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プーチンに握られた「不都合な真実」。米バイデンの対ロ姿勢が軟化したウラ側

6月24日で開戦から4ヶ月を迎えるウクライナ紛争ですが、さまざまな歪みや不都合が隠しきれないレベルにまで達しつつあるようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、西側諸国からウクライナに供与された兵器を巡る「真実」や、独仏伊の首脳が揃ってキーウにゼレンスキー大統領を訪ねた狙い、さらにバイデン政権が対ロ姿勢を変化させた理由を、国際交渉人として独自に収集した情報を元に考察・解説。その上で、世界の人々はこの先、日常生活に戦争起因の負担を抱え続けながら、どこまでウクライナに寄り添う姿勢を取ることができるのかという疑問を投げかけています。

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伝えられないウクライナ戦争“本当の”戦況

「今こそ軍事産業に大きく投資したほうがいい。今回の勝敗に関係なく、膨大な富を得ることが出来ます」

6月に入ってこのような声を多く聞くようになりました。私のところにも、どこから調べたのか、このような“お誘い”が直にやってきます。

「ほんまかいな」と思いつつも、「しかし、どのような理由でこんなことを言ってくるのかな」と関心を抱き、「どうしてそんなに確信を持つのか?」と尋ねてみました。

そうすると皆そろって「ニュースで伝えられている欧米諸国によるウクライナへの武器供与の量のうち、実際にウクライナに届いているのはその10%ほどに過ぎない」と言います。

実際には未達のもの、そしてまだ供与元の国を出発していない武器もあるようなのですが、ウクライナ向けに出された武器弾薬が一定割合で行方不明になっているという情報も入ってきました。

「そんなはずは…」と考えて、別ルートでも調べてみるのですが、決して表立っては伝えられないこの“不都合な真実”は、どうもあながち嘘ともいえない内容のようです。

先週号で【ウクライナが武器のブラックマーケットになるかもしれない】という可能性について言及しましたが、どうも冗談では済まされないような気がします。

【関連】プーチンでもゼレンスキーでもない。ウクライナ戦争の真の勝者

ただし、それらのmissing weaponsが消えた先は、必ずしもウクライナだけではないようです。

ただし、自らが提供した武器弾薬の行方を欧米諸国は把握できておらず、それを認めることもできない状況に追いやられています。

ちょうど15日から16日にかけて、交渉による停戦を模索する独仏伊の3首脳が同じ寝台特急に乗ってキーフに駆け付けるという“パフォーマンス”が行われていますが、この訪問中のアジェンダの一つに【ところで私たちが供与した武器はどこに行ったんだい?】という事実確認と管理の徹底という厳しい内容が含まれているようです。

ただフランスとドイツが誇らしげに発表した武器弾薬は“まだ”ウクライナには届いておらず、それに対してゼレンスキー大統領とクレバ外相などが連日、不満を漏らすという構図はより鮮明になってきているのも“事実”です。

別の情報ルートでは「武器弾薬はある程度、届いているのだが、それぞれの性能にウクライナ軍の能力が全く追いついておらず、グレードアップして提供された武器を結局実戦に投入できず、結局宝の持ち腐れになっている」という指摘もあります。

開戦当初、毎日のようにニュースを賑わしていたジャベリンなどの“数時間から1日訓練すれば使えるようになる”レベルの武器とは違い、5月以降、供与されているもの、特にアメリカから投入される武器は想像以上に高性能なものが多く、
一定期間の訓練なしには全く使えないそうです。

おまけにロシアとの直接的な対決を避けたいバイデン政権と欧州各国の政府は、それらの武器を使用するための人員は提供していないため、結局、宝の持ち腐れとなっているようです。

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とはいえ、もちろんそんな涎がでるほどすごい装備が放置されていて黙っている人ばかりではないわけですから、かなり頻繁にそれらの高性能な武器が忽然と姿を消すそうです。

東部2州およびマリウポリなどを掌握したロシア軍が接収したという情報も流れており、それらも正しいと思うのですが、実際にはどこかに横流しされている可能性は否めません。もしかしたら、その行き先がロシア軍かもしれません。

そのことに気づきだした欧米の首脳たちは、最近になって、対ロシア・対ウクライナの態度を絶妙に変えてきています。

各国の政治日程が終わったこともありますが、各国国民のウクライナ離れと戦争疲れに対応すべく、転換が可能な国々(独仏伊など)は、じわじわとハードライナーから、和平交渉のお膳立てをするというソフトライナーに移行しつつあり、そしてそのトレンドに沿って、ウクライナに対する武器供与も控えるかスピードダウンさせています。そうすることで、プーチン大統領とロシアとの対話のチャンネルを再開しようとしていますし、同時に緊張関係を緩和することで、欧州のエネルギー危機への懸念を緩めようとする狙いが見え隠れします。

これまでのところ、プーチン大統領からの回答はネガティブで、今週に入ってドイツ向けの天然ガスパイプライン経由の供給を4割に絞り、揺さぶりをかけています。それもショルツ首相がキーフを訪れるタイミングで。

ドイツはメルケル首相時代に周囲からの懸念をよそに、ロシアへのエネルギー依存度を高めましたことで、今回のケースに対して何らかの責任が指摘され始めましたし、フランスのマクロン大統領については、“プーチン大統領との特別な関係”を強調することで国内外の支持を集めてきた経緯があります。そして一見、関係なさそうなドラギ伊首相も、欧州中央銀行総裁時代には、ロシア政府および富豪たちによる欧州各国への投資を後押しし、欧州のロシア依存を高めた一因を担っています。

つまり、今回の3首脳によるサミット旅行は、これらの過去のネガティブな情報を少しでも打ち消すためのフェイントとも認識できます。

ロシアからの直接的な安全保障上の脅威に曝されるポーランドやバルト三国については、最もハードライナーな姿勢を貫くしかありませんので、独仏伊のような“芸当”をすることはできませんが、これらの国々の対ロハードライナー姿勢は、もしかしたら“武器マーケット”への関与を覆い隠すための隠れ蓑という噂もでていることをお伝えします。

英国・ジョンソン首相については、独仏伊とは違い、まだ内政問題が山積みで、今、ソフトライナーに転じる余裕はなく、あくまでもロシアに厳しい姿勢で臨み、ロシアへの批判を強めることで、自らに向かう国民からの非難の矛先をかわそうとしているのが見え見えです。

ではアメリカはどうでしょうか?

表面的には、欧州各国に比べ、ウクライナへの支援に前のめりになり、供与額も量も群を抜いています。しかし、それはあくまでも表面的なことで、とても前のめりになり“プーチン憎し”となっている議会が次々と対ウクライナ支援をアップグレードしていくのに対し、実際に戦場に投入される武器はまだまだ少ないようです。

そして以前にも触れましたが、バイデン政権が長射程のハイマースを提供することを表明した際につけられた“条件”(ロシア領内に対して使用しないこと)を見ても想像できるように、ここにきてあまりプーチン大統領をこれ以上苛立たせないことを意図しているように思われます。

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それに加えて「アメリカ政府はプーチン大統領の体制転覆を意図しない」とまでわざわざ公言したのは、ここにきてどうしたのだろうかと勘繰りたくなります。

武器弾薬の追跡が不可能であるという不都合な真実に加えて、どうも武器供与およびウクライナでのビジネスに関して、とても不都合な真実をロシア側に握られ、ここにきて突き付けられているという情報も漏れてきています。偽情報による情報戦かもしれませんが、嘘と単純に片づけることもできないように思います。

そして今回のロシアとウクライナの戦争をめぐって忘れてはいけないステークホルダーがトルコです。

トルコの思惑については先週号でも触れましたが、仲介役を買って出ている裏で、世界でも有数の軍事大国であるトルコとトルコ企業がロシアとウクライナ双方に“同じ”武器を供与している(実際には売っている)ことをどれほどご存じでしょうか?

ちょっと国際情勢の裏側を深く覗き込みすぎて少し嫌になりますが。

一般市民に多くの犠牲者が出て、人間がもつ残虐さを目の当たりにする裏で、ものをいうのはやはりお金の流れのようです。

そしてお金の流れと言えば、今回のロシアによるウクライナ侵攻に際してロシアに課された“重い”経済・金融制裁でしょう。

国際的な決済システムのSWIFTからの排除や、石油の禁輸などはそれなりに影響があるようですが、欧米および日本のニュースで再三「そのうち破綻する」と言われているロシア経済には、2月24日以降100日を過ぎても、エネルギー関連で実に930億ユーロ(約13兆円)がロシアに流れており、そのうちの60%にあたる570億ユーロ相当が欧州各国からの支払いであったと言われています。

そしてその流れに拍車をかけているのが、今回の案件で中立の立場を貫くインドです。

インドはロシアとの良好な関係を維持することで、地域のライバル中国とのパワーバランスを取る方針を貫いており、同時に欧米諸国ともつかず離れずの立ち位置を維持することで、独自の外交力を発揮しています。

中でもインドがロシア産の石油・天然ガス・石炭の中継地の役割を果たしており、ロシア産の資源が、実はインドを経由して欧米各国に流れているという、なんとも皮肉な国際経済の実情を表しています。

それゆえにアメリカ政府も欧州各国もインドにアプローチして、対ロ制裁網に加わってほしいと要請していますが、インド政府は聞く耳を持っていません。

インドのモディ首相の側近とカジュアルに話したところ、「どうして、こんな素敵な立ち位置をわざわざ放棄するんだい?アメリカも欧州も口ではあれこれ言うけど、別にインド人の生活を見てくれるわけではないし、中国から守ってくれるわけでもない。それにいつも欧米諸国は上から命令調でいろいろと言ってくるけど、それは本当に気に食わない。ロシアから安価で天然資源が手に入り、各国がそれを、先を争うように買いあさる。その真ん中にインドがいるという構図が確立しているのに、どうしてそれをわざわざ手放すんだい?この図式が成り立つ限り、他国は皆、インドの発言を深刻に受け止めるし、中国とのカウンターバランスも確立してくれる。これが戦略なんじゃないのか?」と言われ、思わず「なるほど…」とうなってしまいました。余談ですが。

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ウクライナで次々と犠牲者数が増え、ウクライナ東部では日々激しい戦闘が続けられていますが、その裏で着々と進む、各国の独自の利害に基づく動き。これらが決して同じ方向を向かない中、戦争は激しさを増し、すでに終わりの見えない長期化を予想させる事態です。

世界規模で物価が上昇し、各国の株式市場を荒らすのみならず、私たちの日常生活に負担を強いることが明らかになってきたウクライナ戦争。

ロシアによる軍事侵攻は絶対に支持できず、日々増え続けるウクライナ市民の犠牲者の数に心を痛めながらも、徐々に私たちの日常生活に暗い影と不安を落とす状況に直面して、私たちはどこまでStand with Ukraineを貫くことが出来るでしょうか?

そしてこれまで“平和こそすべて”と連帯を示してきた私たち一般市民の思いの背後に、もし、政府の本気のサポートが存在せず、実際には全く違った方向を向いていたとしたら、どうでしょうか?

参議院議員選挙が近づくわが国でも、一度立ち止まってしっかりと考えてみるときが来ていると考えます。

私自身、戦争に関わってもう長く経ちますが、どんどん戦争の裏側が見えてくるにしたがって、どんどん恐ろしく、嫌になってきます。とはいえ、すべて辞めて逃げ出すことが出来ないのもまた事実なのですが。

今回、お話しした内容を信じることが出来ないかもしれませんし、私の妄想だと批判されるかもしれませんが、「そんなわけない」と扉を閉ざしてみる前に、一度、じっくりと考えてみてください。

どのような世界が見えてきたでしょうか?

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Володимир Зеленський - Home | Facebook

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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