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もう後戻りは不可能。北京五輪の閉幕後さらに激化する「米中対立」の地獄絵図

先日掲載の「卑怯な中国。IOCまで使って台湾に北京五輪開閉会式の参加を強要した黒い思惑」でもお伝えしたとおり、その裏ではおおよそ「平和とスポーツの祭典」らしからぬ駆け引きが行われている北京冬季五輪ですが、今大会が米中間の緊張をさらに高めてしまう要因になりかねないようです。これまでも「習近平も顔面蒼白。トランプ以上に厳しい米バイデンの対中国『強硬』路線」等の記事で米中覇権争奪戦について多方面からの分析を試みてきた、外務省や国連機関とも繋がりを持ち国際政治を熟知するアッズーリ氏は今回、2022年の米中対立の行方を様々な要素を勘案しつつ考察。北京五輪における中国当局が犯しかねない「ルール違反」が、両国関係に影響を与える可能性を危惧しています。

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今年も米中対立は続く さらに激化する恐れも

バイデン政権が発足してからちょうど1年となるが、バイデン政権になっても中国への厳しい姿勢は続いた。バイデン政権の発足当初、一部にはバイデン政権になって米国の対中姿勢が軟化するのではないかとの指摘もあったが、同政権はトランプ政権同様に厳しい姿勢を貫いている。異なるところがあるとすれば、バイデン政権が新疆ウイグルの人権問題を前面に押し出す形で中国に迫り、昨年は人権デューデリジェンスへの意識が世界企業の間で拡がった。その影響で企業の中には輸出入制限や調達先変更など経済活動で大きな制限を受ける動きも多く見られた。

対中国で米国と他の欧米諸国が接近し、米国主導の対中有志連合なるものが表面化したことも大きな特徴だ。たとえば米国と英国、カナダやEUは昨年3月、中国が新疆ウイグル自治区でウイグル族に対するジェノサイドや人道に対する.罪を続けているとして関係当局者らに対する経済制裁を発動した。また、バイデン政権は自由で開かれたインド太平洋を実現すべく日本とオーストラリア、インドとの多国間協力クアッド(QUAD)の動きを加速化させ、英国とオーストラリアとは新たな安全保障協力枠組みオーカス(AUKUS)を創設するなど対中で各国との連携を強化した。さらに、昨年は英国やフランス、ドイツやオランダ、カナダなどの海軍が北東アジア海域にプレゼンスを示し、米軍や自衛隊と合同軍事演習などを実施するなど、欧州のインド太平洋へ関与する姿勢も鮮明になった。

一方、台湾情勢を巡っては、フランスやオーストラリア、リトアニアなど欧米諸国の政治家が相次いで台湾を訪問しては蔡英文政権と関係を緊密化させたことで、中国の不信感が高まっている。それによりいつか台湾有事が発生する恐れがあるとして、台湾有事における邦人保護という議論も国内で活発化するようになった。たとえば、自民党の高市早苗政調会長は12月19日、都内で開催された講演会の席で台湾有事に言及し、どのように邦人の保護や非戦闘員の退避を行うのか、日本と台湾で早く協議しておかないといけないとの見解を示した。また、年明けの7日に行われた日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で米国のブリンケン国務長官は冒頭から中国を名指しで非難し、共同声明では中国による一方的な現状変更政策に対して日米がいまだかつてなく統合された形で対応することが表明された。

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バイデン政権が中国批判を強めざるを得ないウラ事情

今年も基本的には去年の延長となる。米中対立が続き、バイデン政権は独自に中国へ制裁などを強化する一方、同盟国や友好国との連携を強化していくことだろう。米中は地球温暖化では協力できる可能性も示唆しているが、バイデン大統領も習主席も台湾や香港、新疆ウイグルなど核心的な部分では全く歩み寄る姿勢は見せていない。

今後の米中関係の行方の占う上で大きなポイントになるのは北京五輪だ。既に米国と英国、オーストラリアとカナダ、リトアニアなどは閣僚などを開会式・閉会式に派遣しない外交的ボイコットを表明しているが、中国はそれを強く非難している。このような中、具体的に北京五輪に参加する米国や英国など欧米諸国の選手団からは自らへの影響を懸念する声も少なくない。たとえば、中国へ懸念を強めるオランダの地元メディアは1月中旬までに、同国オリンピック委員会が中国国内でのスパイ活動に強い懸念を抱き、北京五輪に参加するオランダ選手たちに自らが所有する携帯電話やノートパソコンを持ち込まないよう助言したという。オランダ選手たちは未使用の携帯などを用意するとも報道されている。外交的ボイコットを高々に宣言している国々の選手団もそれを警戒しているとみられ、今後は北京五輪最中における情報搾取などのスパイ活動を巡って問題が大きくなり、それが北京五輪後の米中対立に影響を与えることが考えられる。

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米中対立は既に後戻りできないところまで来ている。昨年12月、米国のシンクタンク「Ronald Reagan Presidential Foundation and Institute」が公表した世論調査によると、「米国にとって最も脅威となる国はどこか」とのアンケートに対し、ロシアが14パーセント、北朝鮮が12パーセントとなった一方、回答者の52パーセントが中国と回答した。

2018年に実施された同じ調査で中国を脅威と回答した割合が21パーセントだったことから、3年間で大幅に増加したことになる。要は、中国への警戒姿勢が共和党民主党を問わず米国議会のコンセンサスになっているなか、それを支える米国民の間でもそれが浸透してきているのだ。そうなれば、中国に厳しい姿勢を貫くこと自体が支持拡大に繋がることになり、支持率低下が続くバイデン政権はこれまで以上に中国批判を強める可能性がある。今年も予期せぬ出来事で米中対立が一気に高揚するだろうが、まずは北京五輪が試金石となる。

image by: Adam Yee / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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