かつては「タブー」に近い形で扱われていた台湾有事への「軍事介入」ですが、昨今は政府要人が積極的な関与を口にするなど、流れは確実に変わりつつあります。そこにはどのような力が働いているのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、その理由を3つ挙げ各々について解説。さらに台湾のために戦うことは日本を守ることにも繋がるとし、そう判断する根拠を記しています。
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「台湾のために戦うのは当然」今年日本に起こった根本的変化
私たちは今、「歴史の転換点」にいます。それで、「歴史的事件」が、続々と起こっている。しかし、流れの中にいると、なかなか「歴史的事件が起こっている」ことに気がつきません。たとえば今年7月、麻生さん(当時副首相)がこんな発言をしました。
「(台湾で)大きな問題が起きると、存立危機事態に関係してきても全くおかしくない。そうなると、日米で一緒に台湾を防衛しなければいけない」
要するに、中国が台湾に侵攻したら、日本はアメリカと一緒に、台湾を守るために戦うと宣言しているのです。
もう一度書きます。
日本は、台湾を守るために、中国と戦争(戦闘)する。
これ、日本の副総理の言葉です(私がこの言葉をどう思うかは、後述します)。
私は、この言葉にも驚きましたが、もっと驚いたのは、政治家、メディア、国民の反応です。与党内からも野党からも、麻生発言を批判する声は、ほとんど聞かれませんでした。「リベラル」といわれるメディアからも、批判の声はほとんど聞こえませんでした。日本国民が大騒ぎした感じもしません。つまり、政治家もメディアも国民も、「台湾有事の際、日本がアメリカと共に、中国と戦うこと」は、「当たり前のこと」として認識しているということでしょう。
このことに私は、仰天したのです。
一昔前なら
この発言が、たとえば10年前にされていたらどうだったでしょうか?私は、ものすごい麻生さんバッシングが起こっていたと思います。なぜ?
いわゆる「平和憲法問題」です。憲法9条に何が書いてあるか。
第九条
1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
これを理由にして、自民党リベラル、全野党、国民は大騒ぎしたでしょう。ところが、「台湾を守るために戦うのだ!」という麻生発言には、リベラルの人たちも沈黙している。
なぜ麻生発言は批判されなかったのか?
私は、三つほど理由があると思います。
1.「台湾を守るな!」とは言いにくい
台湾は、世界一の「親日国」として知られています。東日本大震災の時にも、大いに助けてくれました。台湾が日本を大好きなので、私たち日本人も台湾が大好きです。
いくら親中政治家、親中メディアでも、「いやいや麻生さん。台湾を守るために中国と戦うなんて、とんでもありません!私たちは、『平和国家』なのだから、台湾は『見捨てるべき』です」とは、さすがに言いにくい。
2.リベラル政治家、リベラルメディアも「ジェノサイド国家」中国を守りにくい
一般的に、「リベラル=人権重視」といわれています。リベラル政治家、リベラルメディアが一番擁護できないのが、今の中国です。なぜ?「香港国家安全維持法」で香港人の自由を、完全に奪った。台湾に対し「武力を使っても統一する」と宣言している。最悪なのは、なんといっても「ウイグル問題」でしょう。
- 中国は、ウイグル人100万人を強制収容している
- 中国は、ウイグル人女性に不妊手術を強要している
- 中国は、事実上の「ウイグル民族絶滅政策」をしている
- それで欧米政府は、「ウイグルでジェノサイドが行われている」と認定している
(ウイグルの状況を知りたい方は、こちらがお勧めです。
● 『ウイグル人に何が起きているのか』福島香織 著/PHP研究所
これを読むと習近平が、ウイグル人を虐殺する「動機」も理解できます)
「人権重視」のリベラルが、ウイグル人をジェノサイドしているといわれる中国を守れるでしょうか?なかなか難しいでしょう。
3.日本国民も中国の脅威を感じている
中国は、1895年から日本領である尖閣について、「中国固有の領土で、核心的利益である」とトンデモ主張しています。しかも、中国は、「日本には、沖縄の領有権はない!」とトンデモ宣言をしています。
● 必読証拠→反日統一共同戦線を呼びかける中国
そして、中国は「海警法」を成立させ、領海侵犯を日々くりかえしている。いくら日本人が「平和ボケ」だといっても、さすがに気がつくでしょう。こっちが「平和主義」でも、むこうから奪いにくることもあると。
というわけで、私は今年、「日本は根本的に変わったな」と思ったのです。
麻生、安倍発言はどうなのか?
最近は、安倍元総理も中国、台湾について、麻生さんとほぼ同じ内容の発言をしています。本質は、「台湾有事の際、日本はアメリカと共に、台湾を守るために戦う」ということ。
これは、どうなのでしょうか?私は、「そうするべきだ」と考えます。なぜ?まず、台湾について。中国が台湾を併合すれば、香港のようになるでしょう。言論の自由、集会の自由、結社の自由はなくなり、「反日教育」が開始されます。10年後、現状世界一の親日国台湾は、中国、韓国並の「反日台湾省」になっているでしょう。中国政府は、台湾に命令します。「日本から尖閣を奪ってこい!」と。こうして、かつて愛しあっていた日本人と台湾人は、戦う羽目になる。
もう一つ、日本自身のことです。もし日本が、台湾防衛のために戦わなければ、日米同盟はどうなるのでしょうか?この件、世界一の戦略家ルトワックさんが新刊『ラストエンペラー習近平』の中で、はっきり書かれています。
(台湾)危機が起きたとき、日本が紛争に巻き込まれたくないという姿勢を見せた瞬間に、日米同盟は終わる。(83p)
おわかりでしょうか?台湾有事の際、日本が「中立を保とう」と考え、ダラダラしていたら、「日米同盟は終わる」のです。
アメリカの気持ちも、わかるでしょう。「軍事同盟」というのは、「戦争時に助け合う」ためにあるのです。戦争が起こったとき、「なんとか米中台と仲良くできないか」などと狡猾なことを考えていたら、「日本は、同盟国としてまったくアテにならない。日米同盟は、アメリカにとって無意味だ!」となるに決まっています。
ちなみに、日本は第一次大戦時、イギリスの陸軍派遣要求を断りつづけました。結果、世界最強の同盟国イギリスは幻滅し、「日英同盟」は破棄されることになったのです。私は自虐史観の持ち主ではありませんが、日本の不誠実さは、高くついたのです。
さて、日米同盟が破棄され、米軍が沖縄から去ればどうなるでしょう。当然、中国は、まず尖閣を奪い、その次に沖縄を奪うでしょう。なんといっても、中国は「日本に沖縄の領有権はない!」と宣言しているのですから。
というわけで今年、日本人は根本的に変わりました。それは、「正しい変化」に違いありません。しかし、「台湾を守るために中国と戦闘する」というのは、「大変なことである」という自覚も必要です。「正しい道」が「平坦な道」とは限らないのです。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2021年12月19日号より一部抜粋)
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