ウクライナ停戦を200億ドルの武器援助で妨害する「死の商人」バイデンの姑息

 

交錯するそれぞれの思惑

ロシアの「特別な軍事作戦」の中心的な戦略目的は2つで、第1に、ウクライナから独立し今年2月にロシアへの編入を果たしたドネツク、ルガンスク両共和国の確保であり、第2に、2014年に併合したクリミア共和国およびその突端にあるセバストポリ特別市を奪還するためにウクライナがNATOに加盟しようとすることを阻止することである。

クリミアとセバストポリの併合については半ば既成事実化することに成功しているが、ウクライナがNATOに加盟し米国が同国の防衛政策を自在に操ることになれば、セバストポリはロシア黒海艦隊ではなくNATO海軍の基地となり、黒海・地中海のみならずロシアをめぐる地勢均衡を激変させることになろう。

クリミアの場合のように、鮮やかな短期決戦でドネツク、ルガンスクの確保に成功すればよかったのに、今回は、本誌前号でも分析したように、事前の外交・情報戦でも本番の軍事侵攻作戦でも余りにお粗末な誤算や見落としや行き過ぎを繰り返して失敗した。従って明らかな劣勢に立って事を収めなければならず、それがどうしたら可能なのか恐らくプーチンも計算が立たない深刻な状況ではないか。

【関連】プーチン大誤算。ウクライナ侵攻を想定外の泥沼化に陥らせた「3つの事実」

ゼレンスキーは「引き分け」演出か?

さて、ゼレンスキー大統領は21日、地元メディアのインタビューに答えて「ロシア軍を2月24日の侵攻開始前の状態まで撤退させられれば勝利だ」との認識を示した(読売電子版21日付など)。彼は「戦争は対話で終わる」「最も重要なのは、より多くの人命を守ることにある」南部クリミアや東部の親露派武装集団が実効支配している地域の地位についても交渉で解決したい」などと、泥沼戦争を打ち切って交渉に切り替えたい考えを述べた。

とはいえ、ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は米紙のインタビューに応じ、「東部の被占領地を今後数カ月かけて奪還し、南部クリミアも含め全ての領土からロシア軍を撤退させるまで戦い続ける」と語り、そのために米欧が中長距離のミサイルシステムや戦闘機など最新兵器を含め軍事支援を強化するよう期待を表明した。

軍部としては、あくまで軍事力でロシア軍を追い返して東部を奪還したいと思うのは当然で、それを交渉を前提に政治力で成し遂げようとするゼレンスキーの企図とはぶつかることになる。

ゼレンスキーがそれだけの政治力・外交力を持ち合わせているかどうかは疑問であるけれども、彼は終始一貫、ウクライナのNATO加盟については断念し、他の方法による同国の安全確保を考えるのにやぶさかではないとの考えを表明してきており、そこを起点にしてロシアおよびフランス・ドイツ・トルコなどの仲介者との対話が始まる可能性はわずかながら残されている。

高野孟さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • ウクライナ停戦を200億ドルの武器援助で妨害する「死の商人」バイデンの姑息
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け