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ウクライナ危機は序章。中ロ「貧困の平等化」が戦争の引き金を引く

フランスのマクロン大統領が提案した首脳会談の開催について、原則合意したと伝えられるアメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領。しかしウクライナ危機を巡る解決の糸口は、未だ見えない状況にあることは間違いありません。今後この問題はどのような展開を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、「大国間の核戦争にはならない」とした上で、考えうるシナリオを検討。さらに世界が予想以上に早く「戦争の季節」を迎えることとなる理由を記しています。

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世界経済の分岐点

世の中の分岐点に差しかかっている。米国の力が落ち、かつ中露が暴走している。グローバル経済からブロック経済になり、金利上昇や分断経済で、景気も落ちてくることになる。その状況を検討しよう。

ロシアのウクライナ侵攻とは

ロシアは「2015年のミンスク合意」の履行を求めている。東部の親ロ派勢力地域に自治政府を作り、OSCE(欧州安全保障協力機構)がきちんと監視することを決めている。しかし、NATO不拡大は、ロシアとドイツ・フランス間では合意していない。ミンスク協議の出席者はロシア、ドイツ、フランス、ウクライナ、東部代表団であった。

この合意履行支持のために、米国も議会で東部地域の自治政府樹立を支持する議会決議の審議を開始していた。ということで米国も「ミンスク合意」を了解している。

何が問題かというと、ロシアが軍事力を使い、「ミンスク合意」の履行を迫り、ウクライナ侵攻で、その履行を強制的に行うことなのである。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、国民の期待するNATOへの加盟を実現するために、東部の自治政府樹立を認めないために、「ミンスク合意」の履行を、のらりくらりとかわして、東部地域の自治を認めていない。

それだけではなく、親露派の大統領候補を拘束し、彼の経営するテレビ局を閉鎖に追い込んだ。という意味では、ゼレンスキー氏のやり方も専制的ではある。

このため、米国は、ロシアの軍事力による現状変更を認めないが、「ミンスク合意」履行は認める方向であり、議会も支持している。

ドイツ・フランスも「ミンスク合意」の会議に出ていたので、ロシアの立場も分かっているので、履行の方向で調整しようとしている。

このため、ロシアに対して、この2ケ国は、強硬ではない。軍事力を使い履行を迫ることが問題だという立場である。

このような米国・ドイツ・フランスの姿勢に対して、ゼレンスキー大統領は、これらの国に対しても、単独で外交交渉で解決するので、「冷静になれ」と言う。

そして、ゼレンスキー大統領は、「条件が変わった。ウクライナ国民がミンスク合意を認めないから履行できない。誰が署名したのかは知らない」という。国際条約化した合意を反故にしようとしているのだ。

しかし、ウクライナの位置と似ているポーランドでは、ウクライナと軍事同盟を結び、積極的に軍事物資を支援している。英国も反政府のロシア人の避難場所であるので、この軍事同盟に参加し、軍事物資の援助を積極的に行っている。しかし、ドイツは、この軍事物資の輸送で自国内通過を認めなかった。

なぜ、ゼレンスキー大統領は、「ミンクス合意」を履行しないかというと、自治政府には、国際条約の拒否権を持たせるので、NATO加盟ができなくなるからである。

ウクライナの憲法では、NATO加盟を条項に謳っているので、ゼレンスキー大統領としても、それを遂行しないといけないのだ。

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しかも、NATO軍もロシアのウクライナ侵攻で、ウクライナを助けることはない。ロシアに対する経済封鎖を行うしかできない。米軍も東欧に5,000人程度の追加配備しただけである。このため、大国間での核戦争にはならない。

ロシア機甲部隊が、キエフを占領するのは、最短2日程度である。その間で、どれほどの被害がロシア軍に出るのかが問題になるだけだと軍事専門家は言う。

しかし、ロシアの経済規模は日本の3分の1以下、米国の10分の1以下で、世界で12位。G7各国はもちろん、韓国よりも下回る。

ウクライナがキエフを捨てて、頑張り長期戦に持ち込むと、ロシアの経済力では、経済が持たないことになり、停戦に持ち込むしかない。その時は、「ミンスク合意」は反故にできる。そして、ロシア国内情勢も混乱することが確実である。プーチン失脚も考えられる。

このため、ゼレンスキー大統領は強気であり、そして、その裏付けは、ウクライナ国民の期待が大きいからだ。ウクライナ国内での戦争であり、ゲリラ戦になる。第2次大戦後では、初めてのゲリラ戦がヨーロッパで行われることになる。

トルコもウクライナに味方して、義勇部隊で参戦する可能性もある。トルコのエルドアン大統領の希望であるオスマントルコ帝国の復活の道筋が見える可能性も出る。

トルコ系住民が多いクリミア半島分割ということだ。クルミア戦争後で、トルコが再度領土にできる可能性が出る。その意義は、非常に大きい。

米国が積極的に動くのも、ブリンケン国務長官が、ウクライナ系の人であることの影響しているが、世界的な潮流を変えることができることが大きい。

そして、米国は、現時点でキエフを捨てて、西部に大使館を移した。ウクライナでの戦争が泥沼化すると、ゲリラ戦になり、その補給を可能にすることで、ウクライナを支援することになる。

米軍には損害がないので、国内の反戦活動も起きないで、ロシアが疲弊するだけである。その上、いらない兵器や弾薬を援助という理由で、ウクライナに供与できる。在庫一掃だ。

米軍事産業は大きく儲かる。新兵器の実験場もできる。米国の景気浮揚策もできる。2兆ドルのインフラ整備の予算も通らないが、戦争経費は通ることになる。

そして、ロシア衰退で中露の経済力を落としておくことは、今後の中露対欧米日の対決では有利になると見ているはずだ。世界戦略を見た大きな括りで見ている。

しかし、トランプ前大統領は、これはヨーロッパの問題であり、米国は手出ししないという。米国を再度、モンロー主義にしようとしているが、EUは関与してほしいので、米国の今の方針に従うしかない。

ここまで来ると、良いとか悪いとかの議論をしないで、両方の現状をリアルに見る必要がある。この戦争の結果、世界はどうなるのかを見ることである。視野を大きくしてほしい。

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世界の分岐点にある

新自由主義の資本主義では、貧富の差が拡大して、貧困層の反乱で政府が混乱してしまうという反省で、持続可能な政治体制が必要であり、規制された資本主義を作る必要があることが、この30年程度でわかってきた。

一方、社会主義国の中国とロシアも、資本主義を取り入れたが、こちらも貧富の差が大きくなり、再度、社会主義に戻る方向になっている。

特に中国は共産党の指導と経済把握ができなくなり、再度、IT企業の自由な経営に規制をかける方向である。不動産企業の融資も絞り、土地バブルを潰している。

一時は、中国と米国が同じような資本主義になったことで、グローバル経済化が進んだが、先進資本主義国家も社会主義国家も、資本の自由を縛る統制の方向である。

しかし、先進国は、貧富の差を縮小して政治的安定と経済発展のバランスを重視した方向であるのに対して、社会主義国は一党独裁の専制主義を取り戻して、貧富の差を縮小しようとしている。

貧富の差の縮小でもその方法が大きく違い、このため、イデオロギーの違いから、経済関係も縮小方向である。特に、中国とロシアは、自国民の目を経済的な面から自民族のプライドを高める方向で、国民の支持を得る必要から、他国への侵略など、現状の変更を軍事力で行う指向がある。

この部分で先進国は、専制国に対して経済制裁を行うことで、経済が分離する方向にある。冷戦構造の再構築となる。

しかし、冷戦の経済体制では、企業利益は縮小していく。特に先進国市場を失う中国とロシアは、自国企業の利益縮小となり、経済的な豊かさを追及できずに、「共同富裕」という名の貧困の平等化になる。しかし、それでは国民の不満が解消できずに、自民族のプライドを高める自国領土復活という動きを強めることになる。

ロシアと中国だけではなく、トルコやイスラム教原理主義者なども自民族や自宗教のプライドという動きで、当分、戦争の季節を迎えそうである。

景気後退後に、戦争になると見ていたが、その戦争が早くも始まることになるようだ。

一方、米国は、中国からの安い物品がなくなり、インフレ率が上昇して、こちらも国民生活が大変なことになる。金利を上げると、景気を冷やすので、金利も十分には上げられないし、株価も下がり、可処分所得も減ることになる。

米国経済圏で安い物品を求めて、発展途上国でも民主的国家に日本や米国企業の工場を進出させて、安い製品を作らせるしかないことになる。このことで、中国企業を排除して、日米の基幹企業の復活が起きることになる。

その反対に、ブロック経済で経済規模が小さくなり、米国の巨大IT企業の収益は、今後減少すると思われる。また、中国企業も販路が発展途上国だけになり、儲けが小さくなる。

さあ、どうなりますか?

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image by: Seneline / Shutterstock.com

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