローバリズムが形作られるまでの流れを改めて振り返るとともに、その終結後の世界を覆うであろう潮流を考察しています。

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グローバリズムの次の時代は?中国の孤立とグローバリズムの終焉

1.グローバリズムは中国の成長

元々、経済は国家ごとに独立していた。天然資源も食料も、製造業や流通小売業も国家という枠組みの中で完結していたのだ。

工業が発達するにつれ、石油、石炭、鉄鉱石、羊毛、綿花等の資源が大量に必要になり、貿易が盛んになった。それでも、サプライチェーンは国内で完結していた。国内にサプライチェーンを構築できた国が経済発展をなし遂げ、先進国になっていったとも言えよう。

明治以降、日本は白人が支配する世界の中で目障りな存在だったに違いない。西欧列強は日本を弱体化させようと工作し、日本は西欧を追い越すことを目標にしていた。当然、そこには衝突が生れる。

第二次世界大戦後は、日本は弱体化したが、米国はソ連の共産主義が拡大するのを恐れ、自衛隊を組織させ、米国市場への輸出を認め、日本の経済成長を促した。すると、日本は再び高度経済成長の波に乗り、世界第2位の経済大国になってしまった。

欧州も米国も危機意識を持ち、日本の成長をくい止める様々な手段を講じるようになった。その一つが、日本の法律、会計制度、企業組織等を国際標準に合わせるというものだった。日本独自の終身雇用年功序列を転換させ、銀行との株の持ち合いを禁止し、親族経営は悪であり、中小企業は非効率だと決めつけ、株主への配当を増やし、M&Aを促進し、徐々に日本の経済競争力を削いでいったのである。

そうした中で、中国が改革開放政策を打ち出した。

欧米諸国にとって、中国経済の成長は、日本弱体化とセットで考えていたのではないか。国際金融資本は中国に投資し、中国の経済発展を促した。欧米のスタンスは投資家として中国に投資し、リターンを得るというものだった。

日本は中国への支援が世界経済の発展に寄与し、強いては日本経済の復活への切り札と考えた。今となっては、この政策が純粋に日本のを利益を考えたものたったかは疑問である。国際協調という名の元で、国際金融資本や欧米政府にコントロールされていた可能性も否めない。

そして、中国へのODAを進め、官民を挙げて中国との合弁会社を設立し、技術移転を進めた。

日本の中国支援は、西欧のように投資ではなく、日本国内の製造業そのものを中国に移転するというものだった。当時の産業界の空気は、本気で中国の経済発展を願っていたのである。そして、その願いは叶えられ、中国の製造業は発展し、「世界の工場」と言われるようになった。しかし、残念ながら多くの日本企業は利益を確保することができなかった。様々な法律の壁があり、中国で上げた利益は日本に還流できなかったからだ。それでも、徐々に中国の政治体制や法律か変わるだろうと期待していたのだが、結局、中国は共産主義のままだったし、むしろ、中国マネーで日本企業が買収され、日本の不動産が買われていった。

日本国内では、安価な中国製品の市場シェアが拡大し、日本国内の製造業、卸売業は淘汰が進み、単価の下落による市場の収縮が起こり、デフレスパイラルに陥った。

こうして、中国経済は成長し、日本経済は衰退した。そして、グローバリズムは安定して稼動し始めた。

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2.中国の孤立とグローバリズムの終焉

中国政府は様々な補助金を交付し、価格競争力を高め、実質的なダンピング輸出を徹底し、海外企業を淘汰していった。

輸出による外貨を元に、軍事力を強め、一帯一路政策でアジア、アフリカ、ヨーロッパ等への支配力を強めていった。

そして、「将来的にGDPで米国を追い越す」という予測が出され、中国政府も自信を強めていった。

このタイミングで、トランプ大統領が就任し、状況は一変した。最初は貿易問題だった。米中貿易は一方的に米国が赤字であり、それを解消するために、「製造業を米国に呼び戻し、中国に米国の農産物を買わせる」という方針が打ち出された。

その問題に決着がつく前に、安全保障の問題が生じた。中国人民解放軍との関係が疑われる数十の中国企業をブラックリストに載せ、それらの企業への投資や取引等を禁じた。

これにより、西側諸国の多くはファーウェイの通信機器の使用を断念し、ファーウェイは最新の半導体の調達ができなくなった。グーグルのアンドロイドも使えなくなり、世界のスマホ市場から撤退した。

更に、人民解放軍と関係があり、産業スパイ活動をする可能性のある留学生の受け入れは禁止された。

トランプ大統領が退任する直前には、「新疆ウイグル地区における人権弾圧はジェノサイドである」と認定した。

中国の孤立は、新型コロナウイルスのパンデミックにより、決定的なものとなった。世界のサプライチェーンが止まり、改めて世界がいかに中国に依存していたかが明らかになった。

中国政府はパンデミックの感染拡大の責任を追求されたが、第三者機関の査察を長期間受け入れず、「感染症の起源は米国にある」と主張し始めた。更に、「香港国家安全維持法」を施行し、香港の民主活動家を次々と逮捕した。

周辺国への圧力も強めている。日本の尖閣諸島では毎日のように海警の船舶が漁船に圧力をかけている。南沙諸島海域の人工島には軍事施設を建設した。中印国境の警備兵が小競り合いを起こした。台湾の領空には毎日のように軍用機を飛ばしている。

中国は自国の軍事力を誇示することで、周辺国の支配を強めようとしているが、これは逆効果だろう。中国がますます国際的に孤立することは目に見えているのだ。

中国が孤立すれば、輸出ができなくなる。輸出ができなければ、外貨不足に陥り、一帯一路等の海外対策もできなくなる。最終的には香港ドルも維持できなくなるだろう。

また、中国国内経済を牽引してきた不動産業もバブル崩壊によって危機を迎えている。巨大企業の倒産と不良債権の増大は、金融機関にも大きなショックを与える。

世界が分断し、中国が孤立すると共に、グローバリズムは終焉を迎えたのである。

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3.グレート・リセットは左傾化を招く

2021年のダボス会議のテーマは、「グレート・リセット(Great Reset)」である。グレート・リセットとは、いまの社会全体を構成するさまざまなシステムを、いったんすべてリセットすることを示す。

グレート・リセットを実現させるために重要な取り組みは以下の3つとされている。

以上を順に考えていこう。

ステークホルダーとは利害関係者。ステークホルダー資本主義は、企業は株主の利益を第一とするべしという「株主資本主義」とは異なり、企業が従業員や、取引先、顧客、地域社会といったあらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきという考え方である。これは近江商人の「三方よし=買い手よし、売り手よし、世間よし」に近い考え方である。

また、岸田新総理の提唱する「新しい資本主義」にも共通している。これは格差是正を重視し、中間層への分厚い分配を行い、経済的弱者の所得底上げを図ることで、富裕層との格差を縮小し、国内総生産(GDP)の5割超を占める個人消費を活性化する、というものだ。

更には、中国の習近平主席も、貧富の格差を縮小して社会全体が豊かになる「共同富裕」を新たなスローガンとしている。

貧富の格差是正を行うには、これまでのグローバリズムのルールを改め、国家や地域単位の取り組みが重要になるだろう。

「新たな投資プログラム」とは、国家が大規模な復興基金や景気対策基金を用意して、システムを根本的に変革することを目指すものだ。これを推進することは、ある意味で大きな政府が必要になる。

第四次産業革命は、21世紀のデジタル革命であり、デジタル活用のイノベーションを活用しながら、公共の利益に取り組むことを意味している。

公共の利益を重視するということになれば、やはり大きな政府が必要だ。

以上を総合して考えると、資本主義と言っても、かなり社会主義的な資本主義ということになるかもしれない。

中国は資本主義的な共産主義を推進してきたが、最近では毛沢東時代の共産主義に回帰するような動きも見られる。

結果的に、世界全体が左傾化するのかもしれない。

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4.欧米を軸とした新たなグローバリズム

中国を軸としたグローバリズムは終焉したが、コロナ禍の中で、欧米を軸としたグローバリズムが始まろうとしているのかもしれない。「グレート・リセット」とは、欧米を軸とした新たなグローバリズム宣言ではないのか。そう考えると、ステークホルダー資本主義の意味も変ってくる。あくまで欧米のステークホルダーが中心であり、アジアやアフリカ諸国はステークホルダーとは入っていないのだ。

最も典型的な事例がワクチンである。ワクチンは欧米で開発され、世界に供給された。中国もワクチンを開発したが、欧米のワクチンほどの有効性はないようだ。

そして、ワクチンについては国連のWHOより、アメリカのCDCが主導権を握ってい
る。

感染拡大時期には、日本発の安価なアビガンやイベルメクチン等の治療薬が注目されたが、ワクチンが供給されるようになると、一切の報道もなくなり、ワクチン接種だけが唯一の解決策であるかのように報道された。欧米を軸としたグローバリズムにおいて、日本の存在は邪魔なのだ。

医療と健康の分野において、中国の信用は落ちており、欧米を軸とした世界市場がワクチンにより構築されたとも言える。

更に、中国のIT企業が世界市場から退場したことで、米国のメガテックが再び独占状態になろうとしている。

米国のGAFAと並び称された中国のBATH、すなわちBaidu(バイドゥ)・Alibaba(アリババ)・Tencent(テンセント)・Huawei(ファーウェイ)各社は、おそらく中国国営企業になっていくに違いない。そして、成長のモチベーションを失うだろう。

エネルギーについても、中国を排除してしまえば、環境問題を絡めながら欧米企業が主導権を握れる。

軍事的には、既に米国が覇権を握っており、日本は完全に米国のコントロール下にある。英国も日本との同盟を希望しており、これも見方を変えれば、米英による日本の押さえ込みとも言える。更に、豪州の軍事力を増強し、磐石の体制を構築しようとしている。

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5.自立型資本主義の可能性

世界は日本の完全な独立を許そうとしていない。日本がイノベーションを起こさないように監視し、コントロールしているのである。

中国を軸としたグローバリズムから欧米を軸としたグローバリズムに転換しようとしているが、日本は「日本を軸としたグローバリズム」を志向していないと思う。

日本人は、昔から民族独立を基本としたゆるやかな経済協力体制を目指してきた。大東亜共栄圏構想がその典型である。

そういう思想があるから、中国への支援を行ったとも言える。欧米の影響を排して、中国が自立することを良いことだと考えたのである。

したがって、台湾も自立すべきだと考えている。その台湾を中国が侵攻することは感情的にも許せないのだ。いうまでもなく尖閣諸島に圧力をかけるなどもってのほかである。

日本が考えるべきグレート・リセットは、グローバリズムを否定し、各国が経済的に独立する、自立型資本主義ではないだろうか。そして、自立した国同士で対等でフェアな貿易や経済協力を行う。

日本が考える「新しい投資プログラム」の性格も変ってくるだろう。各国が自立した経済を運営できるような経済インフラ整備がその中心になるはずだ。

中国の一帯一路のように、中国経済のためのインフラ支配ではなく、あくまでもその国の経済が自立するようなインフラ整備である。当然、その国の企業と人材を育成することも含まれるはずだ。

デジタル産業革命も、分散型で発想する。大企業を優遇するのではなく、分散型の企業ネットワークを育成していく。「分散型イノベーション」による「マイクロ経済圏」あるいは「ローカル経済圏」を構築し、それをネットワーク化していく。

自立した個人や企業が自律的に成長できるならば、大きな政府は必要ない。こんな考え方もできるかもしれない。

そうなると、左傾化というより、民族独立、自立型経済を目指すことになるだろう。

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編集後記「締めの都々逸」

「竈の神や 便所の神の 気持ち分からぬ 一神教」

世界の人達は、他人の気持ちを察するよりも、自分の気持ちを表現することを優先します。これが国際標準。

だから、「世界の平和と発展」と言ったとしても、当然、自国の平和と発展を優先し、国よりも家族や個人の平和と発展を優先するわけです。これは常識であり、暗黙の了解事項です。

でも、日本人は自分の気持ちを表現する前に、相手の気持ちを察するので、自分の気持ちを殺してしまうことさえあるんですね。

そして、「自国が貧しくなっても、世界が平和になればいい」と本気で考えてしまう。

こうした自己犠牲の精神は、宗教的な思想や体験があって、初めて獲得するものとされています。しかし、日本は違うんです。

この段階で、資本主義なんて超越しているんですが、更に強欲な経営者の気持ちを優先して、自己犠牲の精神を発揮してしまったりするんです。これ、日本の思想の課題ですね。(坂口昌章)

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image by: Drop of Light / Shutterstock.com

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