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悠仁さま報道に見る宮内庁「言論封殺」と権力に迎合する記者クラブの害悪

現在も過熱気味の報道がなされている、秋篠宮悠仁さまの高校進学を巡る問題。しかしこの件についての宮内庁の対応には大きな問題があると言わざるを得ないようです。今回、同庁の週刊誌報道に対する見解を「名誉棄損」であり「言論封殺」とするのは、立命館大学教授で政治学者の上久保誠人さん。上久保さんはそう判断せざるを得ない理由を述べるとともに、その後の宮内庁の発表を何の論評もなく伝えた大手メディアを厳しく批判。さらに彼ら大手メディアが会員となっている、デメリットしか見当たらない「記者クラブ」の廃止を強く訴えています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

言論封殺と「記者クラブ」廃止論

秋篠宮悠仁親王殿下が、筑波大附属高校に「提携校進学制度」で進学することが発表された。殿下の進学については賛否両論があるが、私は、殿下自身が望まれる学校への進学ならば、結構なことだと思う。

一般受験ではなかったことを問題視する人がいる。だが、皇族が庶民と一緒に受験することのほうが問題だ。また、学習院に進んで「帝王学」を学ぶべきという意見もある。だが、そもそも「帝王学」の定義はなにか、明快に説明してくれる人はいない。

戦後の「象徴天皇」は学者でもある。特に、昭和天皇、上皇陛下は「生物学者」だ。それは、学問、特に生物そのものについての深く、広い見識を持つことも「帝王学」の一部をなしているということではないだろうか。

噂されるように、悠仁親王殿下が最高学府の東京大学に進み、最先端の「生物学」を研究されるならば、それは象徴天皇の帝王学として、最高のものとなるのかもしれない。だから私は、殿下が高校・大学と自分が学びたいことを学ばれるならば、特になにもいうことはないと思う。

一方、この件に関する宮内庁の姿勢については、厳しく批判させてもらいたい。言論の自由に対する圧力ともとれる言動を繰り返したからだ。私は、言論の自由、思想信条の自由、学問の自由だけに殉じる学者だ。皇室について批判をするつもりはないが、言論の自由を侵す動きについては黙っているわけにはいかない。

宮内庁の発表前に、「悠仁親王殿下が提携校進学制度で筑波大附属高校に進学」と報じた週刊誌などのメディアに対し、宮内庁は「受験期を迎えている未成年者の進学のことを、臆測に基づいて毎週のように報道するのは、メディアの姿勢としていかがなものか」とする見解を公表した。だが、結果として週刊誌などの報道は「憶測」ではなく「事実」だった。

週刊誌などは、確かに売り上げを伸ばすために、事実でないことや憶測が記事に混じることはあるが、基本的には地道で綿密な取材活動を行っている。「憶測」で記事を書いているというのは、週刊誌などに対する「誹謗中傷」であり、「名誉棄損」である。宮内庁は、週刊誌などに対して謝罪すべきである。

また、皇室を盾にする形でメディアに対して報道を控えろというのは、権力で自由な言論を抑える「言論封殺」に他ならない。宮内庁は、天皇陛下の誕生日記者会見でのお言葉「人々が自分の意見や考えを自由に表現できる権利は、憲法が保障する基本的人権として、誰もが尊重すべきものですし、人々が自由で多様な意見を述べる社会をつくっていくことは大切なことと思います」を重く受け止め、二度と言論封殺を行うべきではない。

宮内庁とともに問題なのは、「記者クラブ」の会員である新聞・テレビなど大手メディアではないだろうか。筑波大付属高校の入学試験の日、悠仁親王殿下が入試会場に入る姿を大手メディアが報道した。

宮内庁は悠仁親王殿下の進学についての報道を控えろとメディアに言っていたはずだ。だから、メディアが偶然殿下をみつけたというわけではない。宮内庁が、会場に入る殿下の姿を報じるように伝えていたからだと容易に想像できる。

その上、奇妙なことは、大手メディアが最初、殿下が筑波大付属高を受験したように報じ、その後、「提携校進学制度での筑波大付属高進学」という宮内庁の発表を何の論評もなくそのまま伝えたことだ。

宮内庁は、悠仁親王殿下が受験して実力で合格したように見せようとした。だが、世論の反応があまりに悪いので、「提携校進学制度」での入学を公開する方針に切り替えたのだと思われる。そして、大手メディアは、宮内庁の意向に沿って報じていたということだろう。

大手メディアが所属している「記者クラブ」とは、議会、省庁・警察、大企業などに出入りのメディアが設けたクラブである。クラブの会員の記者たちは、相手機関が提供した部屋に常駐して取材することができる。

「記者クラブ」の問題は、NHK、新聞協会会員社、日本民間放送連盟会員社の社員記者しかクラブのメンバーになれない閉鎖性だ。そのため、週刊誌、フリーランスのジャーナリスト、外国メディアなどメンバー外の取材活動が困難となっているのだ。

一方、記者クラブは情報源を相手機関に頼っている。その結果、相手機関に従順になり、利用されてしまうことになる。例えば、安倍晋三政権は、官邸記者クラブを抑えてメディアをコントロールした。官邸に集まるありとあらゆる情報を管理することで、強大な権力を掌握し、憲政史上最長の長期政権を築いたのだ。

重要なことは、この閉鎖的な会員制度は、第二次世界大戦時の国家総動員体制を起源としていることだ。1941年の「総動員法」に基づき「新聞事業令」が制定された。当時848紙あった日刊新聞は、54紙に統合された。全国紙は、朝日、毎日、読売、日経などに統合されるとともに、地方紙は「一県一紙主義」が進められた。

そして、42年に「日本新聞会」が発足した。その会員である新聞社・日本放送協会の社員記者だけが政府機関の「記者クラブ」に所属できるという記者登録制度が誕生した。それが、戦時中に政府と一体化し、「ミッドウェー海戦で連合艦隊大勝利!」というような「大本営発表」を流して、国民の戦争熱を煽ったのだ。

「記者クラブ」という制度が、言論統制を試みる権力側にメディアが従うものとなっているのは、その成り立ちを振り返れば当然なことなのである。「記者クラブ」の問題をより多角的に考察するために、記者クラブのような組織がない、英国の報道機関を事例として提示する。BBC(英国放送協会)は、国民が支払う受信料で成り立つ公共放送という点で、NHKと類似した報道機関である。だが、権力との関係性は、歴史的に見て全く異なっている。

第二次世界大戦時、日本の報道機関が、政府と報道機関は一体化したのと対照的に、英国では、ウィンストン・チャーチル首相(当時)がBBCを接収して完全な国家の宣伝機関にしようとしたが、BBCが激しく抵抗したため、実現できなかった。もちろん、BBCには、反ナチズムの宣伝戦の「先兵」の役割を担う部分があったが、同時に英国や同盟国にとって不利なニュースであっても事実は事実として伝え、放送の客観性を守る姿勢を貫いていた。

戦時中、BBCのラジオ放送は欧州で幅広く聴かれ、高い支持を得ていたが、それは「事実を客観的に伝える」という姿勢が、信頼を得たからであった。そして、その報道姿勢は結果的に、英国を「宣伝戦」での勝利に導くことになったのだ。

現在の英国のメディアはどうだろうか。英紙「ガーディアン」が、米中央情報局(CIA)のエドワード・スノーデン元職員から内部資料の提供をうけ、米国家安全保障局(NSA)と英政府通信本部(GCHQ)による通信傍受の実態を特報した件を取り上げたい。

スノーデン氏からガーディアン紙が入手して報道した情報は、世界中に衝撃を与えるものであった。例えば、「英国政府が、2009年にロンドンで開かれたG20で各国代表の電話内容を盗聴していたこと、メールやパソコンの使用情報も傍受し分析していたこと」である。これは英国でG8=主要国首脳会議が開催される直前に暴露されたため、ディビッド・キャメロン保守党政権は面目丸つぶれとなった。

また、ガーディアン紙は、スノーデン氏から入手した文書から、米国政府が英国の通信傍受機関「GCHQ」に対して、3年間で少なくとも150億円の資金を秘密裏に提供していたことを暴露した。そして、ガーディアン紙は、米国が資金提供によって、英国の情報収集プログラムを利用し、一方で、英国が米国内でスパイ活動を行い、その情報を米国に提供している可能性を指摘した。

これらの報道に対して、キャメロン首相は強硬手段に出た。英国には、日本の特定情報保護法に相当する「公務秘密法」がある。スパイ防止・スパイ活動、防衛、国際関係、犯罪、政府による通信傍受の情報を秘密の対象とし、公務員などによる漏出に罰則の規定がある法律だ。この法律に基づき、ガーディアン紙の報道を止めようとしたのだ。

英政府高官が、ガーディアン紙のアラン・ラスブリッジャー編集長に面会を求め、情報監視活動に関するすべての資料を廃棄するか、引き渡すよう要求した。編集長はこれを拒否したが、GCHQの専門家2人が来て、「楽しんだだろう」「これ以上記事にする必要はない」と言いながら、関連資料を含むハードディスクを次々と破壊したのである。

だが、ガーディアン紙は屈しなかった。ラスブリッシャー編集長は、文書データのコピーが英国外にもあるとし、「我々は辛抱強くスノーデン文書の報道を続けていく。ロンドンでやらないだけだ」と強調した。また、編集長は、英政府の行為を「デジタル時代を理解しない暴挙」と断じた。また、ガーディアン紙が国際的なジャーナリストのネットワークの中で行動しているとし、今後、英政府の管轄外で暴露記事を発表し続けることが可能だと示唆したのである。

このように、英国のメディアは、時に英国政府の考える「国益」に反する報道を行い、政府と激しく対立することも辞さなかった。日本の「記者クラブ」とは、まったく対照的だといえるだろう。

英国のメディアの姿勢は、日本にとっても参考になるものだ。どこの国でも、権力はメディアを押さえつける。権力とは、常にそういうものである。だが、その時、日本のメディアは、権力に屈して萎縮していてはいけない。言論の自由、報道の自由を死守することが、民主主義社会を守ることになるという使命感を持つべきだ。そのためには、権力に従順な「記者クラブ」の存在は百害あって一利なし。廃止すべきだと考える。

image by: KungChuyada / Shutterstock.com

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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