MAG2 NEWS MENU

中国「極超音速兵器」実験の波紋。軍事競争は宇宙空間に及ぶのか?

中国が今年8月に音速の5倍以上の速さで飛行する「極超音速兵器」の実験をしていたと英有力紙が報じ、米国も想定外の技術力に波紋が広がっています。中国は否定しているものの実験が事実だった場合、新たな軍拡競争を懸念するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さん。「極超音速滑空体」による攻撃を防ぐ方法を考察すると、人工衛星を用いた宇宙空間での競争にまで行き着き、そこでようやく軍縮が協議されることになると、人類の業を嘆いています。

軍事の最新情報から危機管理問題までを鋭く斬り込む、軍事アナリスト・小川和久さん主宰のメルマガ『NEWSを疑え!』の詳細はコチラから

 

極超音速滑空体は軍縮交渉のテーマになる?

10月16日付けの英国の新聞フィナンシャルタイムズが報じた中国の極超音速滑空体に注目が集まっています。

「英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は16日、米当局者の話として、中国が8月に音速の5倍以上の速さで飛行する極超音速兵器の実験を行ったと報じた。核搭載可能な極超音速滑空体が地球上空の低軌道を周回し、標的には命中しなかったものの、中国の技術が『米当局の認識よりもはるかに進んでいることを示した』としている。

 

記事によると、極超音速滑空体は、中国の主力ロケット『長征』で宇宙空間に打ち上げられた。低軌道を回った後、標的に向けて下降し、約40キロ・メートル離れた地点に着弾したという。記事は『米情報機関が驚くほど高度な能力だ』と指摘した。

 

複数の関係者によると、今回実験された兵器は理論上、南極上空を飛行して米国を攻撃することができる。北極経由の攻撃に焦点を当ててミサイル防衛システムを構築している米軍にとって、『大きな課題になり得る』という。(後略)」(18日付朝日新聞)

これについて、中国外交部の趙立堅副報道局長は18日、「宇宙船の再利用の技術検証試験であり、世界の多くの企業が同様の実験を行っている。ミサイルではない」と否定するコメントを出しています。

そうは言っても、記事の通りなら極超音速滑空体を防ぐのは容易ではありません。米国をはじめ各国が慌てふためき、それこそ相撃ちを狙って同じような極超音速滑空体の開発を加速させるのは自然の成り行きでしょう。

しかし、今年1月25日号で西恭之さん(静岡県立大学特任准教授)が紹介しているように、専門家の間でも極超音速滑空体については評価が分かれているのです。

過大評価すべきではないとする見方は、極超音速滑空体は発射から着弾までのほとんどの区間で、米国の既存の早期警戒衛星のDSP衛星(国防支援計画衛星)とSBIRS(宇宙配備赤外線システム)で追跡できるし、最終段階での落下速度は大陸間弾道ミサイルより遅いので現在のミサイル防衛でも破壊することは難しくないというものです。

極超音速滑空体に関する評価は、中国やロシアの軍拡を脅威と感じる立場ほど「大変だ」となり、その逆の立場からは「大丈夫」という傾向が強くなるとも言われます。

軍事の最新情報から危機管理問題までを鋭く斬り込む、軍事アナリスト・小川和久さん主宰のメルマガ『NEWSを疑え!』の詳細はコチラから

 

そうした極超音速滑空体に対する評価はさておき、ここでは実際に防御する手立てについて考えてみたいと思います。極超音速滑空体が本当に現在のミサイル防衛能力では対処しにくい場合、発射直後のブースト段階で破壊するのが最も確実かも知れません。弾道ミサイルは、打ち上げ直後の高度20キロの速度はマッハ3くらいですから、これを狙うのは難しくないからです。

その場合の手段としては、2017年6月19日号で西恭之さんが紹介したような固体レーザーを無人機に搭載する方向が加速される可能性があります。既に固体レーザーは米陸軍の兵器無力化レーザーシステムや海軍のレーザー迎撃システムなどで実用化されており、強力なものが登場するのは時間の問題だからです。

対象国が北朝鮮のように国土面積が限られている場合、日本海と黄海上空に固体レーザー兵器を搭載した無人機を滞空させておけば、発射と同時に破壊することができます。

日本の場合でいうと、日本に対する弾道ミサイル攻撃の危険性が高まっていると認識した場合、発射される地域を狙える空域に無人機を滞空させると世界に向けて宣言しておくのです。どの国を対象とするのかは口にする必要はありません。中国についても無人機が20キロほどの上空から狙える沿岸部に対しては有効性を持つでしょう。

固体レーザー兵器が実用化されるまでは、既に台湾やロシアで実戦段階にあるマッハ6以上の速度を持つ空対空ミサイルをさらに高速化させ、無人機に搭載することになるでしょう。これだけでも、極超音速滑空体を発射しようとする国に対する一定の抑止効果は生まれてくると思われます。

問題は、中国のように広大な国土の奥深く弾道ミサイルを隠すことができる国です。その場合は、人工衛星搭載の固体レーザー兵器が宇宙空間から狙うことになるでしょう。そうなると、中国やロシアも衛星攻撃兵器や固体レーザー兵器搭載の人工衛星を打ち上げ、米国の衛星を狙うことになります。

その先は核兵器の前例が示しているように、極超音速滑空体も固体レーザー兵器搭載の人工衛星も軍縮交渉のテーマとなり、かりそめの平和が実現するのかも知れません。こんな兵器開発競争をしなければ軍縮の動きにならないなんて馬鹿げていますが、これが人間の性だと思うと致し方ないのかも知れません。(小川和久)

軍事の最新情報から危機管理問題までを鋭く斬り込む、軍事アナリスト・小川和久さん主宰のメルマガ『NEWSを疑え!』の詳細はコチラから

 

image by: Shutterstock.com

小川和久この著者の記事一覧

地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEWSを疑え! 』

【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け