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プーチンに狙われている「親日国」を救え。いま日本が“できること”は

先日掲載の「米国が破った約束。プーチンがウクライナ国境に軍を展開する意図」でもお伝えしたとおり、欧米諸国の非難を浴びながらも、ウクライナとの国境付近に10万とも言われる部隊を集結させているロシア。アメリカの強い警告にも一歩も引かないプーチン大統領ですが、何がその強気すぎる姿勢を支えているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、「中国のバックアップ」を含む4つの要素を挙げ、それぞれについて詳細に解説。さらに親日国として知られるウクライナを危機から救うため、日本に何が出来るかについても考察しています。

【関連】米国が破った約束。プーチンがウクライナ国境に軍を展開する意図

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2014年以来の侵攻か?地政学大国ロシアの今後を決めるウクライナ情勢

ロシア・ウクライナ国境にロシア軍が集結し、2014年以来の侵攻があるのではないかと一気に緊張が高まっています。伝えられるところによると、すでにロシア軍の数は9万人から10万人の規模になっているとか。

アメリカ政府、そして欧州各国は相次いでロシアへの非難と、ウクライナへの侵攻を思いとどまるように、プーチン大統領に働きかけていますが、当のプーチン大統領は意に介さない様子。

12月7日にはオンラインで久々の米ロ首脳会談が開催され、問題解決が期待されましたが、結果から申し上げますと、互いの主張を繰り返すだけの完全に平行線をたどる議論だったようです。

また緊急開催されたNATO外相会談でも、アメリカのブリンケン国務長官からは「ウクライナ侵攻時には、ロシアは重大な事態に直面することになる」と自制を促しつつ、圧力をかけていますし、ストルテンベルグ事務局長は「武力衝突に備えなくてはならない」と警戒を高めています。

またオンライン首脳会談に先立ち、バイデン大統領は「ウクライナへの侵攻時には、対ロ経済制裁を課す」と警告しましたが、どうもロシアはまったく気にしていません。

そしてバイデン大統領が8日に「ロシアがウクライナ侵攻をしたとしても、米軍を派遣することはない」と述べたことで、ロシアとしては立場が強くなったと見ることもできます。

実際には、バイデン大統領の発言は、アメリカ単独での介入ではなく、NATOとしての介入を意味したようですが、それは同時に“アメリカのもつ対ロ抑止力の著しい弱化”を意味しているとも考えられます。

その弱化を招いているのは、アメリカの軍事戦略の重点がロシアから中国に移っていることが主要な原因と言えますが、同時にNATO内での結束の乱れも存在すると思われます。

例えば、NATOの同盟国トルコは、トランプ政権時代から、米ロの間での綱引きを意図的に行い、ロシア製のミサイルS400を国内に配備するなど、欧米諸国を苛立たせています。NATOの核弾頭・ミサイルが配備されている国でもありますので、NATO諸国のトルコへの疑念は大きくなるばかりです。

欧州各国もロシアに対して一枚岩で強硬姿勢を取ることが出来なくなっています。その主要因は、現在進行形の天然ガス価格の異常なまでの高騰です。ロシアからウクライナ、アゼルバイジャンなどを経由して欧州各国に供給される天然ガスパイプラインをめぐるコントロールは、まさに今、欧州各国のエネルギー安全保障を左右し、欧州各国の冬の“生存”を左右する懸案事項です。

2014年のウクライナ危機の際にも、ロシアは対欧州パイプラインを閉じるという“前科”がありますので、今回もこのカードは、ロシアが欧州ののど元に突き付けるナイフのように作用しています。

さらに2014年と状況が違うのが、欧州諸国はもちろん、世界に広がる天然ガス・LNG不足と価格の高騰という状況で、どの国も天然ガスの確保に躍起になっています。

脱炭素がグローバルトレンドになる中、忌み嫌われる化石燃料である天然ガスが、弱体し、影響力を失いつつあったロシアに息を吹き返すきっかけを与えたと言えます。

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ドイツはその状況に対して、アメリカからの反対と度重なる中止要請にも答えず、ロシアからドイツへの天然ガスパイプライン(Nordstream II)の運用開始に突き進んでいます。ベルリンのエネルギー省曰く、「ロシアの強硬姿勢は看過できず、ウクライナ情勢には大きな懸念を有するが、ドイツ人、および欧州の仲間たちの生存の確保が先決」との判断を下しています。加えて「アメリカは、要求はしても、別に欧州に天然ガスを供給してくれるわけではない」と切り捨てています。

ゆえにNATO内でもロシアに対する反対の強度は異なり、そこにロシアが付け入るスキが生まれています。

しかし、ロシアがここまで強気でいられるのは、本当に天然ガスパイプラインが生み出す地政学リスクだけなのでしょうか?

天然ガスパイプラインの存在は確かにロシアに大きな交渉力(bargaining power)を与えていますが、欧米諸国から対ロ経済制裁の可能性を突き付けられても意に介さず、強気の態度を示せるのは、昨今、強化されている中ロ経済協力をベースにした中国からの経済・外交上のバックアップがあるからでしょう。

欧米との対立と言えば、イランもそうですが、中国はイランと25年間の経済パートナーシップ協定を結ぶことで、イラン産原油を購入する権利を得る代わりに、イランに対して原油販売の収入に加え、数々のインフラ支援、そして外交的なサポートを約束しています。

一帯一路の国々との違いは、原油というカードをイランが持っていることでしょうが、それでもイランからかなり安価で原油を仕入れることが出来ているようです。

中国はロシアに対しても同様の駆け引きをし、国内で高まるエネルギーへの渇望に応えるために、天然ガスの購入を約束すると同時に、トランス・コーカサスの天然パイプライン(確か「シベリアの力」という名前だったような)を敷設して、中露間の結びつきを強化しています。

ここに国家資本主義体制陣営の基礎ができ、欧米サイドの自由経済圏に戦いを挑むことが出来る広い経済圏を築き上げることに繋がっています。

ロシアは旧ソ連解体後、一旦は影響力を失ったと言われてきましたが、プーチン大統領の下、勢力を盛り返し、今ではかつてのソ連領を再構築するかのように振舞い、アメリカがよく軍事的な介入の際に用いるキーワードである「国家安全保障にかかわる問題」と主張して、スタン系の国に介入して取り込みにかかっています。そして旧ソ連の共和国の中でもロシアが特にこだわるのがウクライナとベラルーシです。

プーチン大統領のみならず、ロシア政府の見解としては、ウクライナとベラルーシは不可分の兄弟姉妹であり、運命共同体という位置づけがされています。実際に私が交渉に臨む際にも、この3か国は常に歩調を合わせたスタンスを取ります。

その不可分という位置づけをしてきたウクライナは、ロシアが旧ソ連の跡取りとして復興に勤しんでいる間に欧米からの支援と影響を受けたことで親欧米勢力が育ち、リーダーを決める選挙でも常に親欧米か親ロシアかという問いが掲げられます。

2014年のロシアによるクリミア半島併合以降は、親欧米派が勢力を伸ばし、ここ数年はNATO入りさえ模索する状況です。

プーチン大統領にとって、このウクライナのNATO入りの可能性は、ロシアの国家安全保障上はもちろん、大ロシア帝国の復興に対する野望を邪魔する欧米諸国の企てと理解していることからも、多面的にレッドラインを超えているようです。

ロシアの帝国としてのプライド、中国との親密な関係と後押しの存在、欧州に対して持つ天然ガス供給というステーク、そして国家安全保障上、ロシアは自らの裏庭に乱暴に欧米が手を突っ込んできたという恨み…いろいろな要素が絡み合い、「一歩も退かぬ戦い」を展開しています。

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ハードラインを保つのは、欧米が一枚岩ではなく、特に欧州各国は天然ガスというエネルギーの根幹をロシアに依存するという兵糧攻めで音を上げるとの読みが働いていることと、NATOもアメリカも対ロ軍事作戦は取れないという確信が存在するからだと考えます。

意図してか否かは分かりませんが、欧米諸国が対中包囲網を固め、台湾海峡や南シナ海での作戦展開に重点をシフトする中、アメリカは確実にロシアに対して戦力を割くことはできませんし、欧州各国も軍事的な共通行動を取ることが出来ないことから、少しうがった見方をすれば、中国とロシアの連係プレーで、欧米各国の共通戦略展開を不可能にしていると言えます。

もしウクライナとの国境地帯に集結しているロシア軍が、越境してウクライナに侵攻することがあれば、欧米諸国はその覚悟の度合いを試されることになります。

すでにバイデン大統領は「経済措置の発動」を明言していますが、同時にアメリカによる軍事的介入はテーブルにないとも明言しており、“アメリカの抑止力”はロシアには働かないことを露呈しています。

そして先述の通り、NATOが即座に結束して対応する体制が整わないのであれば、当該地域における欧米諸国の信頼性は大きく傷つくことになります。

そうなったらどういう地政学バランスが登場することになるでしょうか?

可能性としては、冷戦時代のドミノ理論ではありませんが、中央アジア諸国(コーカサス・スタン系)は中ロサイドに倒れることになるでしょう。

この動きはすでに、アフガニスタンの今後をめぐる中央アジアと南アジアの連携でも生まれていますし、中ロが引っ張る上海機構の拡大においても表出してきている現象です。

ウクライナが消失することはないでしょうが、親欧米勢力は駆逐され、モスクワの友人の表現を借りれば、ロシアのbeautiful sisterとしての存在を取り戻すことになるでしょう。

次に考えられる可能性は、トルコの影響力の拡大です。スタン系の国は、実はトルコ系民族であり、先日、トルコ系の国々の連携を強める共同体が出来たことからも、地域におけるトルコの影響力は高まります。

ウクライナやベラルーシという、ロシアにとってのcritical interestsには手を出さないとは思いますが、先のナゴルノカラバフ紛争でのアゼルバイジャンの勝利を見ても分かるように、トルコは確実にこの地域に手を伸ばしてきています。

以前はEU入りを夢見て欧州各国に笑顔を振りまいてきましたが、その夢がかなうことがないと見切ったエルドアン大統領は、外交の矛先を中央アジアやアフリカに伸ばし始めました。

ドローン兵器(LAWS)の提供、経済的な支援、トルコ系の教育システムの提供など、様々なチャンネルを通して各国に働きかけると同時に、地域に根強く存在する反欧米の心理も使っています。そして、ロシアと中国と緊張感を保ちつつ、共に北アフリカから東アフリカ、中東地域(西アジア)を通って中央アジアへ向けた勢力圏を拡大しています。

東南アジアに至っては、まだアメリカと競っている最前線ですが、少し飛躍した言い方をすると、今回のウクライナをめぐる攻防に、もし欧米サイドが敗れるようなことがあれば、一気にアジア全域の地政学バランス・勢力図が変わってくる可能性が出てきます。

「何としても勢力・影響力の退潮を食い止めるために、ウクライナを防衛しなくてはならない」

これは実は欧米陣営にとっても、ロシアと中国の陣営にとっても、大事な戦いと位置付けられるのではないでしょうか。

そしてその影で、どちらにも足場があるトルコがどう動くかが、個人的には注目の対象です。

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ところで、今回のウクライナ情勢・危機において、日本の立ち位置はどこにあるのでしょうか?

アメリカとの同盟は外交安全保障上の基軸との位置づけですから、やはりアメリカ側でしょうか?

それとも敢えて発言を避けて、関わらないようにしているのでしょうか?

良くも悪くもスタンスが見えてきません。

ちなみに、ウクライナは親日国の一つに挙げられるのをご存じでしょうか?

アメリカとも“特別な関係”を持ち、ロシアとは緊張はあっても有効的な関係が存在し、中国とも良好な関係を保持する日本。まさに全方位外交が実を結んでいると言えるのだと思いますが、ぜひ欧米勢力と中ロ勢力の仲を取り持ち、緊張状態が爆発して、偶発的な衝突から、だれも望まない武力衝突に至らないように調停・仲介の任を担ってもらえないだろうかと、私は希望しています。

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image by: De Visu / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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