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学校という“ブラック企業”を炙り出した「教師のバトン」の大炎上

質の高い教師を確保するためには「現職の教師が前向きに取り組んでいる姿を知ってもらうことが重要」(文科省HPより)とのコンセプトのもと、文部科学省が教師たちにSNS上への投稿を呼びかけた「#教師のバトン」なるプロジェクト。しかし発信された内容は文科省の思惑とは裏腹に過酷な教育現場の「惨状」を訴える声ばかりとなり、大炎上の結果となってしまいました。そんな状況を予想していたというのは、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さん。阿部さんは今回のメルマガ『伝説の探偵』でその理由を綴るとともに、失敗に終わったと言っても過言ではない当プロジェクトを、「働き方改革の一環」として仕切り直すという逆転の発想的提言を行っています。

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大炎上した「教師のバトン」は潰えたのか?

教師のバトンとは?文科省の案内ではこうある。

現場で日々奮闘する現職の教師、また、教職を目指す学生や社会人の皆さんで、学校での働き方改革や新しい教育実践事例、学校にまつわる日常のエピソードなどを、Twitter等でシェアしませんか?

「ハッシュタグ(#)教師のバトン」でツイートしよう!と。

しかし、多くは、「残業代無し」「ブラック企業だ」「部活動やめてください」「教師なんかになるな!」などとの批判的ツイートで開始の3月26日から大炎上を記録し、燃え続けたまま、11月9日現在(2021年)確認する限り、プロジェクトは終了してはいないが、文科省の「教師のバトン」アカウントは、9月17日11時の「教員免許更新制に関する審議のポイントについて」を最後にツイートはしていない。

もはや、「#教師のバトン」プロジェクトは潰えたといえる形となっている。

仕事としての魅力を感じてもらい教職を目指す人を増やそう

教員の仕事は年々増えているように感じる。例えば、英語教育の導入や、このところ問題となることが多い一人一台の端末を貸与するというGIGAスクール構想に関する管理など、省庁によくある何かを始めるには何かを解体するというようなスクラップアンドビルドはなく、常に追加で業務が増えていくわけだ。

私はいじめ問題で学校の現場を目の当たりにすることが多いが、真面目にしっかりと対応するタイプは土日祝返上で、始発から終電まで働き、ストレスフルな状態で身体を壊しやすい傾向がある一方で、全く何もやらない人は、図太く逃げの一手に終始する。

少し見聞きしている程度の私ですら、現場の異常性はわかるのに、教育を司る文科省がこの状況に気が付かなかったわけはないだろう。

その状況の中で、「仕事としての魅力を感じてもらい教職を目指す人を増やそう」という目的で、「教師のバトン」を始めたのだとすれば、これは「失策」であったといえよう。

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現場の悲痛な声

なぜなら、どこの誰が「ブラック企業」に試験まで受けて就職したいと思うだろうか。

実際に「教師のバトン」のツイートには、「残業代や手当がない」「土日祝日は返上」「(教師になって)精神を病んでしまった」などのツイートが大量に投稿された。

仕事の上でのパフォーマンスを保つには、適度な休憩や休息は必要なはずだ。そうしたことが、許されずにまかり通り、結果として、この状況を「ブラック企業」並みと評価されるに至ったわけだ。

教職を目指す人に向けて、「教師のバトン」で投稿されたツイートを見れば、そのほとんどが、「やめた方がいい」であったわけだから、現場の悲壮感はとんでもない熱量なのだとも言える。

教師のバトンは働き方改革に変えるがよし

「教師のバトン」を簡易に分析してみても、投稿者の多くは現役教員である可能性が高いということがわかる。そこから言えることは、主に呟かれている言葉は、「働き方改革」をしてくれという悲痛な声と捉えるべきだろう。

例えば、残業代や手当など、これは法律改正が必要なところだが、世界のGDP比較の教育費では、日本は世界平均を大きく下回ることから、世界では教育に充てられる予算が低いことでも知られているわけだがから、予算を取りに行く必要があるだろう。

予算の増加があれば、未経験の分野の部活動の顧問というのは、プロのコーチを雇うこともできよう。まあ、教育活動の一環として考えると、勝ち負けがある競技は議論の対象にもなるだろうが、なにせ、予算があまりに乏しいというのが、教育界隈の実態ともいえるのだ。

もしも、教師のバトンを別の意味でのちのち成功と言うのであるとすれば、現役教師からのバトンは、次世代の教職を目指す学生などにバトンが渡ったのではなく、文科省や国、地方自治体に対して、そのバトンが渡ったのだと当事者が捉えて、中小企業の社長が現場の問題点を次々に改善していくようないわゆる改革につながったときだと言えよう。

実際、いじめの現場にいれば、各地方自治体が第三者委員会を形成するための予算には格差がある。ある地方では、委員一人に3,000円程度の日当、ある地域は大盤振る舞いだと豪語してだいたい1万5,000円程度であった。第三者委員会は事案の複雑性の問題などがあり、10回未満の会合で終わる場合もあれば、20回以上やる場合もある。いずれにしても、自治体の予算としてわずか数十万円払うこともできないという地域もある ということだ。

専門性がある委員はいずれも会合の日当だけで、会合以外で箱一杯の資料を読み込む時間などは日当換算されないのが常である。

一方、その結果は検証されることは稀で、丸数十日かけて作った地域のいじめ対策の提案は使われないまま、単なる通過儀礼になることの方が多いと考えれば、委員を断る専門家も多くなるわけだ。

また、私はいじめの実態などを伝えるための講演会の依頼を受けて全国各地へ行くことがあるが、遠方だとどうしても新幹線や飛行機を利用することになる。すべて格安チケットを入手して動くことになるが、それでも、4校合同で開かないと交通費も出ないということもある。こういう場合、講師料はほぼ無しになるが、呼んで頂けるだけありがたいので、日程があれば必ず行くようにしている。90分間の公園で数百万かかる人気講師ならばいざ知れずだが、私とてこれが毎日ということになれば、生活が立ち行かなくため、断ることになるだろう。

つまり、地方であれ、国であれ、何にしても教育で計上される予算は、求められていることからすれば常に低いというのが、全ての実態だと言えよう。

ただ、全ては悲観的とはいえない。

実際に、私が知り得る限りでも、部活動の予算は国家予算と比べれば、僅かではあるが、「教師のバトン」の悲痛な声と部活を頑張りたい子どもたちの声が国に届いて、枠が設けられたりしている。僅かな変化は、何も変わらないより大きな一歩ではあるのだ。

いっそのこと、「教師のバトン」は、本格的な「働き方改革の一環」に仕切り直してみてはどうだろう。

誰かの犠牲で成り立つ教育現場で、しっかりとした教育ができるわけがないのだから。

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編集後記

私はよく小学校などを周る「キャリア教育」に参加しています。その関係で、小学校などの教室に「探偵」として、どんな仕事か?などを中心に話に行きます。

また、学校の先生たちがいじめ問題について私に問い合わせてくることもありますし、私自身も教育実習に行き、教職を取ったということもありますので現役の教員は友人として多くいます。

ただし、いじめ問題では主に被害者側についていますし、隠ぺい事案を暴いたりするので、どうしても学校の敵に見られがちですが、その実、教育界には友人も多くいるのです。

そうしたところからみていると、特に公立校の教員は、安定こそしているけども、安く定まっているというのが実際のところではないかと思うのです。夏休みなどの大型休暇も、実際は学校がやっていないだけで、出勤はしているし、部活顧問の友人は、家族旅行すら行けません。

それでも、彼らは自分の生徒が良い学生生活を送ってくれればという思いで、必死です。もちろん、やりがいはすごくあるでしょうが、やりがいだけでは人はこの消費社会で生きてはいけません。

「教師のバトン」プロジェクトを聞いた時、多分早々に大炎上するだろうと思いました。

キラキラコメントを期待したかもしれませんが、まず無いでしょっと思ったわけです。

頑張っている先生にはぜひとも良い環境で頑張ってもらいたいものです。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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