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飛ばなかった「終末の日の飛行機」。今ロシア軍に何が起きているのか?

ウクライナへの軍事侵攻からまもなく3カ月、マリウポリ完全掌握の可能性が伝えられてはいるものの、他地域での戦闘ではウクライナの反撃に劣勢となりつつあるロシア。紛争の長期化を予想する識者も少なくありませんが、ロシアにその力は残されているのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』では著者でジャーナリストの内田誠さんが、さまざまな情報を総合し現時点における戦況を分析・考察。その上で、「紛争長期化」との専門家の見立に疑問を示しています。

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なぜロシアは「終末の日の飛行機」を飛ばさなかったのか?:「デモくらジオ」(5月13日)から

ロシアの対独戦勝記念日の5月9日。軍事パレードがあり、プーチン大統領の演説があり、それについては色々な話がなされました。今、それを繰り返すつもりもないのですが、プーチンさんの話は基本的には国内向けであって、大統領選挙で勝つためにすべてやっているのだなということがバレバレの内容だったと思います。核の話が出てこない、ウクライナ侵攻についてウクライナの「ウ」の字も言わず、「戦争」宣言もしませんでした。まあ全体に低調な演説だという印象もありましたが、ウクライナに攻め込んだことについては正しい選択だったのだ、唯一の避けられない選択だったのだと言いたいようでした。まあ、いい気なものだなという感じがするんですけれど。

一番注目していたのは、イリューシン80が飛ぶと思っていたのが、天候が悪かったということで空軍の参加がなかった。で、イリューシン80、例の「終末の日の飛行機」という。核戦争が始まったときにプーチンさんが飛行機の上から枢要な指示を出す、そのための「兵器」ですが、それが飛ぶと言われていたのが飛ばなかった。戦闘機も飛ばなかった。何にも飛ばなかった。ゼットの文字を8機の戦闘機で描きながら飛んでいく、あるいは赤青白のロシア国旗の色の煙を吐きながら戦闘機が横一列になって飛んでいく。風がちょっと強いと国旗の模様を描いた煙が流れてしまうのは縁起でもないということで止めたのかどうか。結局、飛ばなかった。まあ、これはおそらくは「残念」なことだったのでしょうが、天気には勝てないということだったのでしょう。ただ、なんとなくチンマリした感じの中、上空には飛行機が飛ばない、参加人数も少なめ、戦車に関しても戦車隊はちゃんと出てこなかった。今、T14アルマータが一番新しい戦車ですが、これはそもそも台数が作れていないので出しようがない。T90の改良型が最新鋭最強の戦車だったはずですが、その登場もなかったようで。全体に低調な感じ。それについては、戦況の影響があったのではないかと思います。

ウクライナの首都キーウ包囲戦で失敗し、大量の戦車を失い、残った軍団を編成し直して東部の戦線に投入する。そこにおそらく10万人近い兵隊を投入しているのですか、全然うまくいっていないようですね。色んな理由があるのでしょうが、結果としてウクライナ軍が2014年からずっと戦争をしている地域の隣になるわけですが、ウクライナ軍が強固な陣地を築いていたりするので、全然突破も出来ない。軍事の専門家の言い方ですと、進撃が遅れているなんて言いますけれど、進撃がそもそも出来ていない。そういうかたちになっています。

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あまりにもうまくいかないので、これはおそらくプーチンさんからの直接の命令だったのではないかと言われていますが、ゲラシモフさんという参謀総長がなんと最前線を視察する。これはまた色んな情報が錯綜していますが、ゲラシモフさんが来たことをおそらくアメリカの衛星か何かで捕まえたのだと思いますが、ウクライナ軍に情報が行って、ウクライナ軍がその施設にロケット砲の攻撃をかけた。これ、ゲラシモフさんは直前に脱出していたという話と、実は被弾してけがをしたという話の二つがあり、どちらが正しいのか分かりませんけど、その後ゲラシモフさんは(公の場所に)登場していないのですよ。どうなったのか、分からない。なんで、そんな人が、お忍びで来たはずなのに、分かってしまったのか、情報がダダ漏れになっていたということ以外考えられない。そういうこともありました。

それから、例の4月14日でしたからちょうど1ヶ月たちましたが、黒海艦隊の旗艦モスクワ、一番大きい船、16発もミサイルを積んだものすごい船なのですが、これがウクライナ軍のミサイル2発で沈められた。あれによって、南部の制空権を失ったのではないかと思うんですよ。これは結構大きな話で、目論見としては東部2州から南下していってマリウポリを押さえ、オデッサに向かう道も押さえ、さらにモルドバの東側、ロシアの傀儡地域というか、そこまで全部つなげるというか。それによっておそらくオデッサを押さえたいということなのだと思いますが、そのような目論見があったはずなのですが、モスクワは沈められてしまったので上陸戦は難しい。そもそも揚陸艦も沈められていますからね。そのような目論見は潰えた格好。で、あとズミイヌイ島という小さな島を巡って激しい戦闘が行われていて、どちらがとるか分からない状況のようですね。つまりロシア軍が制空権を押さえていたらあり得ないこと、ウクライナ空軍も活発に動いているということですからね。

それからどうも、ロシア軍の補給が枯渇しているのではないかという話が出てきました。戦車、ミサイル、誘導弾みたいなものが枯渇して、届かなくなっている。どこかのウクライナの市長さんだかが仰っていたのは、ロシア兵のなかに、軍靴でなくて普通の靴を履いている兵隊がいたと。こんな話があるくらいで、モノが届かなくなっているらしい。で、今一番激しく戦われているところは、ロシア軍の補給路のすぐ脇なんですよね。そこをウクライナ軍がとるとロシア軍の補給を断つことになる。さらに、ロシア軍の補給はハリコフのすぐ北、ロシア領のベルゴロドという町があるのですが、そこに集積してそこから送られてきている。そのロシア領ベルゴロドをドイツやオランダから供与されたパンツァーハウヴィッツェ2000という自走砲ですね、これで砲撃している。この兵器は榴弾砲なのですが自走できるタイプの、しかもとんでもなく高性能の兵器。これはものすごくて、40キロ、あるいは射程を延長できる砲弾を使うと50キロ以上弾を飛ばすことも出来る。どうも、国境線のところからこの自走砲でベルゴロドに向かって大砲を撃ち込むということまで始まっている。これやられたらロシア軍は本当に困るのではないかと思いますけれど、既に始まっているようですね。

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NATOからの武器の供与は次々と行われていく。ロシアの方の補給は途絶えがちになっていく。そもそも(ロシアでは兵器の)生産の方がだんだん苦しくなっていく。経済制裁を色々な形で受けていますから、特に半導体とか世界的に枯渇しているモノがなくなる。となると、中国の助けでもなければおそらくロシアは兵器生産がそもそも出来なくなっていくのではないかと思います。特に高性能の兵器は難しい。その状態を考えると、今、皆、この戦争は長期化すると言っているではないですか。理由の一つはプーチンさんが野望を捨てていないということ。ロシア軍の兵力はまだまだたくさんあって順次投入されるということはありうる…ということだと思うのですが。

同時にウクライナ側から言うと、ウクライナ側から降参するというのはあり得なくて、それはロシア軍がウクライナの領内から完全に撤退するまで戦争は続く、だから長期化だ、1年だ、いやもっとだと、そういう言い方をするじゃないですか。ただ、そのロシア軍の今の状況とか、どこで戦っても勝てない。勝ったところでは酷いことが行われるわけですが。ウクライナの方は西側の圧倒的な援助を受けている。特にアメリカが前のめりになっていて、つい数時間前ではないかと思いますが、バイデンさんが署名した新しい法律では、兵器を政府が調達してそれを援助するのではなくて、最初からウクライナに送る兵器を作ることが可能になったようですね。ということは、アメリカはもはやウクライナの武器庫になるわけですよ。

かたや、ダメになっていくロシア、かたや、どんどん強化されていくウクライナ側。この二つの間で行われている戦争が本当に長期化するのか。少々疑問を抱いています。長期化するにしても、どこかで本当にものすごいことが起こるというか、とりあえず、今いるロシア兵が本当に叩き出されるのではないかなというふうに思うんですけれど。そう時間は掛からないような気がする。しかし、そうなるとどこかで戦術核を使うのではないかというトチ狂った状況ですよね。だって、それをやったら自分のところも戦術核かそれ以外の核か、何か核攻撃を食らう訳でしょ。だから核攻撃はできないというのが抑止の理屈ですよね。やっちゃったら終わりなので、それはどんな終わり方になるのか…いい加減にしてほしいと、そんなふうに思っています。

(『uttiiジャーナル』2022年5月15日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください、初月無料です)

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image by: Dmytro Larin / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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