2019年、宝塚市はいわゆる「就職氷河期世代」限定で3人を正規職員として採用する試験を実施すると発表。全国から1816人もの応募があり話題となりました。いまも多くの人が非正規で働き、安定した収入を得られずにいる世代に目を向けたのは、前宝塚市長の中川智子氏。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、中川氏が出馬すると応援に駆けつけていたという評論家の佐高信さんが、中川氏を「めげない行動力の持ち主」と紹介。寺山修司さんに「人を幸せにする不思議な力を持っている」評された中川氏の横顔を伝えています。
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若者の痛みを受けとめた宝塚市長
『読売新聞』と『産経新聞』は行きつけの喫茶店で読む。政権寄りの論調で購読する気はないが、現場の記者が掘り起こす記事には見逃せないものがあるからだ。
3月13日付の『読売』に、「就職氷河期世代」で大学を出てから20年もほとんど非正規雇用で6カ所の職場を渡り歩いた木村直亮が3年前に宝塚市の正規職員となった記事が載っている。
2019年に「氷河期世代」限定採用を思いついて、それを実行したのは当時の、同市市長、中川智子だった。中川は近所のスーパーで長男の同級生の母親と会い、息子が40歳を過ぎても契約社員だと涙ながらに訴えられる。彼らは「非正規」だから声をあげられない。
何とかしたいと思って悶々と考えていて、「そうだ、採用すればいいんだ」とひらめいた。発表すると、大変な反響で、3人の採用枠に、北海道から沖縄まで1,816人の応募が殺到した。合格した1人が木村だった。木村には10年も付き合った恋人がいたが、「先の見えない生活に自信が持てなくて」結婚に踏み切れず、別れていた。
最終面接まで残りながら、2019年には不合格となった原わかさは翌年再挑戦して合格した。原は離婚して2人の息子を育てるシングルマザーである。「氷河期世代って、挫折を味わっているせいか折れない強さがあるんです。私たちの世代に目を向けてくれた宝塚市の温かさに感激して、ぜひ働きたいと思った」と原は語っている。
中川を私は土井(たか子)チルドレンの1人として知って、以来、国政選挙の応援などに行った。中川の『びっくり』(現代書館)を読むと、そのめげない行動力に驚く。
学生時代、大学祭の実行委員になり寺山修司に講演を頼んだ。「一度会ってみて」と言われて、寺山と向き合った中川は、「寺山さん、思想ってなんですか?」と尋ねたという。その答えがとても説得力があり、講演も引き受けてもらえた。
「君とゆっくり話がしたいから、近いうちにもう一度来て下さい」と寺山に言われて、また訪ねた中川は、「君のそばにすわっていると、それだけでポカポカ温かくなるね。心も体も安らげる。あなたは、その存在自体が人を幸せにする不思議な力を持っているから、それを大切にするといいよ」と、いまも中川の“宝物”となっている言葉をもらった。
20歳で船会社に就職した中川は女性差別の甚だしい現実に直面し、組合運動にのめり込んで、女性だけの試用期間の撤廃や賃金格差の是正に取り組む。そして、ミニ幼稚園経営、学校給食改善運動、震災被災者救援活動、乾燥糸コンニャク販売会社の設立などをやった。
そんな中川だから、氷河期の若者の痛みを痛みとして受け止めることができたのだろう。市長になっての選挙前の集会に行ったら、応援弁士は野中広務と私だった。
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