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老齢年金の制度はどうなっている?年金のプロが5つの重要論点を事例で解説

日本には老齢の年金というものが存在します。しかし、年金制度はなかなか理解しにくいことも多く、難しい印象を与えがちですよね。そこで、今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、 老齢年金の制度について復習するかたちで事例を5つ用意し、わかりやすく解説しています。

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老齢の年金基礎事例による重要論点復習5つ

こんばんは!年金アドバイザーのhirokiです。

本日は老齢の年金制度をザっと復習する形の事例を5つ見ていきたいと思います!いつもだと生年月日から入って、年金の月数を計算しながら最後の答えまでという形式ですが、今回は少し単純化しました。

それでは早速事例に入ります。

あ、先に何歳かの判定のやつを貼ります^^

(令和3年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!

絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方。

1.老齢基礎年金の計算

昭和21年8月17日生まれのA男さんは、19歳から55歳まで自営業者として国民年金に加入してきました。同時に付加保険料を納めてきました。55歳から60歳までは未納としました。老齢基礎年金はいくらになるでしょうか。

さて、老齢基礎年金は国民年金強制加入となる20歳から55歳までの35年間を計算の対象とします。

・老齢基礎年金→780,900円÷480ヶ月×420ヶ月=683,287.5円=683,288円(1円未満四捨五入)
・付加年金→200(1ヶ月単価)×420ヶ月=84,000円

老齢の年金総額は老齢基礎年金683,288円+付加年金84,000円=767,288円。

なお、年金総額と前年所得の合計が781,200円(令和3年度額)以下であれば、年金生活者支援給付金が支払われる事があります。

・年金生活者支援給付金→5,030円(基準額)÷480ヶ月×420ヶ月=4,401円(年額52,812円)

年額767,288円ですが、年金を支払う時は偶数月に6回を前2ヶ月分を支払うので、767,288円÷6回=127,881円(1円未満切り捨て)が振り込まれます。

なお、1円未満切り捨てですが、切り捨てられた0.333円×6回=1.9998円≒2円として、2月振り込み時に加算して支払います。よって、2月15日振込に関しては127,883円になります。

給付金も同じ年金振込日に支払いますが、年金とは別枠で振り込みます。

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2.免除期間の計算

昭和40年7月14日生まれのB夫さん。20歳になる昭和60年7月から昭和63年3月までの33ヶ月間は昼間学生。昭和63年4月から平成5年8月までの65ヶ月間は未納。

平成5年9月から平成15年1月までの113ヶ月間は全額免除。平成15年2月から平成20年6月までの65ヶ月間は半額免除。

平成20年7月から60歳前月までの令和7年6月までの204ヶ月間は納付済み。

老齢基礎年金はいくらになるでしょうか。

まず平成3年3月までの昼間学生の時の記録は国民年金には任意加入であり、任意加入しなければカラ期間になります。カラ期間は老齢基礎年金を貰うための受給資格期間10年以上を満たすための期間になりますが、年金額には一切反映しません。

免除期間の内、全額免除は全く保険料を納めていませんが、年金額には反映します。これは基礎年金の3分の1が国庫負担(平成21年4月以降は2分の1に引き上げ)となっているためです。

ただし、一般的な免除は世帯主、配偶者、本人の前年所得を考えた上で免除するかどうかを考えます。本人の所得が免除基準以下でも、世帯主や配偶者の所得が免除基準に該当しないなら免除にはなりません。

また、全額免除にならなくても、平成14年4月からは「半額免除」が導入されました。平成18年7月になると4分の3免除と、4分の1免除も導入されました。

免除に段階を付け始めたのは、昔と比べるとかなり保険料額が高くなってきたため、その人の支払い負担能力に応じた保険料額をできるだけ納めれるようにしたためです。

なお、先ほどの全額免除は一切の保険料を支払わないですが、半額免除の場合は半分の保険料を支払います。令和3年度国民年金保険料は16,610円なので、その半分の8,310円(10円未満は四捨五入)を負担します。

半額負担しており、この事例の期間は国庫負担3分の1の時なので、将来の老齢基礎年金の3分の2に反映します。なぜ半分負担したのに3分の2が基礎年金に反映するかというと、国庫負担3分の1+保険料負担は残り3分の2を2分の1(半額免除)します。すると、国庫負担3分の1+本人3分の1となり、合わせて3分の2となります。

ちなみに半額免除などの一部の保険料を支払わなければならない場合は、その一部を未納にすると単なる未納期間になってしまいます。

免除期間としての期間であれば過去10年以内の免除期間の保険料を追納して老齢基礎年金を増額する事が出来ますが、未納期間は過去2年以内の分しか遡って保険料を納める事は出来ないという違いがあります。

老齢基礎年金額を計算すると、780,900円÷480ヶ月×(113ヶ月÷3+65ヶ月÷3×2+204ヶ月)=780,900円÷480ヶ月×284.999ヶ月(小数点3位まで)=463,658円となる。

年金生活者支援給付金は、5,030円(令和3年度基準額)÷480ヶ月×204ヶ月+10,845円(令和3年度免除基準額)÷480ヶ月×178ヶ月=2,138円+4,022円=6,160円(年額73,920円)。

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3.老齢厚生年金の計算

昭和30年3月15日生まれのC子さん。18歳の翌月である昭和48年4月から50歳になる平成17年3月までの384ヶ月は厚生年金加入した。

なお、平成15年3月までの360ヶ月間の平均標準報酬月額は40万円とし、平成15年4月から平成17年3月までの24ヶ月間の平均標準報酬額は45万円とする(20歳になるのは昭和50年3月からで、ここから平成17年3月までの361ヶ月間は国民年金に同時加入とみなす)。

50歳から60歳前月までの120ヶ月間は国民年金に加入したが未納にする。

いくらの老齢厚生年金になるか。

先に計算すると、40万円×7.125÷1,000×360ヶ月+45万円×5.481÷1,000×24ヶ月=1,085,194円

さらに、65歳になると差額加算→1,628円(令和3年度定額単価)×384ヶ月-780,900円÷480ヶ月×361ヶ月間(昭和36年4月以降の20歳から60歳までの厚年同時加入期間)=625,152円-587,302円=37,850円

老齢基礎年金→780,900円÷480ヶ月×361ヶ月(20歳から60歳までの間の厚年期間)=587,301円

まず、平成15年度で期間を分けているのは平成15年3月までは賞与を年金額に含めず、4月以降は賞与も含むようになったからです。賞与を含む事で今までの平均標準報酬月額が1.3倍に上昇する事になりました。

そうすると、平成15年3月まで加入した人より、平成15年4月以降に加入した人のほうが賞与を含むので年金額が多くなってしまいますよね。それは不公平ですよね。

加入した期間により年金額に差を付けるわけにはいかないので、平成15年3月までの乗率7.125から賞与分1.3倍に上昇した分を下げる事になりました。7.125÷1.3=5.481にすれば、平成15年度前後で年金額に差が付く事が無くなります。

ちなみに、賞与から保険料を取っていたのは平成7年4月からですが、この時は賞与の1%の保険料を取っていました。これは特別保険料といって年金額には反映させずに、年金財源として使っていました。

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次に差額加算ですが、これも老齢厚生年金の一部になり必ず支払われます。この差額加算は何者!?といつも疑問を持たれます。一体何なのでしょうか。

昭和61年4月からはどんな職業の人であれ全ての人が国民年金に加入して、みんな加入期間が同じであればみんな同じ年金である平等の共通年金として老齢基礎年金を受給する事になりました。

20歳以上のサラリーマンや公務員のような厚生年金に加入する人も、60歳までは国民年金に同時に加入しようねと。

老齢基礎年金はそれまでの収入に関係なく、定額の保険料を支払って、支払った期間に比例した年金を受ける年金であります。

なぜ、どんな職業の人であれみんなが共通する年金を作ったのかというと、昭和61年3月までの制度はみんなバラバラで給付にも格差があったからです。特に共済は厚生年金や国民年金よりも遥かに給付が高く、官民格差であるという指摘が強くなっていきました。

そこで、「もう制度を統一して一元化していこうよ!」という動きが昭和50年代から強くなり、まずすべての人が共通して受給する部分である基礎年金を導入しました。個人が受給する基礎的な年金はまずみんな国民年金を受給しよう!という事で統一したわけです。その国民年金からの支給の上で、報酬に比例した年金を支給しましょうと。

話を差額加算に戻しますが、厚生年金は加入比例の年金として「定額部分」という年金が存在しました。今現在の国民年金と性質が同じ年金ですね。

この期間に比例する年金である定額部分が、昭和61年4月以降に年金の受給権が発生する人(大正15年4月2日以降の人)は国民年金として支給される事になったわけです。

ところが、定額部分と国民年金では計算式と、使う期間の範囲が違いました。

定額部分は全期間の厚生年金期間を使いますが、国民年金の計算に使う厚生年金期間は20歳から60歳までの期間と決まっており、どうしても差額が出てしまいます。

差額を計算すると従来の定額部分のほうが金額が高くなり、新しく65歳から支払う事になった老齢基礎年金のほうが金額が少なくなります。

そこで従来の定額部分から老齢基礎年金に移行した時に生じる差額を埋めるための措置として、「当分の間」は差額加算として支払う事になりました。
当分の間ですが、いつまでこの措置をやるのかは未定です。

あと、この例の人は厚生年金しか加入した事が無いですが、20歳からは厚生年金加入していても国民年金に同時加入の扱いになるので、20歳から60歳までの間の厚生年金期間は老齢基礎年金の計算として利用されます。

国民年金に同時加入してますが、別途に国民年金保険料を負担してはいません。

毎月支払う厚生年金保険料から、基礎年金財源としてのお金が流れています。

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4.加給年金の支払いと停止の時期

昭和31年4月10日生まれのD夫さんは過去に35年間の厚生年金期間があり、それ以外の期間は無いものとします。62歳になる平成30年4月の翌月である5月分から報酬比例部分のみの厚生年金を受給しています。

D夫さんには昭和36年11月3日生まれの妻がいます。妻は60歳(令和3年11月)になった後も65歳(令和8年11月)まで働くつもりですが、給料が高くてどうせ年金は貰えないと思うので、年金請求は退職した時にやるつもりです。

妻は過去に25年の厚生年金期間と、国民年金保険料を支払った期間が5年有ります。

D夫さんの加給年金はいつまで加算されるでしょうか。

加給年金は過去に20年以上の厚生年金期間があり、D夫さんが65歳に到達した令和3年4月9日時点で65歳未満の生計維持している配偶者が居た場合に加算されます。

この時点のみで考えるので、他の日は一切考慮しません。

簡単に言うと生計維持というのは前年収入が850万円未満(または前年所得が655.5万円未満)で、住民票が同じというような場合です。

そうすると、令和3年4月にD夫さんが65歳になった翌月の令和3年5月分から加給年金が老齢厚生年金に加算されて支払われ始めます。

さて、妻は自分の厚生年金は62歳になる令和5年11月に受給権が発生しますが、65歳になるのは令和8年11月です。

妻が65歳になるまでD夫さんには加給年金は付くでしょうか。

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妻が62歳になると20年以上の厚生年金期間がある年金を受給する事が出来るようになるので、妻受給権発生の翌月である令和5年12月分からD夫さんの加給年金は停止する事になります。

しかしながら、妻は65歳まで在職するつもりであり、退職してから年金請求すると言っています。

もし、62歳時点で年金請求をしない場合はD夫さんの加給年金は支払われ続けてしまいます。

本当は加給年金を停止しなければならないのに、妻が年金請求をしていないために加給年金が支払われ続けてしまいます。

62歳から65歳までの3年間加給年金が誤って支払われ続けてしまうと過払いとなり、後で返済が必要になります。

加給年金の年額が約40万なので3年間だと、120万円の借金を返す事になります。

年金で生じた借金は、毎回夫に支払われる年金から最大半分を天引きされて返済します。それが嫌なら、納付書による返済も可能。

なので、妻は62歳になったら在職により年金がどうせもらえる貰えないに関わらず速やかに年金請求する事が大切です。

ちなみに妻の年金が62歳以降も本当に在職で年金が全額停止される状況だったなら、過払いは発生しないのでD夫さんの加給年金は妻が65歳になるまで受給して構いません。

なお、令和4年4月からは65歳未満の在職者の停止基準額は28万円から47万円に大幅に緩和するので、全額停止する人はかなり少数派となるでしょう。

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5.在職老齢年金の計算と、年金の退職改定

昭和33年10月7日生まれのC子さんは、年金受給開始となる61歳の令和元年11月分から年間84万円(月額7万円)の厚生年金を受給しています。この金額は61歳の前月までの記録で計算されたものです。

61歳以降も厚生年金に加入して働いており、月給与(標準報酬月額)は24万円とし、賞与は6月と12月にそれぞれ30万円ずつ貰ったとします。

63歳になってからの年度末の令和4年3月31日に退職する予定です。

令和3年12月の在職老齢年金と、退職後の年金はどうなりますか。

まず在職老齢年金の計算ですが、厚生年金月額7万円と標準報酬月額24万円、直近1年間に貰った賞与を12ヶ月で割った額5万円の合計を出します。この24万円と5万円を足した額を総報酬月額相当額といいます。

65歳未満の人は、その合計額が停止基準額28万円(65歳以上の人は停止基準額47万円)を超えると、超えた額の2分の1の額を年金停止とします。

・年金停止額→(総報酬月額相当額29万円+年金月額7万円ー停止基準額28万円)÷2=4万円の年金を停止します。

なので、年金月額7万円ー年金停止額4万円=3万円の年金が支払われます。

ところで、65歳未満の人は停止基準額が28万円であり、65歳以上の人は47万円を超えると年金が停止されますがどうして区別しているのでしょうか。

前者を低所得者在職老齢年金(低在老)といい、低賃金の在職者の生活を保障するために年金を支給する仕組みであり、後者を高所得者在職老齢年金(高在老)といって高所得者の年金を停止する仕組みという事になっています。

65歳前の人は基本的には報酬比例部分のような一部の年金を貰いながら、低賃金で働くという就労期間とされていて、65歳以降は引退して本格的な年金生活に入る期間と想定されていたからです。引退後も結構所得が高いなら、年金を停止しますと。

なお、令和4年4月からは65歳未満の人も基準額が47万円になります。働くと年金が停止されるというのは、高齢者の就労を促進している現代において阻害要因となってしまうという事で、停止基準額が緩和される事になります。

また、停止基準額を超えたらその2分の1を停止するという仕組みになっているのは、基準額を超えたらいきなり全額の年金を停止するという極端な事態を避けるためです。

さて、事例に話を戻しますが、令和4年3月31日になると退職するようです。月末退職の場合はその月(この場合は3月ですね)まで厚生年金期間とします。

退職した場合は退職して1ヶ月経過した日の属する月分から年金が改定(変更)されます。なので、令和4年4月分の年金から改定という事になります。

年金受給開始してからは、令和元年11月から令和4年3月までの29ヶ月間働きました。その間に稼いだ給与や賞与の総額を求めます。

24万円×29ヶ月+賞与30万円×5回=696万+150万=846万

846万円を加入月数29ヶ月で割ると、291,724円の平均標準報酬額になります。

すると、291,724円×5.481÷1,000×29ヶ月=46,369円となります。

よって、令和4年4月からの年金額は84万円+46,369円=886,369円(月額73,864円)に増額します。

※ 追記

60歳以降の継続雇用や再雇用は給与が極端に下がる事が多いです。

そのため、すべての厚生年金期間の給与を平均して支払う厚生年金額が下がってしまうのではないかと不安になる方もいます。しかしながら働いた期間(月数)が増えると、必ず年金額は増額しますのでご安心ください。

それでは今日はこの辺で!

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image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【月額】 ¥770/月(税込) 初月有料 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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