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動き始めた上海。長期ロックダウンのダメージからの回復策はあるか?

米国の株価の低迷は、ウクライナ情勢に加えて1カ月以上続く上海でのロックダウンの影響も大きく、「ゼロコロナ」政策への批判の一因のようです。それでも上海では徐々に感染者が減り、公共性のある企業の約半数の4400社の営業が許可され、これからは2020年のようなV時回復ができるかが注目されます。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、習近平政権による短期と長期の回復策を解説。長期的には、本気で「技術大国」を目指していて、中小・零細企業やそこで働く技術者育成に力を入れていると伝えています。

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中国のゼロコロナの逆風のなか開花し始めた技術大国への取り組み キーワードは「人口ボーナスから人材ボーナスへ」

アメリカの株式市場が苦しんでいるのは複合的な理由からだが、なかでも大きく作用したのは中国政府が進める「ゼロコロナ政策(動的ゼロコロナ)」だ。

ゼロコロナは生産活動を大きく制限するため、国内経済へのダメージは避けられない。ましてや世界の工場であり輸出の拠点である上海の活動制限ともなれば影響は輸出にとどまらない。世界はこれまで経済成長に30%前後の貢献を続けてきた成長エンジンを一時的に失ったのだから、これにアメリカの市場が敏感に反応するのも当然だ。

いま西側メディアが躍起になって中国のゼロコロナ政策を批判しているのも、そうした理由からなのだろう。だが封鎖のマイナスがメディアで喧伝される一方、中国側にも言い分はある。厳しい制限の結果いち早く日常を取り戻せれば、その後は鋭角なV字回復を見込めるという優位性だ。事実、2020年の中国の経験はそれを示している。ただ見極めなければならないのは、2020年の経験が感染力の強いオミクロン株にも通用するのか否かだ。

直近の数字(5月14日)を見る限り、吉林省で新規感染者がゼロを記録し、全国の新規感染者数も2072人(無症状感染者1796人を含む)と減少している。最も深刻な上海でも新規感染者数(5月13日)が1681人(無症状感染者は1487人)まで下がり、新規感染者が4000人前後だった1週間前までと比べて大きく改善したと考えられる。

このメルマガでも何度も書いてきたが中国のゼロコロナ政策は「感染者ゼロ」を目指すものではない。ある程度の柔軟性も残していて、感染の広がりに合わせて生産再開にも舵を切っている。上海でも徐々に制限を緩め、一定規模以上でかつ公共性のある企業約9000社のうち半数を超える4400社の営業はすでに許可されている。5月の消費電力も明らかに上がり始めた。

さて、その上で考えていかなければならないのが、日常を取り戻した後の中国経済について。いわゆる長期的な視点だ。日本が大好きな「崩壊」予告は論外としても、何かしらのダメージは残るが、それが長期低迷を意味するのか否かである。

2020年の感染爆発を経て、中国は見事にV字回復を果たしたが、それでも完全復活とはならず、個人消費には力強さが不足したままだ。加えて目立つのが不動産関連の投資の落ち込みだ。中国経済を引っ張ってきた不動産開発投資の伸び率──前年同期比でわずか0・7%の増加にとどまった──や住宅販売面積は今年、過去最低水準に落ち込んでいる。不動産不況は習近平政権が進めるバブル退治の影響も大きいのだが、市況が悪いことに変わりはない。

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いずれにせよオミクロン株の拡大下で中国経済は、短期的には感染対策で落ち込んだ消費や観光、交通などのダメージを、輸出やインフラ投資で補おうとしている。

今年の第1四半期、コロナ対策でインフラ投資が大きく伸びたのは典型的だ。だがインフラ投資の拡大は財政健全化を犠牲にするという問題がつきまとう。長期的な視点から否定的な見方も多い。当然、日常を取り戻した後には修正を迫られる政策だ。

ただ、個人消費は中国が日常を取り戻せばある程度の回復は見込まれる。中国は西側先進国のような経済成長モデルを考えていて、第三次産業の育成に力を入れているからだ。また個人消費を盛り上げるために労働者の賃金を増やす政策も進めていて第1四半期の可処分所得も対前年比で6・3%増と成長率(4・8%)に比べて高いことが分かる。

注目すべきはポストコロナの着地点として習近平政権がかなり本気で「技術大国」化を進めようとしていることだ。

経済が振るわないときの中国メディアの特徴は、悪い数字には触れず、良い数字だけを選んで「好調だ」と報じることだ。先週も触れたが第1四半期、ハイテク産業への投資が対前年比32・7%と大幅に伸び、なかでも航空宇宙分野は22・4%、電子通信設備は15・7%、新エネルギー車は140・8%だったと書いた。

コロナ禍の逆風下でも高付加価値、ハイテク、デジタル分野は堅調に伸びていることが見て取れるのだが、この裏には18大(中国共産党第18回全国代表大会)以後、習政権が進めてきた政策がある。なかでも最近とくに目立つのが2つの傾向だ。1つは、国が明らかに中小・零細企業の育成に力を入れ始めたこと。もう1つがそうした企業で働く現場の技術者の育成である。

デシタル経済やハイテク化などときけば少なくとも大学院を卒業したエンジニアやそうした人材の受け皿である国有大企業をイメージしがちだ。しかし、習政権が注目するのは大企業からの注文に応えて部品を供給する中小・零細企業であり、そこで働く匠だ。大企業においてもより現場に近い技術者だ。(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年5月15日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Graeme Kennedy/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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