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核戦争は不可避か。プーチン「怒りの炎」に油を注いだ独首相の発言

国連事務総長が訪問中のウクライナの首都キーウにミサイルで攻撃を加えるなど、完全に理性を失ったかのようにも感じられるプーチン大統領。しかし彼にとってウクライナ侵攻はまだまだ「序章」に過ぎないようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、旧知の元ロシア国連関係者から直接聞いたという、プーチン大統領自らが作成した「チェックリスト」の恐ろしい内容を紹介。さらに核兵器の使用も含めたロシアの今後の動きを考察するとともに、この紛争の「裏側にあるもの」を見る方法を教示しています。

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ウクライナでは本当は何が起きているのか?

「くに、プーチン大統領は単に自らが作成したチェックリストを順にこなしていっているだけだよ」

これは今週久々に話した友人の言葉です。彼は私がニューヨークにいた際、ロシア政府国連代表部で確か次席大使を務めていました。とてもバランス感覚に優れ、様々な難題を解決する際、いろいろとアドバイスをくれ、そして自ら走り回ってくれました。

数年前に退任し、ロシア政府を離れている彼が、比較的自由な立場で語ってくれました。

「ジョージア(かつてのグルジア)、南オセチア、クリミア、ドンバス地方、そして今回のウクライナのケースも、プーチン大統領が権力の座についた際に彼によって作成されたTo do listに載っていた。彼はそれを着実にこなそうとしているだけで、残念ながらさほど驚かない。もちろん、僕はそんなことに付き合いきれないが、こういったことが根底にある」

「彼にとっては、ウクライナもベラルーシも旧ソ連を形成していた中核で、基本的に同じと見なしている。ここの結束は崩れてはならず、またその中心にはロシアがいなくてはならないという強い思いがある」

「NATOの東方拡大は確かにロシアの国家安全保障にとっては脅威だが、それが理由ではない。どちらかというと、自分もそうなのだが、“結局、ロシアのことは誰も理解できない。嫌っている”という感覚が根底にあり、欧米諸国などとは相いれないし、理解しあえないということを固く信じてしまっている」

「ロシアでメディアや情報への自由なアクセスがないというのは、誰かが作った嘘のイメージ。情報には自由にアクセスできる環境にあるが、根底にあるコンプレックスや警戒心が邪魔をし、それがプーチン大統領への支持につながっているというのも現実」

など、いろいろなポイントを挙げてくれ、まさに目から鱗が落ちる思いをしました。

「それでも、やっぱり戦争を仕掛けていいなんてことはないよね?」と尋ねたら、「もちろん。それは当たり前だよ」と返ってきました。

そのような対話を続けていた際、グティエレス国連事務総長が“調停”のため、ロシアとウクライナを訪問し、両首脳と会談をするというニュースが入ってきました。

このメルマガを書いている時にはすでにモスクワでのプーチン大統領やラブロフ外相との会談は終わり、人道回廊の設置を強く訴えかけていましたが、果たしてどこまで成果が挙げられたのでしょうか?

実際にこの情報も、国連側からの一方的な発表であり、ロシアからのコメントも報道も、今のところ全く存在しません。そう、先日のマリウポリの人道回廊の再開についてのケースと同じです。

恐らくロシア側は、プーチン大統領以下、まだチェックリスト上の目的は達しておらず、国際社会、とくにこれまでロシアを散々こき下ろしてきた勢力の話には聞く耳を持たない心理状況だと思われますので、対話・調停による解決策の模索のドアはまだ開いていないと見ています。

特にグティエレス事務総長はロシアの侵攻から2か月経ってやっと重い腰を上げたということと、これまでロシアに対して非常に辛辣な批判を繰り返し、中立性に疑問符が打たれるような状況だと評価されていることもあり、プーチン大統領やラブロフ外相がまともに指示に従うとは思えません。

それでも、個人的には、きちんとプーチン大統領やラブロフ外相に向き合ったことには敬意を表します。

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ところで、プーチン大統領のチェックリスト上では、“次”は何を狙っているのでしょうか?

先ほどの友人はそれについては“わからない”とだけ答え、教えてくれなかったので、ここからはある程度、得られている情報を基に、推測するしかないのかもしれません。

一つ目は、あってはならないことですが、【ロシアおよびウクライナ周辺地域でのロシア勢力の拡大】です。

私自身、「え、やっぱりそうなの?」とつぶやいたことですが、日本や欧米諸国では「まさか21世紀にこんなことがあり得るのか?」と驚かれたロシアによるウクライナへの武力侵攻ですが、バルト三国を含むロシアの周辺国にとっては、長らく恐れていたことがついに現実化した瞬間だったということです。

ポーランド政府の高官曰く、「こんな日が来るのを2008年のジョージアへのロシアによる侵攻以降、ずっと覚悟してきた。恐らく、次はバルト三国やモルドバだろう。そしてその後がジョージアやポーランドだろう。すでに多くのNATOの軍がポーランド国内にいるが、果たしてロシアがポーランドに攻め入ってきたとき、どれだけの戦いを、ポーランドのためにしてくれるだろうか?その時、NATO憲章第5条が今でも期待通りに機能するのかどうかが見える」と予測しているようです。

背景にあるのは、欧米諸国が尊重する人権や民主的な体制など、それらの国々の中では当然と捉えられているようなことが、ロシアには通用しないという現実で、ロシアにとっては自国の周辺にNATO軍がいることは、ロシアへの許容しがたい威嚇であり、全力で退けなくてはならないと、心底信じているらしいことです。

1991年に旧ソ連が崩壊してからは、ロシアが実質的な後継者となったのですが、そのロシアを率いるプーチン大統領にも、当時、大統領だったエリツィン大統領にも、旧ソ連諸国を独立国家として存在を許す考えはなく、一日も早く再統合すべきという考えがかたく存在するようです。今回のウクライナ侵攻は見事のその考えが行動に移された典型例だと言えます。

今、ロシア軍の攻撃はドンバス地方(東部)から南東部マリウポリ、そして南部オデーサまで続くロシア勢力圏の回廊地域に集中しており、その勢いは隣国モルドバ共和国にまで及んできています。モルドバ共和国における親ロシア勢力が支配する地域までつながるとき、ドンバスからの陸続きの勢力圏が完成し、ウクライナによる海へのアクセスと、海からのNATO勢力によるアクセスを封じることになります。

さて、そこから西への侵攻については、意欲はあってもかなり困難な企てになるでしょうし、それがプーチン大統領のチェックリストに記載されているかは不明です。

恐らくそれはその時点でロシアがウクライナの国土を包囲できているか否か(西側を除いて)によるかと思われます。

ウクライナを欧米諸国との間に存在する緩衝地帯として確保できていれば、その時点で戦闘を停止し、協議・和平交渉の機が熟したとして、初めて話し合いの席に真剣に向かうのではないかと思います。

ただし、それでもあくまでも“ロシアにとっての条件下に限って(only in Russia’s terms)でしょうが。

では、まことしやかに囁かれ、実際プーチン大統領も言及する【戦術核兵器の使用】についてはどうでしょうか?

先に触れた友人も、ポーランド政府の高官も「核の使用がチェックリスト上にあることはないだろうが、今回の欧米諸国の反応は、ロシアおよびプーチン大統領の恐れを掻き立てていることは確かであり、権威主義と、“ロシアは強国であり、大国である”という意識が根付いているプーチン大統領にとっては、ロシアとその同胞を守るという観点から、追い詰められた際には、使用を厭わない可能性が高い」と懸念を示しています。

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実際に最近「核兵器は見せびらかして自慢するためにあるのではなく、絶対的な利益を守るためにあるのであり、ロシアとロシアの同胞に対して危害を加える際には使用を辞さない」と、【電撃的な対抗措置】という表現を用いて、核戦争の危機は深刻かつ現実的なものであることをプーチン大統領は繰り返しています。

そして、実際にいつでも使用可能な状態に置かれているとされており、そろそろプーチン大統領によるブラフという扱いでは語れなくなってきているように思われます。

威嚇というレベルから、いかなる偶発的な衝突でも核が使用される可能性がある危険な状態に陥っているとも言えるでしょう。

問題は、このところ、NATO諸国と日韓などがウクライナへの軍事支援をアップグレードしていることで、次第に破壊力の高い武器をウクライナへ供与するという決定と行動は、確実にプーチン大統領を苛立たせ、かつ刺激する材料として使われる危険性をはらんでいます。

プーチン大統領の恐れと怒りの炎に油を注いだのは、相次ぐバイデン政権からの煽りと、現在来日中のショルツ独首相の「ロシアの企てに対して、NATOは勝利を納めなくてはならない」という発言だと言われています。

バイデン大統領の煽りはもう慣れっこなので驚かなくなりましたが、ショルツ首相によるドイツの安保政策と対ロ距離感の大きな変更による明確な対決姿勢の表明は、もしかしたら欧州各国にとって大きな転機になるかもしれません。

そして、今後、注目しなくてはならないのは、フランス大統領に再選されたマクロン大統領は、これまでのように積極的にウクライナでの紛争の解決に乗り出そうとするかということでしょう。

これまでに行ってきたことも、実際には実現不可能な空約束であったことが、ロシア・ウクライナ双方の情報で分かってきましたが、それでも声を上げ、実際に足を運んで直に話してきた姿勢は評価できると思います。

ただし、大統領に再選され、あと5年の任期を得た今、果たして実を結びそうにない役割をあえて引き受けるかは微妙です。

「いや、マクロン大統領が積極的なのは、EUの議長国だからだろう」という意見もあるかと思いますが、フランス国内の雰囲気を聞いてみると、「ロシアによる侵攻を最後まで防ごうと努力したことは評価できるし、侵攻後も停戦を呼び掛けた姿は立派だが、そろそろフランス国民の生活に対する悪影響が明確になり、堪えがたい状況になってきていることも確か。もうそれに対応することを優先すべきだ」という意見が強くなってきています。

そのような声の高まりを受けて、マクロン大統領はどのような方向転換を行うのか。注意深く見てみたいと思います。

ちょっといろいろと書いてみて、まとまりがなくなってきたので、そろそろ締めにしたいなと思いますが、最後に批判を覚悟で一つ皆さんに尋ねさせてください。

【マリウポリの製鉄所での攻防で取り上げられているアゾフ連隊・大隊は、一体何者なのでしょうか?】

ウクライナ軍の一部としてロシアの侵攻に対抗し、マリウポリの一般市民を守る英雄的な部隊?

ロシアに刃を向け、ウクライナ軍に対しても刃を向ける独自の武装勢力で、マリウポリの一般市民をアゾフスターリ製鉄所に閉じ込め、人間の盾として使うならず者?

それとも…?

その答えは皆さんにお任せしますが、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以前に、すでに2月16日の段階でルハンスク州やドネツク州で砲撃を加えていたのは、何を隠そうアゾフ連隊であり、もし、彼らがウクライナ側なのだとしたら…。

そしてそのアゾフ連隊に武器供与を行っているのがアメリカだったとしたら…(ウクライナへ供与されている各国からの武器がこちらに流されているという情報もあります…)。

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いろいろな像が見えてくるかと思いますが、それでもやはり武力侵攻に踏み切ったプーチン大統領の選択は支持できるものではないことは確かです。

しかし、ちょっと違った観点から見てみたら、この紛争の“裏側”にあるものが、違って見えてくるのではないでしょうか?

皆さんの多くがウクライナ戦争についての情報に触れる際、ほとんどが日本のメディア経由で映し出される欧米メディアによる情報だと思います。そして、それぞれがインターネット経由で拾ってくる情報を選択的に捉えて描かれ、SNSに掲載された内容かもしれません。

明らかにロシア寄りの国々による報道や情報には同じくバイアスがかかっていますが、もしアクセスができるのであれば、ぜひ見てみてください。同じ状況を逆側から見たらどのように描かれるかが垣間見られるはずです。

そして、お勧めしたいのは、インドのニュースが今回の“戦争”をどう伝えているかを観てみることです。インドの報道機関は、特派員をロシア軍とウクライナ軍両方に帯同させて現地(戦場)から情報を伝えているため、比較的バランスの良い情報が入ってきます。

こうやって観てみると、これまで知ることがなかった内容が入ってきて、きっと混乱されることかと思います。

そこで見えてくるものが本当かどうか、そして信じるに値するか、または信じたいか。それは皆さん次第です。

その事実がどのような内容であっても変わらないのは、ウクライナの一般市民の皆さんが直面する地獄のような悲劇であり、どのような理由があったにせよ、武力行使に踏み切ったプーチン大統領の誤った決断です。

今回、プーチン大統領が描いたチェックリスト上のTo do listの実施は、果たして彼とロシアをどこに連れて行くのでしょうか?

その答えが分かった時、まだこの世界が存在することを切に祈ります。

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image by: Evgenii Sribnyi / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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