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失敗も成功も経験せずに経営者となった「後継ぎ」はどう育てるべきか

事業に関する成功や失敗などの実体験を持たずに権限だけを得てしまう等、「後継経営者」にはさまざまなリスクがあります。今回のメルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では、著者の浅井良一さんが後継経営者のマネジメントについて、中国の逸話や松下幸之助氏の言葉を引きながらお話ししています。

後継経営者のマネジメント 生き死を決する知恵

後継経営者は、自身が起業したのではないので、はからずして一定の事業基盤を持てるとはいえ、付随する困難性をも持つのが常です。失敗を含めての多くの経験は、当事者に多くの知識と知恵をもたらし、またその上での成功体験は自覚と自信をもたらします。それらがない後継者は、ある意味で強みなく事を行うことになります。

大きく事業を確立した経営者は、顧客と時代の欲求をとらえ多様な人材を獲得し育成し動機づけてマネジメントしたから成果を得ます。後継経営者も、変化の中で変革してこれを実現しなければなりません。

後継経営者の困難性とはどんなものなのか、それについては3つあり、その1つは、実体験を持たないなか責任の意味も判然としないで権限を得ること、2つ目は、時代にそぐわない陳腐化する成功体験や文化を無自覚で引き継いでしまいがちなこと、そして3つ目は今日的な変化の中にあるのに安定、安全がとうぜんであると錯覚しやすいことです。

無節操に与えられることに慣らされて、無自覚であれば悲惨です。けれど、溺れることなくさらに興隆する後継者が少なからずいるのも確かで、興味深いのは、そんな後継経営者は先代と真っ向から対立するケースも多分にあり、星野リゾートの星野さんもそんな一人です。甘えを克服して、基盤を活用し革新できる経営者には未来があります。

また中国ネタで、中国春秋時代の「楚の荘王」のことをみてみます。父の死により若くして即位した荘王は、王族の反乱もあり波乱の中での後継で、3年間、全く政治を見ず日夜宴席を張り「諫言する者は全て死罪にする」と宣言したのでした。その間、悪臣が蔓延り賄賂を取ったりして大いに風紀は乱れたのです。

3年目のある日、家臣の伍挙が荘王のまえに進み出てこう言ったのです「謎かけをしたいと思います。ある鳥が3年の間、全く飛ばず、全く鳴きませんでした。この鳥の名は何と言うのでしょうか」と。すると、荘王は「その鳥は一旦飛び立てば天まで届き、一旦鳴けば人々を驚かせるだろう」と返し、それ以上の言を退けたのでした。

その後も放蕩は続けたのですが、大夫蘇従が死を賭して諫めるに至って生活は改まり、それまでの見聞により悪臣を数百人誅殺し、伍挙と蘇従を枢軸に据え良材数百人登用して国政の一新させました。君主は賢いと見なされると悪臣に弑され、暗遇であると乗っ取られます。生死の境遇のなかで、臣下の本心を見極めてこそ身が守れます。

ドラッカーが「マネジャーにとっての必須の条件は“真摯さ”である」というのは、ここのところを言っているのであって、自身の利益を目的とする人材であれば、有能であればあるほど弊害をもたらします。

荘王には、人材の処遇について、こんな含蓄ある逸話があります。ある夜、臣下たちを招いて宴を張ったのですが、宴もたけなわの頃、蝋燭(ろうそく)が風に吹き消され、ある者が妃に悪戯を働きました。妃はその者の冠の紐を引きちぎり「私に無礼を働いた者がおります。私はその者の冠の紐を引きちぎりました」と言ったのです。

その時、荘王は「皆の者が大いに楽しむこと大変嬉しい。ここは無礼講、みな、明かりがつかぬ間に紐を引きちぎれ」と命じたのです。一同がその通りにし、誰もが死罪もある罪を問われずに済み、この度量の広さこそが、臣民をして一身を預ける縁になります。この後の合戦で、温情を受けた家臣は決死の働きをもって報いたのです。

少し、外れるのですが、松下幸助さんはこんなことを言っています。「部下の失敗はただ叱れば良いというものではない。失敗を自覚している時には慰めも又必要である」「叱るときには、本気で叱らんと部下は可哀想やで。策でもって叱ってはあかんよ。けど、いつでも、人間は偉大な存在であるという考えを根底に持っておらんとね」

「艱難汝を玉にす(困難や苦労を乗り越えることによって、初めて立派な人間に成長する)」という諺があります。後継経営者は、まずしなければならないのは顧客やノンカスタマー(顧客であっておかしくないにもかかわらず顧客になっていない者)の欲求、価値、現実を顧客視点(アウトサイド・イン)でとらえること。

アウトサイド・インの視点から自社のリソース(資源)、技術、サービスの強みを確認して、今後の戦略的な指針を見極めること。そのうえで、現有の社内の人材個々とコミュニケーションして情報を収集するとともに、その資質、能力を把握して戦略構想を練ること。この場合、無知識、無能のままで“衆知”を集めることです。

なぜ無知識、無能のままでかは、そうして接することで、多くの情報を白紙から集めることができるとともに、接する人材の素顔を見ることができるからで、とにかく多くを聴けば聴くほど知的資源が集まります。

できれば、インフォ─マスで“飲みにケーション”するのも効果的です。ここでのポイントは、本人の能力よりも人間的な資質、品格を確認するとが肝要で、あわせて“聞き役”“伝道者”となることです。京セラの稲盛さんは、社内のいろんな忘年会には、例え風邪で体調がすぐれなくとも無理を押して必ず出席したそうです。

“伝道者”とは何かで少し捕捉します。ミッションやビジョンを持たない事業は、餡子のない饅頭です。業績を大きく伸ばし成長させる経営者は、自身の行う事業の“意義”について信念を持っていなのでは骨なしです。腹を割っての伝導で、内部・外部を問わず共同体の信者となします。

松下幸之助さんは「衆知を集めた全員経営、これは私が経営者として終始一貫心がけ、実行してきたことである。全員の知恵が経営の上により多く生かされれば生かされるほど、その会社は発展する」と。「自分自身があまり学問、知識というものをもっていなかったから、皆に相談し、皆の知恵を集めてやっていくことになった」と言います。

image by: Shutterstock.com

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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