世界で活躍する日本の企業は数多くありますが、その中でもユニクロは最も知られている企業のひとつです。そこで今回は、経営コンサルタントの梅本泰則さんが自身のメルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』の中で、 ユニクロの創業者・柳井正氏が記した一冊を紹介。ユニクロのフリースが大ヒットした頃までの初期の経営について書かれたこの本から、今のユニクロの経営への変化を読み解いています。
ユニクロ柳井正氏に学ぶ経営の本質
第二次世界大戦後、ゼロから世界の企業に育てた日本の経営者がいます。松下幸之助(パナソニック)、井深大(ソニー)、本田宗一郎(ホンダ)などは、その代表です。どなたも素晴らしいベンチャー経営者ですね。
その後、彼らの影響を受けて登場した経営者がいます。その彼らも、世界に進出し、事業拡大に奮闘中です。
代表的な人には、孫正義(ソフトバンク)、三木谷浩史(楽天)、柳井正(ファーストリテイリング)があげられます。どの経営者もスゴイですね。彼らは日本の優れた経営者の系譜といえます。この先、また新しいベンチャー経営者があとに続くことでしょう。
それはともかく、最近、一橋大学院楠木健教授の『戦略読書日記』(プレジデント社)を読みました。この本には22冊の本が紹介してあるのですが、その内の4冊が読んだことのある本でした。楠木教授が勧める本を読んでいたことが、何とも嬉しかったです。
そして、その4冊の内の1冊が柳井正氏の『一勝九敗』(新潮社)でした。この本は、柳井氏の最初の著作で、2003年に出版されています。20年近く前の本です。ここでは、ユニクロがフリースで大ヒットした頃までのことが書かれています。
実は、この本について、私の「読書ノート」にも記録がありました。そこで、そのメモの中から、いくつかの言葉を紹介します。きっとあなたの経営にも参考になると思います。
『一勝九敗』からの言葉
最初に紹介するのは、この言葉です。
失敗の要因は全て成功体験の中にある。
これは、よく言われることですね。なまじ成功体験があるばかりに、そこに頼ってしまい、環境の変化に対応できなくて上手くいかないということを指摘しています。いまなお1970年代から1990年代の高成長体験を引きづっているスポーツショップがあるのは、そういうことです。
商売と経営は違う。商売人は売ったり買ったりすること自体が好きな人、経営者はしっかりとした目標を持ち、計画を立て、成長させ収益をあげる人のことだ。
良い言葉ですね。さて、あなたはどちらでしょう。
キーワードは「目標、計画、成長、収益」です。そうして会社を発展させてきた柳井氏の言葉には重みがあります。これに関連した言葉も紹介しましょう。
到底無理だと思われる目標でも、綿密に計画を立て、それを紙に書き、実行の足跡とつねに比較し、修正していく。
いわゆる「PDCA」サイクルということです。中でも、「綿密な計画」と「比較修正」が重要だと思います。しかし、言うは易し、行うは難しです。柳井氏はこれを続けてきたからこそ、今があるのでしょう。
そして、最も大事なことが書かれています。
会社を経営するうえで一番重要なのは、「どういう会社にしたいのか」と「どういう人たちと一緒に仕事をしたいのか」を明確にすることだ。
つまり、会社のビジョンが重要だと言っています。「どういう会社にしたい」だけでなく、「どういう人たち」に焦点を当てているところが凄いです。人のことを、あまり多くの経営者は語りません。とても奥の深い言葉です。
以上、4つの言葉を紹介しましたが、まだまだ参考になる言葉がたくさん書かれています。柳井経営の本質がこの本にあると言っていいでしょう。あなたにも参考になるのではないかと思います。
柳井氏の考え方の変化
さて、「一勝九敗」から20年近く経ちました。その頃の売上約3,400億円から2兆1,300億円にまで成長しています。柳井氏の考えは、どのように変化しているでしょうか。それとも、変わっていないでしょうか。
ここに、2021年3月のハーバードビジネスレビューに載った柳井氏のインタビュー記事があります。その中の言葉をいくつか拾ってみましょう。
自分たちが信じることを成し遂げるためには、事業を通じて収益をあげ、社員を教育しながらチームとともに前進することで、組織として成長を続ける必要があります。そのためには計画と準備が不可欠です。毎日毎日、愚直に計画を見直し、入念な準備を行うことが、本来の仕事というものではないでしょうか。
『一勝九敗』と比較すると、「社員の教育」「チームとともに」ということばが加わっています。より人を重んじるようになっているのでしょうか。
「ビジョン」の話も出てきます。
経営者は、会社が将来どうありたいかということと、現実の事業をどう回していくかということ、どちらか一方ではなく両方を考えなければいけません。
「ビジョン」と「現実」を同時に考えることが必要だということです。経営者は、どちらかに偏ってしまいがちですからね。
そして、経営の本質について、こう言っています。
時代がどれだけ変わっても、経営の本質は変わりません。教科書に書かれている小手先の経営戦略をいくら身につけたところで、何かを得られることはない。
なかなか、厳しい言葉ですね。柳井氏は経営の教科書をしっかり学んでいるはずです。そのうえで、あえてこう言っています。経営者は、経営の本質を深く考え、実行して身につけよということでしょうか。
いかがでしょうか。20年経って、表現は少し違っていても、柳井氏の考えの本質は変わっていないことが分かります。結局は、なりたい会社の姿を明確にし、社員とともに実行していくということに尽きます。
経営者に必要なのは、その意志の強さです。そうでなければ、ここまで会社を引っ張ってくることはできません。そんなことを柳井氏の言葉から学ばせてもらいました。
■今日のツボ
・経営者とは、目標を持ち、計画を立て、成長させ収益をあげる人
・経営で最も重要なのは「ビジョン」を持つことである
・時代がどれだけ変わっても、経営の本質は変わらない
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