時として目を背けたくなるような映像とともに、刻一刻と伝えられるウクライナ紛争の戦況。そんな中、今後の展開を大きく変えうるニュースが世界を駆け巡りました。今回その出来事を取り上げているのは、ジャーナリストの内田誠さん。内田さんは自身メルマガ『uttiiジャーナル』で、ロシア国債がデフォルト認定されたという衝撃的な事実を紹介するとともに、それが意味することを解説した上で、この先ロシアを襲うと思われる、彼らにとって好ましからざる未来を予測しています。
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大変な勢いで変化しているウクライナの状況:「デモくらジオ」(6月3日)から
雷どころではなく、ウクライナの状況が大変な勢いで変化をしているようですね。今日あたりから少し伝えられ方が変わってきているように思うのですが、きょうの午前中くらいまで伝えられていたことは何だったかというと、ほとんど、東部、ウクライナ東部の激戦地の様子で、特にロシア軍が激しい攻勢に出ていて、ウクライナ軍はかなり追い詰められている状況。で、どうもお互いの精鋭がぶつかっているようでして、ウクライナ軍はうまく撤退しないと部隊が壊滅させられてしまうという、大変厳しい状況に立ち至っているという報道でした。
これは、キーウ方面の、首都を陥れることに失敗したロシア軍が再編成をして、東部2州の掌握を目指してフル稼働してきている状況なわけですね。当然ですけど、そこにはウクライナ軍のかなり鞏固(きょうこ)な陣地が築かれていて、そう簡単に落ちるわけはないという状況だったのですが、ロシア軍はなんとしても落とさなければいけないということだったのでしょう、相当ヤバい兵器を使っていますね。核は使っていないですけれど、おそらくこの件に関心のある方はテレビなどでも繰り返し報道されていましたので、ちょっと遠目のドローンから撮った映像で、5、6発の爆弾が衝撃波を放ちながら爆発している様子、ご覧になったのではないかと思います。
ちょっと前に、レバノンのベイルートで、硝酸系の薬品か何かが大量に積まれているところが一気に爆発したときの…そのおかげでレバノンは今大変なことになっているわけですが…映像をご記憶かと思うのですが、衝撃波が出ますよね。ぶわーっと、空気が歪むというか。その状況を見て、これは普通の爆弾ではないと。どーんと音がして火が出る、煙がもわもわっと上がるというふうな爆弾ではなくて、もっと激しい爆発。おそらく気化爆弾という奴だと思うんですね。これ。
いわゆる核保有国からすると、なんとか使える核を作れないか、小さな核、限定的な核、戦術核、そういうものの開発を進める方法と同時に、核ではないけれども、さながら核兵器のような大きな効果を生む巨大な爆弾。こういう方向の開発もあるわけですね。
で、これ、何度か申し上げたことかもしれませんが、湾岸戦争で、イラクのフセイン大統領が「この戦争はすべての戦争の母である」と。つまりここからアラブ対西側世界の激しい戦いが始まるのだという予告のようなこと、そういう発言をした。それをからかうように(アメリカが)「すべての戦争の母」ではなくて、「すべての爆弾の母」と名付けた兵器があったんですね。当時は使われることはありませんでした。馬鹿でかい爆弾で、これが1発爆発すると、半径500メートルくらいの範囲内で、いや、もっと1キロくらいじゃないかと思いますが、非常に広い範囲で酸欠が起きて、中にいる生きとし生けるものが命を奪われるというような大変な爆弾な訳ですね。後に、アフガニスタンで米軍が何度か使ったようです。地下壕を掘って迷路のようになったタリバンの陣地を攻撃するのに使ったようですが、その効果がどうだったかという話はとんと聞かないので分かりませんが、今回、それに近いものをロシアが使ったのではないかと思います。それが大変な衝撃波を生じていく。これで陣地を守っているウクライナ兵を殺害するということが目的だったのではないか。
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そのあと、もう一つあるんですね。テルミット焼夷弾という、私は全然知りませんでしたが、色々な方の発言の中でそんなものがあるということに改めて驚いたのですが、大変高温で燃える燃焼材を上からばらまく。一時期白燐弾と言われていたものですね、あれは白燐弾ではなくて焼夷弾。太平洋戦争中に東京大空襲とか、どこの空襲でもそうでしたが、あのときに使われた焼夷弾はケロシンでしたかね、あれも燃焼物質を使ったわけですが、あんなものではない。(今回のものは)2,000度から3,000度の温度で燃えるということなので、コンクリートも突き破る、人間の身体に触れると、エグい言い方ですけれど、骨まで溶かしてしまうという滅茶苦茶えげつない兵器です。まさに人を含めて何もかも燃やし尽くすための兵器。これを同時に使って、この二つの兵器を使うことによって陣地を突破し、比較的有利な立場をロシア軍が築いたという、そういう報道ですね。これ、ほとんど核兵器を使ったのに等しい状況だと思いますが、とにかくそんなことになっている。
非人道兵器を使ってウクライナ軍の陣地を一部突破した…。で、その状況にウクライナ軍は耐えつつ、撤退戦も始まっているということ。で、ルガンスクとドネツクに関しては、かなりの面積をロシア軍が支配するに至っているということは、ゼレンスキー大統領も認めていて、ウクライナ国土の20%をロシアが支配しているということを言っている。だから米国はもっと有効な兵器を寄越せということも言っているわけですが。
で、その後の状況に関しては、ロシア軍はどんどん兵員が足りなくなってくる、おそらく誘導兵器などもあまり作れなくなっていくのではないか、というような想像がある。制裁なども影響して、兵器を作れなくなっている、最新鋭の戦車などはもう作れないのではないかと言われている。それに対してウクライナ側は最新兵器、とくに長射程の、長い距離を飛ばす連装ロケットですかね、これはもともと相手の後ろ側をやっつけるというか、榴弾砲とか兵站のようなところを直接、長距離のロケットで壊滅させるというようなことが目的で使うようですが。これ、射程がかなり長くとれるようなもので、それが欲しいと言ったところ、アメリカは最初、ロシア領内を直接攻撃できるような兵器は与えないのだとバイデンさんが言った。でもそれに対して批判が巻き起こったら、すぐ撤回して多連装ミサイルというか、それを供与することになりました(* ただし長射程のロケット弾は供与しない)。
この辺もちょっと面白いところですけれど、アメリカも確たる方針があって、それに則って粛々とやっているというよりは、批判を受けつつ動揺しながらやっているという姿に見えます。ただこれによってロシア軍とウクライナ軍との力の差というのは、東部での戦いがどんな結末を迎えるかにもよるのでしょうが、いずれはウクライナ軍が優勢になり、ロシア軍は撃つ弾もなくなっていくだろうという感じですね、極端な言い方をすれば。ただそれまでにどれだけ犠牲が広がるのだろうということも当然ありますが。
で、南部の方では一部でウクライナ軍が反転攻勢に出ているとか、色々な情報がありますが、ウクライナ軍は先ほどいった兵器の中で、榴弾砲のような重火器がだんだん仕事をし始めていて、色々なところで反転攻勢が始まってくるだろうということですね。ただ、これは戦況の話ですから時間が掛かるのだろうと思うのですが、そんな中、大ニュースが飛び込んできました。
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そういう機関があるということを知らなかったのですが、クレジットデリバティブ決定委員会という、つまり世界の金融市場をコントロールする協議体のようなものがあり、そこが、ロシアの国債を当初はデフォルトが回避されたと言っていたのですが、4月4日償還分で、結局、回避できていなかったという結論になり、つまりデフォルトになってしまったのです。これ、ドル建てだそうですので、もうロシアは国外で債券を募集することが出来なくなる。まあ、資金集めが超やりにくくなるということですかね。それでもいいよと言ってくれるところがあるかも分かりませんが。こうなると戦費調達もままならない状況になると思われますし、これはアナウンス効果も絶大ですよね。ロシア国債(ドル建て)デフォルトということになれば、世界中からロシアはもうダメねというふうに見られるはずです。特に中国がこれによって方向を変えざるを得ないのではないかと思うのですが、それは推測に過ぎませんからもちろん分かりません。
どちらにしても、この状況になったらロシア兵、大変な数のロシア兵が今もウクライナ国内で攻撃を続けているわけですけれども、この人たちはやがて取り残されて、それこそ大きな意味での撤退戦を始めなければ、どれだけ犠牲者が出るか分からない状況だと思うのですね。ロシア兵、ウクライナ国内にいるロシア兵が皆殺しになることを望みたいなどとは思いませんので、早く引き上げて、もうこんな戦争を起こさない政府を早くロシアに作ってほしいと思うのですが。そういう状態にこれからなっていくのではないかなと思います。最近の言い方でいうと、戦争の終え方をどうしたら良いのかという話が色々なされていますけれども、相変わらずプーチンさんの人気、ロシア国内での人気は高いわけですし、とはいえ、地方議会の議員さんだとか、あるいは外交官とか(が反旗を翻し始めている)。
プーチンさんの親衛隊の中からも除隊願いが大量に出て、つまり自分たちはもう戦争に行きませんよという意思表示ですね。そういうことをする人たちも増えている。ロシア国内ではまだまだプーチンさんの絶対的な人気が高いのだけれど、少しずつ(戦争の)状況が分かってきて、おそらく最も悲惨な話は自分の家族や親戚やら友人やらがウクライナに行かされて戦死しているという、そのことさえよく分からずに行方不明になっているとかね。そういう人たち(の遺族や家族)が声を上げ始めていて、何かが変わる可能性もあるかもしれない。
ただ、どうでしょう、太平洋戦争の時の日本国内で、東条内閣に対する反政府運動が高まったということはなかったわけですしね。原爆が落とされたのは別に戦争終結を早めるためではなかったのでしょうが、日本中が空襲に遭ってグウの音も出ない状況になって初めて、天皇が戦争の終結を宣言するような形で日本政府はポツダム宣言を受諾するということになったわけでしょう。決して日本国内で政府に反対する動きがうんと強くなったということはなかったわけですよね。みんな現人神を信じていたかどうかは分からないけれど、戦争に必ずしも反対などしていなかった。そのことを考えると、ロシアも当時の日本とは違うかもしれないですが、非常に悲惨な状態に陥る、例えば物価がどんどん上がって市民社会がパニックを起こすような…。そんな状態に落ち込んで初めて戦争が終わるのかもしれない。何かプーチンさんが考えを改めるとか、それ以外の人が政権について戦争に対して全く違った態度をとるようになるとか。ということを期待していいのか…、いや、期待できないのではないかなという気がしておりますね。
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だからいわゆる西側諸国でも、ロシアにどう対応するかについては、ややあまり追い詰めてはいけないといっているマクロンさんのような立場から、いや、甘い顔を見せてはいけないのだというところまで、様々なようですね。テレビなんかではそれをナチスに対する態度の問題。第一次大戦でドイツに過剰な賠償を負わせてしまったためにナチスが台頭したのだという見方から、あるはいナチスがチェコの一部を占領したときにそれに対して断固たる措置を執らなかった、甘やかしたのであんなことになったのだという見方まで、温度差があるようです。なかなか一致して対応することが難しくなっているのかもしれません。
どちらにしても、そうしたことを含めて、これからの状況を決めていく最大の要素は、悲しいかな戦況ということですよね。実力同士のぶつかり合いの世界のなかで、もちろん色々なものを反映して武器が変わってきたり、兵力の損耗のあり方が変わってきたり、様々変化の要素がある中で、結果として軍事的にウクライナ側がロシアを抑えることが出来るのか、その逆になるのか、この辺が一番大きな要素になっているということだと思います。なかなか、今後100年くらいの世界のあり方を決める滅茶苦茶大きな話だと思いますので、それについての勉強の仕方、議論の仕方を含めて、細かく見ていくべきことではないのかと思っています。
(『uttiiジャーナル』2022年6月5日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください、初月無料です)
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image by: Asatur Yesayants / Shutterstock.com