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15年後だって構わない。Facebookが「メタバース」構築を目指すワケ

Facebookは米国時間の10月28日、社名を「Meta」に変更すると発表。10年から15年かかってでも3次元仮想空間を意味する「メタバース」の構築を目指すとするマーク・ザッカーバーグCEOの狙いはどこにあるのでしょうか。メルマガ『杉原耀介の「ハックテックあきばラブ★」』著者で、システム開発者であり外資系フィンテックベンチャーCTO(最高技術責任者)でもある現役東大大学院生の杉原耀介さんは、「メタバース」が完成すれば、世界を手にするに等しく、織田信長が茶器や茶碗に価値を付けたのと同様の錬金術が可能になると、その仕組みをわかりやすく解説。来たるべき時に備え、3次元の現実の中でどんなビジネスができるかイメージする意義を伝えています。

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メタバースと茶道の意外な関係

10~15年間実現できなくてもいい?

Facebookが社名をMETA(メタ)に変えて、メタバース構築に本気を出してきていますね。
Facebookのソーシャルメディア企業からメタバース企業への移行についてMeta幹部が語る – GIGAZINE

約55億円を開発に投じて「10~15年は実現できなくても構わない」という気合の入り方。なんだかちょっと怖くなるような入れ込み具合ですが、なぜそれほどメタバースに注力していくのでしょうか?もちろん、次世代のSNSをリードしていくとか、リモートでのコミュニケーションが特にコロナの後活発化していくという理由もあると思いますが、私はこの話を聞いたときに「ああ、これは信長が茶道を推奨したのと同じことだなあ」と思っていました。

なので今回はまずFacebookがなぜメタバースに進まなければいけなくなったのかと、それが実現したときに「何が嬉しいのか」ということをちょっと考えていこうと思います。

「高齢者のSNS」になったFacebook

よく「学生時代はTwitter、就職したらFacebook」なんて言葉をZ世代の新入社員が口にしたりしているそうです。学生時代はTwitterやインスタグラム、tiktokなどを使っているけれど、学校を卒業して就職すると先輩や上司などが「連絡するためにFacebookのID教えて」と言われるので、しかたなくFacebookのアカウントを作る。

いわゆる「おじさん」たちはFacebookをよく使っているのでメッセンジャーでメッセージをやり取りするのには使うけど、当然ながら私生活をFacebookに投稿することはなく、彼らの投稿はほとんどない状態。

それでもメッセンジャーだけ使っていれば良いのであればいいけれど、ときには上司や偉い人の投稿によいしょするために「いいね」を押すという、いわゆる「お追従いいね」という風習を強要されることもあるとか。本来は楽しい個人のコミュニケーションとして使われるはずのSNSが私生活にも入り込んでくる「厄介者」になってしまえば確かに使う気がなくなるかもしれませんね。

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おじさん、おばさんが頑張るSNS

でもFacebookは最近そのような雰囲気が強くて、「おじさん、おばさんが頑張るSNS」という謎の地位を確立してしまったと言われています。おじさん、おばさんたちは楽しんでFacebookを使っているので、良かれと思って若者たちを誘うけど、結局私生活にまで会社の関係を持ち込むのがいやで若者たちが離れていく。だからますます高齢化が進んで、やがて「高齢者のSNS」という嬉しいんだか、嬉しくないんだかわからない異名をもらうことになるわけですね。

まあ、正直私もわりと「Facebookでアクティブなおじさん」ですし、Facebookがたのしいーとおもうことも結構あります。また全てのメディアが「若者向けに作られるべき」だとは思っていないので、こういう高齢者が楽しめるメディアがあることも十分に「あり」だとは思うのです。

とはいえ、超高齢化が進んでいる日本はともかく世界的に見ればやはり若者向けのSNSを持っていた方が、購買意欲も高く広告主からも喜ばれるわけですし、一時期のFacebookからみると、やはり若干トーンダウンしてしまっているのは否めないといえるでしょうね。

ただ、実を言うと(いつのまにか)若者向けのメディアの代表であるインスタグラムはFacebookの傘下に入っているので、厳密に言えばFacebookが無策に指を加えてみていたわけではないのですが、一連のアメリカ大統領選での情報操作疑惑など、いろいろ逆風が吹いているなかFacebookはいろいろブランドとしては辛い状態になっているといえるでしょう。

でも、単純にブランドのイメージが変わってしまっただけならば、別のSNSを立ち上げることも別にFacebookの資金力を持ってすれば造作ないことでしょう。snapchatやyoutubeのようなサイトのクローンを作ることでもある程度の成果をあげることは彼らにはできるはずです。

なぜメタバースというあえて難しい3Dを使った仕組みを、10年15年かけて作り上げていこうとするの?新しいことをすることで株主の興味を引く?まあ、もちろん、それもあるとは思います。ただメタバースには、それ以上の不思議な錬金術を行える可能性があるのです。

メタバースってなんだっけ?

と、その説明をする前にそもそも「メタバース」ってなんだっけ?ということを(すでにご存知かもですが)簡単に説明しておきましょう。メタバースはメタ(meta:仮想)とユニバース(universe:宇宙)を組み合わせた造語で、コンピュータの3次元の仮想空間に造られた世界のことです。ニール・スティーヴンスンさんのSF小説「snow Crash」で初めて現れたと言われ「レディ・プレイヤーワン」という映画でも話題になりましたね。

まあ、説明するとキリがないですが簡単に言うと「コンピュータの作る仮想世界の中で、あなたは自分の分身(アバター)として暮らす」ことができるようになるわけです。コンピュータの中なのでなんでもできます。空を飛ぶこともできるし、瞬間移動することも可能。仮想世界の中を遠く旅したり、友達と遊んだり、ウフフなことをしたりと、現実世界では難しいようなことも仮想世界では自由自在。

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また、アバターはコンピューターで造られたCGなので、性別や年齢、それこそ種族を超えて(なりたければモグラでもうさぎでも)なんにでもなることができるわけです。最近一部のスノッブな人たちの中で話題になっているVR CHATも簡単なメタバースの一つで、現実の世界の年齢や性別、人種などを超えて自分の「好きな自分になれる」という魅力で、多くの人が毎日サインインしています。

通常のチャットや簡易的なメタバースでは世界は平坦で移動できる範囲も少ないですが、本格的に作り込まれたメタバースでは現実の街がまるごと一つ作り込まれたり(最近はバーチャル原宿など有名な場所をオンラインに作るというのも流行っていますね)それこそ果てしない世界が仮想空間に広がっていくこともそれほど難しいことではないのです。

メタバースを持っているメリット

でも、メタバースを作るのはとても大変なことです。アクセスするための機械(oculusをはじめとする3Dゴーグルと呼ばれる仮想現実に入る機械)の現実世界での生産や普及、さらに3D世界の作り込みやさまざまな施設、たとえばコンサートホールやダンスフロア、ゴルフ場などの作成、いろいろな要望を満たせるアバターも作らなければいけませんし、膨大な量のデータを記録するストレージも必要になります。まさにメタバースを運営していくことは「世界を運営する」のに等しいのです。

では、そんな面倒なことをしてなんで嬉しいの?と思いますが、実はそれに投資するだけの価値もあります。まずは極端なことを言うとメタバースの土地はざっくりいうと「全て運用者のもの」です。人が集まれば町になり、町が大きくなれば大都市になります。

メタバースなのでどんなところでも自由自在にワープすることはできるとしても、やはりその中でお店やオフィス、部屋を「所有」したくなるのは人間のサガというもの。では実際にその土地を売っているのはだれか?といえばそれは「メタバースの所有者」なのです。

また、メタバースで過ごしている時間が増えれば自分のアバターを改造したくなるでしょうし、そのアバターに着せるファッションも変えたくなるでしょう。当然「遊びとして」の乗り物や、素敵な建物を作りたくなることが想像できますが、それをメタバースに持ち込むためには「なんらかのメタバース所有者の許可」が必要になりますし、当然その流通にはマージンが乗っていることになります。

そしてこれが一番ちょっと怖いことですが「その人がメタバースでどのような行動を取ったか」はメタバース所有者に筒抜けになるのです。今でも私たちはインターネットに接続している間は自分の行動がいろいろなデータプロバイダに筒抜けになっています。ただ、そこには「スマホの電源を切る」という選択肢が残っていて、最悪(最高?)インターネットとは無縁の場所に行けば、そのトラッキングからは逃げることができます。

ただ、メタバース上では逃げ道は「ゼロ」です。メタバースの運営者が望めば、ある人がいつどんな人とどういう話をして、何を欲しがっていて、どういう行動をしたのかを全てトラッキングすることができます。ちょっと大袈裟に言えば「神の視点」をメタバースを作った人は得ることができるわけですね。

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信長が茶道を奨励したわけ

ところで少し話が飛びますが、織田信長がなぜ茶道を「武士の嗜み」としてあれほど推し進めたかご存知ですか?もちろん、武人であっても文化の嗜みは必要という建前はあるのですが、実はその背景には経済的な理由もあったと言われています。

当初、戦国時代では武将が戦いに貢献するとそのご褒美に土地を分け与えるのが一般的でした。だから当然ですがとても優秀な武将にはたくさんの土地が分け与えられたわけです。ただ、困るのは「分け与えられる土地は有限」であること。もちろん織田信長などになればたくさんの領地をもってはいるものの、それを切り売り(売らないけど)していけばいつか分け与えられる土地がなくなり、武将たちのモチベーションが下がってしまう日が来ることは目に見えています。

また、多くの土地を分け与えた武将は力をつけて、いつか反旗を振りかざす日が来るかもしれません。そんな危険がある土地をあまり渡すことは、得策だとは言えませんね。

そこで信長は「茶道」を奨励し、その上で戦いに貢献した武将には「希少な茶器や茶碗」を与えることにしました。貴重な茶器や茶碗は、茶道を嗜む武士の中では高い価値をもち、時にはそれを高い値段でお金に換金することもできます。また希少な茶道具がのちに価値が上がって、さらに家宝としてのバリューが上がっていく場合もありました。

しかし、一方ではその「価値」を決めていたのは誰か?というと当然茶道の宗主である千利休ですし、それはつまりもっと言えばその最大のパトロンである信長であったわけです。茶道具は作ろうと思えば無限に作ることができます。また極端なことを言えば「これは価値があるものだ」と言えば(材料費に関係なく)どんなものでも突然貴重なものになるという、まさに「錬金術」なのです。

こうすることによって信長は実質的な価値のある土地を渡す代わりに、自分が定めた価値のある茶道具を分け与えるようになりました。もしかしたら「こんなのいらないよ」と思った武士もいたかもしれませんが「茶道は武士の嗜み」であったわけで、まさか「こんなの興味ないので土地をください」とも言えなかったのだろうと思います。こうして信長は「いくらでも価値を創り出せる錬金術」を千利休を通して手に入れたわけですね。

メタバースと茶道具

どうですか?なんかちょっとメタバースの話と似ていると思いませんか?メタバースを「みんなにとって価値のあるもの」に仕立てるのはすごく大変なことですし、お金もかかるでしょう。ただ、一度メタバースが浸透し、その中でみんなが「生活」するようになったら、その中での価値はまさに「作り放題」だといえます。

アクセスを制御してみんなが出会いやすい場所を作ることも可能ですし、そこであえて希少価値のある建物を作って分譲することもできます。海沿いの街が人気があれば「海」をそこに作ることも簡単ですし、建物を取り壊したり土地を改造するのも(実際にはデザインなどは必要ですが)指先1クリックで最も簡単にできてしまうのです。

もちろん、今までのように広告を扱って儲ける(空の上でも地面でも好きなところに広告が出せます)こともできるでしょうが、それよりももっと深いレベルでmetaはメタバースでの私たちの生活に関与し、極端なことを言えばその世界での経済も握ることができるわけですね。

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こう考えるとFacebookはメタバースを通してあらたな「錬金術」を手に入れようとしていると思うのはちょっとうがった考えでしょうか?

18年前にはじまった「Second life」は当時としては「早すぎた」感じがありますが、その中でも不動産投資や金融取引が活発に行われたことは話題になりました。あれから20年近く経ったいまでは技術も十分に進歩し(そしてまだ10年以上余地もあることですし)3Dゴーグルも進化が進んでいけば、どこかで「現実と見分けがつかないメタバース」が完成する可能性は十分にあります。

その勝者がMetaなのか、それとも違う会社なのかは別として、その運営者が多くのベネフィットを得ることは間違いないと言えるでしょう。

では私たちはどうしたら?

とはいえ、メタバースを作るのは大仕事、体力も人力も必要ですからおいそれと手を出すことは難しいのは事実です。ただ、だからと言って私たちがメタバースに「一枚噛む」のが難しいかと言えばそういうわけでもなさそうです。

メタバースは乱暴に言って仕舞えば「空っぽの世界」なので、かならずその中にはなんらかの「コンテンツ」が必要となります。それはエンターティメントやIPというようなソフトウエアもありますし、建物やインテリアなどの「現実世界を持ち込む」ものかもしれません。

それらがデジタル化していて、その利用者にとって馴染みがあるものであれば、メタバースの中で必ず必要となるノウハウですし、いくらmetaが大企業だと言っても世界の全ての事象を網羅することができるわけではないのです。だから、できるだけ自社のコンテンツをデジタル化して、できればオンラインでも決済できる状況を作っておくこと。これを意識しているのとしていないのでは大違いになってくることでしょう。

それは例えばレストランやカフェ、教室やジムなどありとあらゆるジャンルに起こってくる革命になります。もしかするとメタバースの中では現在の仕事とはコンテンツの在り方が変わるかもしれません。でも、リアルの世界にあるコンテンツは、かならずメタバースの中でも必要になってきます。「うちの製品がメタバースにあるどどうなるのかな?」とちょっと考えてみると面白いかもしれませんね。

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image by:Michael Vi / Shutterstock.com

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幼少期から独学でプログラムを学び、15歳でプログラムコンテスト荒らしを始める。工学系に一旦は進むもすぐ飽きて美術系に転向。映像・CGデザイナーを経て1995年にインターネットと出会いニューヨークでシステム開発の仕事を始め、その後アイドルから金融まで幅広い新規事業に携わる。直近ではゼロから外資系フィンテックベンチャーのシステム開発を行い、CTOとして成長に寄与。ガジェット大好きなガチオタ。新しいテックトレンドの予言に定評があり「預言者」と呼ばれることも 。慶應義塾大学大学院美学美術史学修士、現在東京大学大学院博士課程在学。

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