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日韓関係は改善するか。韓国新大統領・尹錫悦氏の気になる親日度

激戦を制し、韓国次期大統領の座を手にした尹錫悦(ユン・ソンヨル)氏。当選翌日にはバイデン大統領と、2日後には岸田文雄首相と電話会談を行うなど、早くも積極的な外交姿勢を見せています。文在寅大統領との間ですっかり冷え切ってしまった日韓関係、そして米中韓関係はどのように変化するのでしょうか。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超える日本人著者が、見えてきつつある尹次期大統領の、対日米中関係再構築における「基本骨子」を詳細に解説しています。

首脳間シャトル外交の復元

尹錫悦(ユン・ソンヨル)次期大統領の外交の基本骨子がだんだん見えてきている。同氏は10日、当選後初の記者会見で「堂々とした外交と堅固な安保に基づき、自由・平和・繁栄に寄与するグローバル中核国家に生まれ変わる」と述べた。ここで基本にあるキーワードは「予測可能性」だ。文在寅政府の北朝鮮「オールイン」外交を批判してきた尹次期大統領は原則を立て直し、予測可能な外交を通じて山積した難題を解決するという立場だ。文政権のときは、金正恩のことばっかり考えていたため、言って見れば他のことはどうでもいいというようなスタンスだったから、突然、慰安婦合意を破棄したり西海上で韓国公務員が北によって射殺されたときにもほとんど無視するような態度で終始するなど、常識的に考えたら予測不能の行動が常に現れたものだった。尹錫悦次期大統領としては、こういった部分を立て直していこうという立場なのだ。

まず韓米関係からみてみよう。尹氏の韓米同盟公約は二つの軸だ。崩れた韓米同盟を「再建」し、軍事安保を超えて経済・新技術まで含めた「包括的戦略同盟」へと強化する考え。安保をはじめとする同盟の核心価値を「質的」に改善し接点を多角化して「量的」拡張まで狙うという構想だ。北朝鮮を中心に同盟を管理するのではなく、このような原則の下で予測可能性を高め相手の信頼を回復するのが基本構想。こうすることで韓米間の対北接近もシンクロ率が高まるはずだ。尹次期大統領は10日の記者会見で「北朝鮮の不法・不合理な行動には原則によって断固として対処するが、南北対話の扉はいつでも開けておく」と述べたが、これはバイデン政権の対北原則論とほぼ一致する。バイデン米大統領は10日、尹次期大統領との電話会談で「北朝鮮の弾道ミサイル挑発は韓国だけでなく米国にとっても脅威であるだけに、韓日米3か国の緊密な調整が重要だ」と述べたと「国民の力」が伝えている。

ユン・ソンヨル政府は米国が主導するグローバル供給網再編や民主主義・人権など普遍的価値守護戦線でも積極的に歩調を合わせるものと予想される。尹次期大統領は先月8日(現地時間)、米外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で「韓米は特定軍事的脅威にだけ対処した過去の形態を越え、包括的経済・安保同盟を通じて今日提起されている多様な脅威に立ち向かわなければならない」と強調した。まず昨年5月の韓米首脳会談で合意された新技術、供給網、サイバー分野などの協力をアップグレードするのに速度を増す見通しだ。クワッド(米国・日本・オーストラリア・インド間安全保障協議体)についても「クワッド傘下のワクチン、気候変動、新技術ワーキンググループに本格参加し、機能的協力をしながら今後正式加入を模索する」と門を開いた。

次は韓日関係だ。尹次期大統領は10日の記者会見で「未来志向的な日韓関係」を約束した。歴史問題の解決努力とともに、未来世代に向けた生産的な協議を続けるという構想だ。昨年6月の大統領選出馬記者会見から「(現政権が)理念偏向的な『竹やりの歌』(=チュクチャンガ=アン・チファンという左派的傾向の強い歌手が80年代に歌ってよく知られるようになった学生運動的民衆歌謡)を歌って韓日関係がここまで悪くなった」と指摘するなど反日感情を国内政治的に利用する行動を警戒した。核心公約は、

  1. 日本は植民地支配を謝罪し韓国は日本の戦後平和努力を評価した1998年の金大中・小渕宣言を継承し
  2. 2011年以降中断されている首脳間シャトル外交の復元

だ。ただ、すでに水面上の対立懸案も多い。慰安婦・強制動員(強制動員ではないのだけれど)被害賠償問題、日本の輸出規制措置、福島汚染水放流(2023年4月ごろ予想)、日本の佐渡鉱山世界文化遺産登録(2023年6月ごろ決定)などだ。『反日種族主義』によると、慰安婦問題も徴用工問題も基本的には日本には責任はない。佐渡の世界文化遺産登録問題も本来は何の問題もないことなのだが、反日バイアスのかかった韓国の一般大衆の認識が大いに問題だ。親日傾向の強い尹錫悦であるけれど、どれだけ韓国民衆を反日バイアスのないニュートラルな地平まで引っ張っていけるかどうか。今は見守るしかない。

韓中関係についてはどうだろうか。尹次期大統領が目標とする韓中関係の基本原則は「相互尊重」だ。同氏は候補時代、韓中経済的協力と安保上の利害関係の違いを分離して扱うという構想を明らかにしている。中国との経済協力を強化することとは別に、北朝鮮核問題と関連して中国の役割に過度な期待をかけるあまり「弱腰外交」を展開してはならないという立場だ。尹次期大統領は高高度ミサイル防御(THAAD・サード)体系の追加配置も公約した。同氏は2017年文在寅政府が明らかにした「3不の立場」(サード追加配置・米国のミサイル防衛体系編入・韓米日軍事同盟をしないの3不)についても「これは約束ではなく前政権の単なる立場にすぎない」と路線修正を予告した。韓国の安保主権に関する決定に中国が干渉する余地を遮断するという趣旨と読める。ただ同氏は、サードを在韓米軍が導入するのではなく、韓国予算で購入して韓国が運用する方式を選び中国が反発する可能性を減らすという立場だ。米中戦略競争が加速化する中、尹次期大統領は外交の中心軸を韓米同盟に置くという意志も明確だ。これと関連しクワッド、ファイブアイズ(米国・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの情報同盟)、オーカス(米国・英国・オーストラリア安保同盟)など米国が主導する小規模多国間安保協議体への参加も韓中関係に影響を及ぼす可能性はある。中国の王毅外相は7日、全国人民代表会議での記者会見で、「米国が小グループを作って中国に圧力をかけ、世界の平和と安定に衝撃を与えている」と批判している。アメリカと同盟を結びながら中国ともバランス外交をしてゆくのは至難の業だが、新大統領に課せられた宿命と割り切るしかないだろう。いかなるハンドリングをしてゆくのか。尹次期大統領に期待するところは大きい。

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年3月13日号)

image by: 尹錫悦 - Home | Facebook

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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