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「安倍やめろ」とヤジを飛ばした男性に“警官が殺到”した忖度ウラ事情

安倍晋三氏への忖度は、日本中ありとあらゆる場所で徹底されていたようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、札幌での安倍氏の街頭演説時に声を上げた男女二人が、すぐさま北海道警察に排除されたウラ事情をリーク。何がこのような道警の過剰警備を生んだかを明らかにするとともに、岸田首相に対してはアベ・スガ時代の政治姿勢との決別を提言しています。

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ヤジ排除は表現の自由の侵害。安倍演説時の過剰警備で道警側が敗訴

安倍晋三元首相は国会の総理席からヤジや不規則発言を飛ばすほど「表現の自由」を謳歌してきた。総理らしからぬふるまいが批判を浴びても、本人は意に介さない。

その割に、他人からヤジを飛びるのは我慢できないタチらしく、かつて東京都議選の応援演説中に湧き起った「安倍やめろ」コールに対し、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と反撃したのは、今も語り草になっている。

それから2年後の2019年7月、参院選の応援で札幌を訪れていた安倍首相は、候補者とともに街頭演説にのぞんでいた。

「G20は本当に最後の最後までもめたが、会議の現場で私は議長の席を麻生(財務相)さんに譲ってトランプ大統領のところにいって直談判をした。そこでトランプさんに『これだったらのめる』という案を出してもらい、メルケル首相やマクロン大統領と交渉して最終的にG20の首脳宣言を発出することができた」

例に違わず、“自慢話”満載のスピーチ。その最中に、事件は起きた。20メートルほど離れた場所で「安倍やめろ」と男性が叫びはじめると、警備に当たっていた北海道警の警察官5、6人が男性を取り囲み、服や体をつかんで、引きずるようにその場から排除した。

その直後、「増税反対」と叫んだ女子大学生にも、大勢の警官が詰め寄り、女性警官二人が両側から腕をつかんで連れ出した。女性警官たちは「ジュース買ってあげるから」「きょうはもうあきらめて」などと、その後1時間半にわたって、つきまとった。

排除された男女二人はそれぞれ、「表現の自由の侵害で精神的苦痛を受けた」などとして、損害賠償を求めて提訴していたが、札幌地裁は3月25日、訴えを認め、北海道に計88万円の支払いを命じた。

二人を排除する様子がつぶさに記録された複数の動画が存在し、それらが決め手になった。二人は「安倍やめろ」「増税反対」などと叫んだだけで、あっという間に大勢の警官に取り押さえられた。動画はYouTubeで確認できるが、誰が見ても警官たちの介入ぶりに違和感を覚えるはずだ。

この光景について、戦前の特高警察のようだと言う人がいる。ウクライナ侵攻に反対するロシアの市民を弾圧するプーチン政権のようだと非難する人もいる。

どうして、道警はこのような挙に出たのだろうか。当初、排除の根拠を問われても答えなかった道警が裁判で主張したのは、警職法4条1項の「生命もしくは身体に危険を及ぼす恐れのある危険な状態にあった」とか、同法5条の「犯罪がまさに行われようとしていた」という状況認識だった。

具体的には、原告らが「安倍やめろ」などと叫んだのに対し他の聴衆から「お前が帰れ」「うるさい」などと怒号が上がり、両者がトラブルになって危険な状態にいたる恐れがあったということらしい。

しかし、判決はその主張を概ね、以下のような分析によって退けた。

「当時の動画を見ると、原告の男性が声を上げてから、警官がその肩や腕をつかむまでの間、「お前が帰れ」「うるさい」などの発言は全く録音されていない。怒号というからには相当程度の声量があったはずなのに、動画に全く録音されていないのは不自然だ。また原告男性と聴衆の間で小競り合いが生じたようにはうかがえない」

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過剰警備であることは、判決を待たなくとも、明白である。総理大臣が演説するにあたって、厳重な警備体制をとっておくのは当然だが、ヤジさえも大勢の警官が寄ってたかって封じようとするのは、尋常ではない。警官たちが咄嗟にそのような行動に出たとは考えられず、まさに組織的、確信的な動きに見えた。

札幌地裁は、「安倍やめろ」「増税反対」といったヤジを「上品さを欠くが、公共的・政治的な表現行為だ」と認めた。むろん「選挙活動をする自由」「聴衆が街頭演説を聴く自由」を侵すほどにエスカレートすることは許されないが、警察側からそのような状況だったという主張は出ていない。

いやしくも民主主義国家において、警察が力ずくで言論・表現を封殺するというのは、あってはならないことだ。

それをあえて行った背景として、当時の警察庁、北海道警の上層部に、安倍首相に忖度して不思議のない面々が揃っていたことを思い起こさざるを得ない。

警察庁というのは特別な組織だ。各都道府県の警察において、一般的な捜査は署長の命令に従うが、公安関係に限っては警察庁警備局の指令で動く。

当時の警察庁警備局長は大石吉彦氏(現・警視総監)だった。2019年に警備局長に就くまで、6年余にわたり安倍首相の秘書官をつとめた人物だ。

警察庁の長官官房長だった中村格氏(現・警察庁長官)は、菅義偉官房長官の秘書官として重用されたあと、警視庁刑事部長をつとめたが、安倍元首相と親しい元TBSワシントン支局長をレイプ容疑で逮捕しようとした所轄署員にストップをかけるなど、政権寄りの処世術が目立っていた。

北海道警本部長だった山岸直人氏は、官邸勤務の経験はないものの、中村氏、大石氏とは警察庁へ同期入庁した間柄である。同期だからといって気脈が通じているとは限らないが、少なくとも連絡をとりやすい仲だったことは確かだろう。

大石警察庁警備局長は同年6月26日付で全国の都道府県警に参院選の警備の方針を通達している。以下は、その一部だ。

「社会に対する不満・不安感を鬱積させた者が、警護対象者や候補者等を標的にした重大な違法事案を引き起こすことも懸念される」「現場の配置員には、固定観念を払拭させ、緊張感を保持させてこの種事案の未然防止を図ること」

「固定観念を払拭」というところに、意図が感じられる。前例にこだわらず、厳しく取り締まれ、ということではないだろうか。中村氏や大石氏にしてみれば、安倍官邸に重用されてきたがゆえの出世街道である。安倍首相が演説時のヤジを極端に嫌っていることは誰よりもよく知っている。

おそらく、安倍批判のヤジを徹底的に封じ込めるという暗黙の了解が、あらかじめ出動警官に共有されていたのではないだろうか。そうでなければ、声を上げた人物をめがけていっせいに大勢の警官が駆け寄るということはないはずだ。

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この件に関し2019年10月に札幌市内で開かれたシンポジウムでは、「年金100年安心プランはどうなった?」というプラカードを掲げようとした60代女性が複数の警官に取り囲まれたと証言するなど、少なくとも9人が警官によって排除されていたことが確認されている。

治安維持法を拡大解釈し政府の気に入らない者を次々と摘発した戦前の特高警察を彷彿させる横暴な取り締まりのあり方に、今回の判決は一定の歯止めをかけた形になった。民主主義国家の司法が良識を示したといえるだろう。

安倍氏は首相在任中、秘密保護法を制定し、共謀罪を拡大する法をつくるなど、戦前に回帰するかのような抑圧的政策を次々と繰り出した。メディアや言論人へに圧力をかけることもしばしばあった。そんな政治的空気が、北海道警の過剰警備を生んだともいえる。

思想の自由や表現の自由など個人の権利を侵さないよう、国家権力を縛るのが、憲法だ。岸田政権は、アベ・スガ時代を貫いた憲法無視の政治姿勢ときっぱり決別しなければならない。

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image by: 安倍晋三 - Home | Facebook

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