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ヒカキンも歯が立たず?V tuberを多数抱えるANYCOLORの成長性と収益性が異常に高い理由

有名YouTuberの所属先として国内でもっとも有名なUUUM株式会社ですが、同じYouTubeを主戦場にしていながら、同社の8倍以上の時価総額を誇る会社をご存知でしょうか。そんな絶好調な企業を取り上げているのは、財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズ代表取締役で、iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授の村上茂久さん。村上さんは今回、V tuberを多数抱えるANYCOLOR株式会社のビジネスモデルを紹介するとともに、UUUMとの大きな違いを解説。さらにANYCOLORが今後もこれまでのような成長を続けられるのか否かついて考察しています。

プロフィール:村上茂久(むらかみ・しげひさ)
株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社CFO。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。

時価総額はUUUMの8倍。多くのV tuberを抱えるANYCOLORはなぜ営業利益率が30%もあるのか

今最も勢いのあるスタートアップ企業といえばどの企業を思い浮かべるでしょうか。色々あるかと思いますが、時価総額という点でいうと間違いなく注目すべきはANYCOLOR株式会社(以下、ANYCOLOR)です。ANYCLORは2017年に創業したV Tuberプロダクションの「にじさんじ」を運営する会社です。V tuberとは、バーチャルYouTuberのことであり、2Dや3Dのアバター(自分の分身となるキャラクター)を使っているYouTuberのことをいいます。

YouTuberといえば、ヒカキン、はじめしゃちょー、フィッシャーズといったトップYouTuberをイメージする人も多いかと思います。これらYouTuberを抱えるマネジメント会社であるUUUM株式会社(以下、UUUM)の時価総額は、229億円(2022年7月29日時点)です。

それに対して、多くの人気V tuberを抱えるANYCOLORの時価総額は1,841億円(2022年7月29日時点)。なんとUUUMの時価総額の8倍以上です(図表1)。それだけではありません。東証グロース市場の時価総額ランキングでは、ビズリーチを運営する人材会社のビジョナルに次いで2位に位置するほどです。

図表1

出所:Yahoo!ファイナンスより作成

ANYCOLORとUUUMは、同じYouTubeを主戦場にしているものの、なぜこれほどまでに時価総額の差があるのでしょうか。今回は会計とファイナンスを武器に、ANYCOLORとUUUMのビジネスモデルの違いを考察します。

売上高ではUUUMの方が上だが、利益額と利益率はANYCOLOR

時価総額ではANYCOLORの方が上ですが、売上高や利益はどうでしょうか。図表2及び図表3は、ANYCOLORとUUUMの過去3期分の売上高と営業利益を比較したものです。

図表2

出所:ANYCOLOR 2022年4月期有価証券報告書及びUUUM 2022年5月期決算短信より筆者作成

図表3

出所:ANYCOLOR 2022年4月期有価証券報告書及びUUUM 2022年5月期決算短信より筆者作成

売上高でみるとUUUMは、ANYCOLORの1.6倍以上あります。しかしながら、営業利益では、ANYCOLORの方がUUUMの4倍以上もあるのです。実際、営業利益率について、ANYCOLORは30%とUUUMの4%強の7倍の水準です(図表4)。

図表4

出所:ANYCOLOR 2022年4月期有価証券報告書及びUUUM 2022年5月期決算短信より筆者作成

さらに売上高の成長率をみても、UUUMはこの3年間220~240億円台で推移しています(図表2)[1]。一方、ANYCOLORは毎期増収しており、この3年間で4倍近くも売上が増えています(図表3)。

なぜこれほどまでにANYCOLORは成長性と収益性が高いのでしょうか。その理由は、ANYCOLORとUUUMとでは根本的にビジネスモデルが違うためです。

[1]なお、UUUMの決算説明資料によると、直近期は、会計基準の変更による影響を除けば増収になっていたとのことです。

UUUMは広告、ANYCOLORはコマースが主力

ANYCOLORとUUUMのビジネスモデルの違いを把握するため、それぞれの企業の売上の内訳を見てみましょう。

ここではまずはビジネスモデルが比較的わかりやすいUUUMから見ていきます。UUUMは売上の半分をYouTubeのアドセンス(広告)から得ています。すなわち、UUUM所属のYouTuberが動画を配信して、アクセス数に応じて広告料が支払われるという広告を主体にしたビジネスということです。YouTube経由の広告以外にも、企業からの直接広告としても売上の30%弱を得ています。

それ以外としてグッズ、イベント、音楽等から生み出されるクリエイターの売上はわずか16%です(図表5)。

図表5

出所:UUUM 2022年5月期決算短信より筆者作成

他方、ANYCOLORでは、売上の半分近くをコマースから得ています(図表6)。

図表6

出所:ANYCOLOR 2022年4月期有価証券報告書

ANYCOLORのコマースと言われてもピンとこないかもしれませんが、以下の図表7のようにV tuberに関するグッズやボイスコンテンツ等を制作し、販売しているのです。ヒットアニメのグッズがたくさん売れるように、V tuberのグッズやコンテンツもウェブ上で多く売れているということです(図表7)。

図表7

出所:ANYCOLOR 決算説明資料

他にもライブストリーミングで21%もの売上を得ています。ライブストリーミングは、YouTube上でライブ配信することを言います。ANYCOLORにおけるライブストリーミングの収益は、主にSuper Chat、YouTubeメンバーシップ、そしてアドセンス収益の3つから構成されています。

Super ChatとはYouTubeが提供するサービスであり、ユーザーが有料課金を行うことで、チャットに投稿するコメントが目立つようになります。そうなることで、視聴者は、V tuberとのコミュニケーションが取りやすくなるというメリットがあります。

YouTubeメンバーシップとは、特定のチャンネルに月額課金を行う有料会員のサービスのことを言います。最後のアドセンス収益は、UUUMと同じくYouTubeからの広告収入になります。

このように、YouTuberを抱えるUUUMと、V tuberを抱えるANYCOLORはともにYouTubeを主戦場にしているものの、売上の構成はかなり違っていることがわかります。

このことは、YouTubeの番組登録者数からみても興味深いことがわかります。UUUMの取締役であり日本を代表するYouTuberであるHIKAKINの代表的なチャンネルの登録者数は、Hikakin TVで1,080万人、Hikakin Gamesで登録者数は562万人もいます。他にもUUUMの代表的なYouTuberであるはじめしゃちょーは、1,020万人の、フィッシャーズは751万人もいます。再生回数でいうと、Hikikan TVはなんと99億回も再生されています。

これら圧倒的なチャンネル登録者数から再生回数を稼ぎYouTubeのアドセンス収入や企業からのタイアップ広告から稼ぐのがUUUMのビジネスモデルです。

一方で、ANYCOLORで人気のあるV tuberトップ3でみると、トップの壱百満天原サロメで153万人、2位のKuzuha Channelで136万人、そして3位のKanae Channelで105万人です。登録者数ではUUUMのYoutuberよりかなり少ない状況です。さらに再生回数で見ると、ANYCOLORトップはKuzuha Channelの4.9億回です。この数字はたしかにすごいのですが、HIKAKIN TVと比べると1/20程です。

このように登録者数や再生回数ではUUUMがだいぶ先行していますが、ANYCOLORはそもそも再生回数で売上高が決まるアドセンス収入(広告収入)をメインのビジネスとはせず、コマースを主戦場しています。そのため、ANYCOLORは、UUUMよりも高い成長率と利益率を実現でき、結果としてUUUMの8倍の時価総額にもなっているといえます。

UUUMとANYCOLORのビジネスモデルの違いは粗利率に現れる

売上高の構成からビジネスモデルの違いがわかったところで、続いて収益性について具体的に見てきましょう。図表8は、UUUMのP/Lを滝チャートで表現したものです。

図表8

出所:UUUM 2022年5月期決算短信より筆者作成

UUUMの利益率がそれほど高くない理由は、ひとえに売上原価が70%もあるためです。この売上原価というのは、YouTuberに支払うものです。すなわち、YouTube番組からの広告収入やタイアップ広告で得られた収益のうち、70%はYouTuber等へ支払われ、残りの30%がUUUMの売上総利益となるわけです。そのため、UUUMはどうしても原価率が高い、労働集約的なビジネスモデルになってしまうということです[2]。少なくとも今のように広告ビジネスを中心に据えるとなると、この利益構造は簡単に変えることは出来ません。

では、ANYCOLORはどうでしょうか。

図表9

出所:ANYCOLOR 2022年4月期有価証券報告書

ANYCOLORの原価率は58%とUUUMの70%と比べるとかなり低いです(図表9)。その理由は、ANYCOLORの売上の多くはコマースとライブストリーミングで稼いでいるためです。すなわち、YouTuberへの支払いが多くかかるUUUMとは異なり、原価率が抑えられているのです。

[2]UUUMのビジネスモデルについては以下の拙著の記事をご参照願います。
年間動画再生474億回。YouTuber事務所最大手UUUMのコスト構造に見る成長戦略の「泣き所」 Business Insider

ANYCOLORの売上に占める広告宣伝費の割合はわずか1%

低い原価率に加えて、ANYCOLORの注目すべき点は売上高に占める販管費及び一般管理費の割合が13%と、UUUMの26%の半分しかないところです。その結果として、ANYCOLORの営業利益率30%と、文字通り桁違いの利益率を叩き出しています。

ANYCOLORの販管費がUUUMよりも低い主な理由は、人件費にあります。UUUMの従業員数は572人に対して、ANYCOLORの従業員数は230人と半分以下です。このこともあり、売上高に占める給与の割合は、UUUMの10%弱[3]に対して、ANYCOOLORはわずか4%弱と半分以下になっているのです。

加えて、ANYCOLORの営業利益率の高さを支えているものとして、低い広告宣伝費もあげられます。ANYCOLORの広告宣伝費は1.6億円で、売上に占める割合はわずか1%です。

通常、Eコマースにおいては、店舗等の不動産賃貸料がかからないものの、認知を高めるために広告宣伝費が必須になります。多くのECコマース企業においては、売上に占める広告宣伝費の割合(以下、広告宣伝費率)は15~20%程と言われています。楽天の認知度を持ってしても、広告宣伝費率は21%にもなっているのです。

ECでかなり成功をしていると言われ、8月に上場をしたD to C(Direct to Consumer)のビジネスを手掛けるクラシコムでさえも広告宣伝費率は7%です[4]。

このクラシコムと比較してみると、ANYCOLORの広告宣伝比率1%は驚異的です。ANYCOLORにおけるコマースビジネスの売上高66億円だけで計算しても広告宣伝費率は2.5%とクラシコム7%の半分を大きく下回っています。

これだけ低い広告宣伝費率で、Eコマースビジネスが成り立っている理由は、V Tuberを通じて、顧客接点を長い時間持っているからだといえます。D to Cの成功形と言われるクラシコムも、実質メディア企業としてコンテンツを強化することで、Eコマースビジネスを伸ばしてきました。ANYCOLORの場合は、動画とキャラクターという2つを用いて一層コンテンツを強化し、顧客の滞在時間を長くすることで、低い広告宣伝費率を通じた高い利益率のビジネスモデルを確立できるようになったといえます。

[3]UUUM 2021年5月期の有価証券報告書より計算

[4]このように低い広告宣伝費割合が実現できているのは、クラシコムの世界観のためと言われています。詳細は以下の拙著の記事をご確認願います。

「北欧、暮らしの道具店」運営のクラシコム上場へ。年間2000万リーチの高収益D2Cはいかにして生まれたか Business Insider

ANYCOLORは今後もこの成長を続けられるのか

営業利益率で見ると、UUUMの4%に対して、ANYCOLORは30%と圧倒的に高いことがわかりました。このことがANYCOLORの時価総額がUUUMの8倍にもなっている理由の一つです。

加えて重要な論点は、ANYCOLORが今後も高い成長を実現できるかどうかという点です。一昨年の120%成長、昨年の86%成長と売上高につき、ここ数年高い成長率を誇ってきたANYCOLORですが、UUUMは240~250億円前後の売上高で足踏みをしている状況です。ANYCOLORも早晩売上高の天井が見えてくるのでしょうか。

UUUMとANYCOLORの直近の決算短信によると、来期の売上高と営業利益の予想は図表10のとおりです。

図表10

出所:ANYCOLOR 2022年4月期決算短信及びUUUM 2022年5月期決算短信より筆者作成

ANYCOLORは2020年~2021年度と比較するとさすがに成長率は下がっていますが、それでも34~48%とまだ高い成長率が見込まれています。UUUMは15~21%の売上高成長の予想をしていることもあり、売上の絶対額でいうとANYCOLORとUUUMではまだ差がありますが、営業利益の絶対額で見ると、ANYCOLORが圧倒しています。このように、ANYCOLORはUUUMよりも高い成長率と高い利益率を有していることで、株式市場では、ANYCOLORの時価総額はUUUMよりも随分高く評価されていると考えられます。

実際、PERで見ても、ANYCOLORはUUUMよりも40%近く高い評価がされています(図表11)。

図表11

出所:Yahoo!ファイナンス(2022年7月29日終値時点)より作成

これまで見てきたように、ANYCOLORはV tuberというアニメキャラクターを、UUUMは人気YouTuberを扱う企業として、ともにYouTubeを主戦場としていますが、ビジネスモデルはまるで違い、その結果として利益構造も大きく異なるものとなります。

世間における知名度や認知度でいうとUUUMの方がANYCOLORよりだいぶ高いといえますが、株式市場における存在感でいうとこれまで見てきたようにANYCOLORが圧倒的なのです。では、UUUMは今後どのような戦略で成長を目指していくのでしょうか。最新の決算説明資料では、図表12のことが書かれています。

図表12

出所:UUUM 2022年5月期決算説明資料

ここからも分かる通り、今後UUUMはアドセンスに加えて、グッズやP to C(Person to Consumer)等の事業の拡大を目指しています。この点については、UUUMよりもANYCOLORが大きく先行している分野だといえます。

YouTubeにおいては、かつては広告で儲けるビジネスモデルというイメージでしたが、ANYCOLORはV tuberを用いて、低い原価率と広告宣伝費率を通じたコマース事業を伸ばすことで、事業を大きく伸ばしていきましたし、UUUMも同様の方向に舵を切ろうとしています。

現在ANYCOLORとUUUMはYouTubeの市場で最も存在感が大きい企業です。この2社の動向を押さえることが、今後のYouTube、動画、そしてエンタメ市場の行方を占う上でも極めて重要です。是非注目してみてください。

image by: Shutterstock.com

村上茂久

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